シャーシ加工

アンプは,金属製の箱に穴を開け,トランスや真空管等を取り付て作ります。この金属製の箱のことをシャーシ(シャシー)と呼びます。シャーシはほとんどがアルミ製です。
この章では,シャーシの製作方法を説明しています。

シャーシを自作するか,外注するか?

アンプの自作で,みなさんが二の足を踏むのが,このシャーシ加工です。 シャーシは,アルミの箱に穴をあけて製作します。
ソケットを取り付けるのは丸い穴ですし,タムラのトランスを取り付けるための穴は四角です。また,開ける穴の大きさも異なります。
アルミの箱に穴を開けるわけですから,工具が必要ですし,力も必要です。そして,なにより作業場所の確保もたいへんです。
シャーシの自作は困難だという方は,専門の業者にシャーシの製作を依頼してもよいでしょう。お店はインターネットなどでお調べください。なお,業者に依頼する場合には,詳細な寸法図面が必要ですが,佐久間アンプで使用するタムラトランス,山本音響工芸,ONのソケットは寸法図が公開されていますので,図面を作るさいの参考となります。

シャーシ自作の一例

私はパソコンソフトのイラストレーター(Adobe社)を使ってトランスやソケットのレイアウトを考えます。
レイアウトが決まったら,それをプリントアウトして,奥澤のシャーシに貼り付けています。奥澤のシャーシには保護用のビニールが貼られていますが,そのビニールの上から,プリントアウトしたレイアウト図を3M社のスプレーのりで貼り付けています。
次に,レイアウト図を元に,穴を開ける位置にセンターポンチでドリルを立てる位置にへこみをつけます。

トランスの取付用ねじの穴の直径は5ミリ等ですが,最初は3ミリのドリルで下穴を開けるようにしています。
取付穴がずれたときは,ずれている穴をもう一回り大きなドリルの刃を使って広げるか,やすりで調整します。

タムラのトランスの取付には,四角い穴をあけます。
センターポンチは,トランスの止めネジなどの位置のほかに,トランスの四角い穴の各辺の中心に打っておきます。ここに10ミリの穴をあけ,そこへ電気ジグソーのアルミ用の刃を差し込んで,四角い穴を切り抜いています。



これらの穴あけはアルミの削りくずがいっぱい出るので,ホームセンターで買った,セメントをこねるプラスチック製の「舟」にシャーシを入れて作業をしています。

ソケットの穴(直径30mm),オイルコンデンサーの端子の穴やONの入力端子(ともに直径20mm)は,電気ドリルにホールソーを付けて開けています。
ホールソーは各メーカーから出ていますが,兵庫県の神東工業(株)の「アイアンホールソー」はアルミとも非常に相性がよく,使いやすい物です。ホームセンターで取り扱っていますが,ホームセンターの系列によっては置いていない店もあるようです。

ボリューム,ハムバラ,スイッチ,ヒューズホルダーの穴は,円錐ドリルを使って開けています。手動のリーマーでもかまいません。

シャーシ加工に必要な工具

シャーシ加工をする場合必要な工具を紹介します。
ほとんどの工具は,ホームセンター等で購入できますが, すべて揃える必要はありません。必要と思う工具を買い足していってもよいと思います。

穴をあける道具

シャーシ加工と,シャーシに穴を開ける作業です。アルミの板を折り曲げたり,といった作業はしません。 穴開けの方法にはさまざまな方法があるので,自分に合うと思われる方法を見つけ,それに必要な道具を購入してください。

小さな穴を開ける(ネジ穴など,直径10ミリ以下)

小さな穴を開けるには

1.センターポンチをあてカナヅチで叩く。この時センターポンチをしっかり押さえないと,跳びはねてあちこちに型が残ります。
2.ドリルはしっかり押さえてください。
3.直径5ミリ以上の穴は,なれないうちは下穴として小さな穴を開けて,その穴を広げる要領で開けた方が楽です。

必要な工具

・ドリル

電気ドリルがお薦めです。日曜大工センターなどで売っている1万円以下の物で十分です。このへんのクラスですと,どのメーカーのものも大差はありません。回転数が可変のものを選んでください。直径10ミリのドリルの刃が付けられると非常に便利です。

・センターポンチ

穴を開ける箇所に窪みを付けてドリルの刃の先端がずれないようにする道具です。
300円くらいですので,ぜひ買ってください。もちろんカナヅチも必要です。カナヅチ不要のセンターポンチもあります。単純な道具ですが,必須です。

・ドリルの刃(以下ドリル)

アルミには「鋳物,アルミ用」のものがベストです。
ただ,鋳物,アルミ用のものは,あまりみかけませんので,鉄鋼用のものでも大丈夫です。
主に使うのは3,4,5,6,8ミリの太さです。
この他に10ミリの太さのものがあると,作業がはかどります。これは鉄用ものでかまいません。
0.5〜8ミリくらいのものがセットになったものが売られていますが,切れ味はバラ売りのものがよいようです。

・切削油

ドリルや金ノコ,ジグソーの刃に切削油を塗ると,切れ味がまるで違います。油の種類はホームセンターでいろいろと販売されてます。本来は目的にあったものを選ばないといけないのですが,シャーシ加工程度なら,一番安価なもので大丈夫です。私は,ペンタイプのものを使用しています。

ソケットやスピーカー端子くらいの穴を開ける(12〜30ミリ)

・リーマー

ドリルで開けた穴を30ミリくらいまで広げるためのものです。スピーカー端子などを取付ける穴をあけます。

・シャーシパンチ

18ミリ,28ミリなどの決まった大きさの穴を開けるときに使います。真空管のソケットなどの穴を開けるのにつかいますが,シャーシパンチの穴の大きさに合うソケットでないと宝の持腐れになります。ただしオクザワのシャーシ01は2ミリの厚さがありますから,穴をあけるには,かなり力を必要とし苦労します。
シャーシパンチについてるハンドルでは,手が痛くなります。私は,レンチでシャーシパンチをつかんで回しています。強引ですが,2ミリのアルミなら,刃が欠けることもありません。

大きな穴開けあれこれ(845用等の大型ソケット,タムラトランスの取付穴)

タムラのトランスの穴は四角ですので,開けるのに手間がかかります。いくつかの方法を紹介します。

●電動のジグソーを使用する

電動のジグソーを使うと,実に簡単に作業できます。ジグソーは日曜大工店で1万円以下もので十分です。
一番大切なのは,取付ける刃に,「アルミ用」の刃を使うことです。
電動工具を使用する場合は,目などを守るための安全用具がありますので,必ず利用してください。有害な周波数をカットする耳栓も売られています。
なお,ドリルやジグソーで穴を開ける時も,シャーシの保護用フィルムは貼ったままにしておきます。

・金ノコ

電動のジグソーの代わりに金ノコを使用します。金のこは,刃の一端を固定するタイプの物を使います。 なお,金ノコの刃は,押したときに切れるようにセットします。木工用ののこぎりとは刃の付け方が逆になります。

●穴つなぎ法

1.ドリルで小さな穴をたくさん開ける
2.穴と穴をニッパでつなぐ
3.やすりで仕上げる

・ニッパ

ドリルで開けた穴と穴を繋ぎ広げます。ニッパには電子工作ようの精密なものもありますが,刃の部分がボロボロになりますので,日曜大工センターで安売りしているもので十分です。

●ハンドニブラーを使用する(改造等)

1.ドリルで10ミリ以上の穴を開ける。
2.ハンドニブラーで食いちぎっていく。
ただし,2ミリ厚のシャーシ全体を仕上げるのは刃こぼれなどが生じるので不可能です。使用するにしても小規模の改造程度です。

・ハンドニブラー

2〜3千円くらいです。使い慣れると便利なものですが,やはり2ミリのアルミをきるにはかなり力が必要です。作り上げたアンプの改造などには役にたつことが多いようです。

●やすりを使用する

1.シャーシパンチなどで開けた穴をやすりで広げる。
やすりで穴を広げると聞くと,気の長い話に聞こえますが,30pくらいの長さのアルミ用のやすりを使うと実にあっけないくらい簡単に穴が広げられます。
タムラのトランスでは,取付穴が真四角でない物がありますが,そういうトランスの四隅などの加工にはハンドニブラーより,やすりを使用する方が簡単で便利です。 「アルミ用のやすり」を使うところがポイントです。2000円も出せば手に入ります。

・やすり

やすりは穴を広げる大型のものから,わずかにずれた穴を広げる細いものまで,必要に応じて購入してください。
あまり安価なものや,安売りのものは,杖が抜けたりしますので注意してください。

●油圧式シャーシパンチを使用する

このほかの道具として,油圧パンチがあります。 大変便利です。タイト製のソケットなどの穴がじつにきれいにあきます。
油圧パンチは買うこともできますが,刃が高価なので,お勧めはできません。

作業中の注意

シャーシ加工をすると,アルミの切り屑が必ず出ます。
ジグソーを使うと切り屑は飛び散りますし,はげしい騒音もでます。
また,どの作業も,特にジグソーの場合は,必ず目の安全の為にゴーグルを付けてください。
ゴーグルもホームセンターで売られています。
目の安全はもちろんですが,安心感がでるので作業のはかどります。
また,電動工具を使用する場合は,軍手は禁物です。ドリルに軍手が巻き込まれて,手に大けがをする場合もあります。

穴開け各論

つぎは,実際に穴をあける時の,注意,コツなどについて説明します。

トランスの穴

トランスを取り付ける四角い穴は,各辺のに10ミリの穴を開けて,ジグソーまたは金ノコで切ると作業が簡単です。10ミリの穴だと,チョークトランスA-4004などでも,完成後,表からは見えなくなります。ただし,TNシリーズのトランスなどは,表からも穴が少し見えてしまうので,作業の工夫が必要です。
TNシリーズの穴は隅が複雑な形をしています。この部分はヤスリなどで整形します。

ソケットの穴

ソケットを取り付けるためには,真ん中の大きな穴と,ソケット取付用のネジ穴2個を開けなくてはいけませんが,一気に3つの穴をあけるとずれて失敗することがあります。
一番目立つところですし,スペース的に余裕もあまりないので,修正は困難です。
まず大きな穴を開けます。センターポンチは真ん中の穴のものだけ打っておきます。
穴が開いたらソケットの実物をあてがい,取付穴の位置を印します。この時,ソケットの端子(真空管の足がささる金具)がシャーシに触れていない十分に注意してください。
山本音響工芸のソケットなら,シャーシに触れる心配はありません。
ソケットを壊さないという自信があれば,ソケットをガイドにしてドリルをたてるのがベストです。ソケットをガイドにしてすこしドリルを回転させてくぼみを作ります。その後ソケットをはずして,先ほどのくぼみにあわせて穴を開けます。 取付穴をひとつ開けたら,また現物あわせをしてください。ソケットがぐらつくようでしたら,取付用のビスで借り止めしても良いでしょう。こうしてもう一度位置を再確認して,残りの取付穴を開けるとうまく行きます。
もちろん,定規を使って正確に穴が開けられれば,こういった事はしなくてすむのですが,素人の場合,なかなそうはいきません。
うまく開いたようでも,少しでも穴がずれていると,ネジ止めるときに割れてしまうことがあります。すこしでもきつかったら,ネジどめを止めて穴の方を修正してください。無理をすると大切なソケットが割れます。

TKS-23 の穴も同様です。しかし,これはシャーシの中に隠れますので,少々ずれて,穴を広げても大丈夫です。穴がうまくいかないようなら,細いやすりで,中心の穴から,取り付けのネジ穴まで細長く削っていってもかまいません。

電源スイッチ,ハムバラ,入出力端子の取付穴は,トランスなどをシャーシに付けてから開けると,シャーシがトランス等の重みで固定されて穴が開けやすくなります。
また,スピーカー端子等が,すでに取り付けてあるソケットなどに触れないか,また,十分な距離が確保できているかなどの点もチェック出来ます。

穴の修正

穴があけ終わったら,パーツを付けてみて,ずれなどがないか確認してください。 現実には,なかなか上手に穴はあけられません。不都合があった場合の対処について説明します。

穴がずれていた

トランスの止めネジは,もうひとまわり大きな穴を開けても結構です。ソケットの止めネジなどは,細いやすりを使うのが便利でしょう。

ネジ穴が大きすぎた

ネジ穴を大きく開けたときは,大きなワッシャーなどを重ねて止めます。

可変インダクター(VL)の穴

VLの端子は小さく,ハンダ付けがやっかいです。そこで,VLの端子が通る穴は,シャーシの裏側から,10ミリくらいのドリルですり鉢状に広げておくとハンダづけが楽になります。ただ,穴は一気に広がることがありますので,注意してください。
可変インダクターは,非常に入手困難です。しかも,どうも1個ずつ,微妙にとりつけビスの位置が違います。 穴は現物あわせで開けてください。また,止めネジもしめすぎると,ビスがはずれてしまします。 デリケートな取り付けなので,くれぐれも注意してください。

ボリューム

ボリュームには滑りどめの出っ張りがありますが,これはニッパなどで切ってしまってかまいません。
ネジで止めるだけで十分に実用になります。
金属製の滑りどめは,4ミリくらいの穴をあけます。穴開けを途中までにすると,表から見えません。音量調節のボリュームにはつまみがつきますので,滑りどめの穴は表からは見えなくなります。
滑りどめ用の穴開けは,現物あわせが確かでしょう。
まず,軸が通る穴をあけ,滑りどめの出っ張りに水性マジックなどを塗り,シャーシにこすりつけて,それを目印にしてあけてください。もちろん,あらかじめ寸歩を計っておいて開けることもできます。

三角板の作り方

シャーシの足をつける三角板の作り方です。シャーシの補強も兼ねています。
一番のおすすめは,サン・オーディオでから購入することです。
佐久間アンプを作るので,奥澤の01シャーシ用の三角板が欲しいと言えば大丈夫です。
自作の場合は,3ミリのアルミ板を切って,三角板を作ります。
アルミで作るのなら,厚さ2ミリでは薄いです。
2ミリ位のアルミ板なら,両面からカッターナイフで筋を入れて,この筋に沿って何度か折曲げれば簡単に切れるのですが,アルミの3ミリとなると,固いので,そうはいきません。金のこが必要です。
型紙をアルミに貼っておいて,シャーシへの取り付け用ネジ穴や,ゴム足用の穴は,先にあけてから切り離すようにしてください。
シャーシに止めるネジ穴は,よく01シャーシを見て位置を決めてください。正確に開けないと,ナットが入らなかったりします。
サン・オーディオの物は,シャーシへの取り付け穴,ゴム足用の穴もきれいに開けられています。
また,ホームセンターで売られている,棚などを組み立てるLアングルの補強用に使用するコーナー板で流用できるものがあるかもしれません。以前は,よく見かけたのですが,最近は形状が変わってしまいました。

塗装

シャーシがアルミですので,そのまま普通の塗料を塗ったのでは,はがれてしまいます。
佐久間アンプの見事な塗装は,塗装のプロの野倉さんの手によるものです。素人だと,なかなか,ああいうふうにはなりません。
経験からいくと,スプレーの塗料をふきつけるだけでは,安っぽくなってしまいます。
特に佐久間アンプはトランスが密集していますので,シャーシが上の真空管やトランスのプロポーションに負けてしまい見ていられません。

私はアルミの地肌の色も好きです。時間がたつに従って,くすんでいきますが,なにか時間がたつのが分かるようで,滅多なことでは,塗装をしません。
また,改造する可能性が少しでもある場合は,塗装も考えものです。

塗装する場合は,私は以下のような手順で塗装を行なっています。

1シャーシの脇の隙間をパテで埋める

せっかく塗装するのですから,シャーシの側盤の合わせ目の隙間をうめたいものです。
自動車のへこみ修理用のパテが最適ですが,乾くと固くて微調整がききません。
私はプラモデル用のポリエステルパテを愛用しています。プラモデルメーカーのタミヤなどから発売されてます。乾いてもカッター等で加工できます。なお,同じプラモデル用のパテでも,ラッカーパテは,シャーシ加工にはむきません。いつまでたっても内部が硬化しないことがあります。
ポリエステルパテは,プラモデル用以外にも,補修材として販売されているものもあります。
パテがついては困る箇所にマスキングテープを貼ってからパテ埋めすると,後の作業が楽です。

2塗料がついては困るところをマスキングする

トランスの止めネジはシャーシにアースされています。トランスのネジ止め穴の周囲に塗料が着くと,アースが不完全になっていまします。そのために,トランスの止め穴には,シャーシの裏と表からもマスキングテープをはります。
止めネジのマスキングがすめば,シャーシの裏面をマスキングします。面積が大きいので,新聞紙などを利用してもよいでしょう。

3メタルプライマーを吹き付ける

アルミに塗装する場合に必須です。ホームセンターなどで入手可能です。
なお,メタルプライマーを吹き付ける前に,シャーシは台所用洗剤で,油分,汚れなどを落としてください。
さらにサンドペーパーでこする人もいますが,最近のメタルプライマーは性能がよいので,アンプのシャーシなら,サンドペーパーがけは不要だと思います。
また,車の塗装に使う油除去のスプレーがありますが,このスプレーで浮かした油を取るのが難しいようです。台所用の洗剤をお勧めします。また,メタルプライマーは十分に乾燥させてから塗装を行ってください。
メタルプライマーは塗料以上に臭いが強烈な物もあるので注意してください。

4塗装

メタルプライマーを塗れば,その上に使用する塗料は油性・水性どちらでも大丈夫です。ただし,クラフト用のスプレーは塗装膜が非常に薄いので,すぐに傷が付いてしまいます。配線作業中にラグ板を付けるための穴を開けることもありますので,塗装はしっかりしたものにしておく必要があります。
私は,アクリル絵の具を使かうこともあります。
水性の絵の具で,小学生が学校で使う,水性絵の具を同じように水でといて使います。乾くと,ビニールのような皮膜を作り,塗装した後で,開け忘れていた穴などをドリルであけてもびくともしません。

5クリアーを塗る

クリアーを塗って仕上げれば,よりうつくしく仕上がりますし,塗膜が丈夫になります。

6シャーシの内部を拭く

マスキングをはずしたあとで,シャーシの裏をペイント薄め液などで綺麗に拭いて,回り込んだ塗料をふき取ってください。目に見えなくても,スプレーの塗料はまわりこんでいるものです。特にネジ穴の部分は念入りにお願いします。


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