【コラム】トラベルする数字たち

 このページでは、今までとは違った視点で盤面を見てみます。
 列やブロックといった物から少し離れ、3×9や1×3という特殊な形の領域をメインに据えて考察していきます。
 聞き慣れない用語が結構多いので、理解はちょっと大変かも。
 (難易度:★★★★)

1.少し独特な世界へようこそ!

 今から皆さんにするお話は、少し独特な世界のお話です。
 ナンプレ盤面の3分の1という、ちょっと小さな世界。
 そして、3つ連ねたマスたちと数字たちが織りなす世界です。

図 1-1

 図1-1 を見てみましょう。
 まぁごく普通の完成図です。
 何百何千と解いてきた皆さんが山ほど目にした物です。
 あっ、横並びの3マスをひとまとめにしちゃってます。ご注意ください。
 盤面に違和感があるかもしれないけれど、まぁわかるでしょう。

 ここで注目すべきところは、盤面の3分の1です。
 つまり、ブロック3個分の矩形領域。
 ブロックを1個ずつ順に見ていくと、数字の場所が移り変わります。
 その変遷をたどってみましょう。

図 1-2

 まずは、上段の3分の1。
 左端のブロック、数字1, 2のペア(赤色)に注目しましょう。
 そこから右へ右へとブロックに目を移していくと、ペアはそろって1つ下のヨコ列へと移動していってますね。

 じゃぁ、数字3(青色)はどうか。
 これは1つ上のヨコ列へと移動しています。

 次は、下段の3分の1。
 この領域では、3つの数字7, 8, 9が仲良く一緒に1つずつ上へ上へと移動していますね。

 方向の違いはあれど、どれも一段ずつ移動している。
 実は、この「段階移動」が大きなカギを握っているんです。

 ナンプレというパズルは9×9の中に大きな世界があります。
 だけど、実は、3×9の中にも小さな世界を持っている。
 そして、その世界では「段階移動」に大きな秘密があるという……。

 何言ってんだかサッパリわかんないですよね😅
 後々この段階移動のことを「トラベル」というワードで表しますが、この小世界では「トラベル」が大きなキーワード。
 まぁまぁまぁ、今はわからなくてもOKです。このページを読んでいけばわかります。
 とりあえずこの独特な世界に飛び込んでみましょうか。

図 1-3

 さて、これからこの世界に触れていくわけですが、まずは前準備が必要です。
 なんせ見慣れない世界なので、新しいワードが押し寄せてくる😅
 用語をいろいろ紹介しなきゃいけません。

 まず、世界そのものである3×9の領域。
 これを chute(シュート)と呼びます。

 chute は2種類あります。
 9×3サイズでタテ長の chute、これを tower と呼びます。
 3×9サイズでヨコ長の chute、これを floor と呼びます。
 図1-3 の青色領域は tower ですね。
 図1-2 は floor 内部での段階移動を説明しています。

図 1-4

 次は、列とブロックの交差箇所です。
 図1-4 では青色列と黄色ブロックが交差していますね。交差箇所は緑色で表しています。
 この領域のことを intersection と呼びます。

 もちろん、列はタテとヨコの2種類ある。
 ということは、intersection も2種類あるわけですね。
 タテ列とブロックの交差箇所、これを boxcol と呼びます。
 ヨコ列とブロックの交差箇所、これを boxrow と呼びます。
 図1-4 の緑色領域は boxrow ですね。

 ちなみに、この2つは造語です。
 box&column、box&row から来ています。

図 1-5

 このページで繰り広げる世界は9つのエリアに分かれています。
 図1-5 の形です。
 これは、ナンプレ用語を使うと次のように言い表せます。

  • floor は9つの boxrow に分かれている。
  • tower は9つの boxcol に分かれている。

 図1-2 では「段階移動」を説明しました。
 これは、こう言い方もできます。

  • floor 内部では、数字は3つの boxrow を斜めに渡り歩いている。
  • tower 内部では、数字は3つの boxcol を斜めに渡り歩いている。

 いっぱい用語が出すぎてホントすいません😅
 でも、この新しい世界では必要な物ばっかりなので、なんとか覚えちゃってください😊
 これらを覚えれば、前準備は完了です。

2.トラベルって何ぞや?

 では、いよいよこの独特な世界へ旅立ちます!
 用語はもう少し出てきますが、追い追い説明していきます。

図 2-1

 図2-1、黄色の chute を見てみましょう。
 横長の chute(つまり floor)ですね。
 あっ、マス単位ではなく boxrow 単位で盤面を表しているので、図2-1 の1区画は boxrow だと考えてください😊

 今、左端のブロックに9つの数字が入っています。X, Y, Zとしましょう。
 XXXなどと同じ文字で書きましたが、これは異なる3個の数字を表します。
 ここでは、これを トリプレット と呼ぶことにしましょう。

 このセクションでは、トリプレットにおいて数字の並び順は考慮しません。

図 2-2

 左端ブロックに9個の数字が入った状態で、他のブロックにも数字を入れて floor を完成させてみます。

 真ん中のブロックでは、赤枠内の boxrow にしか数字Xは入りません。
 その2つの boxrow に数字Xを何個割り当てるかに応じて、完成形は全部で4種類できあがります。
 その4パターンについて解説していきます。

 ここでは、次の2つに大別して説明しましょう。

  • トリプレットXXXが片方の boxrow にまるごと入る場合。
  • トリプレットXXXが2対1に分かれて boxrow に入る場合。
図 2-3

 まずは1つめ。
 トリプレットXXXが片方の boxrow にまるごと入る場合。
 これは2通りありますね。

  • 【パターン1】2行目にXXXが入る。
  • 【パターン2】3行目にXXXが入る。

 この2通り。
 chute を埋めていくと、それぞれ 図2-3 の通りになります。

 さて。
 ここで、数字の移動をちょっと確かめてみましょう。
 前セクションの 図1-2 でやったヤツです。

図 2-4

 まずはパターン1。
 XXXは斜め下の boxrow に移動していますね。
 YYYもZZZも同様です。
 次はパターン2。
 どのトリプレットも斜め上の boxrow に移動しています。

 このように、数字は斜めに移動するんですね。
 正確に言うと、右1つ分&上下1つ分ずれた boxrow に数字が移動します。
 この移動のことを、トラベル と呼ぶことにしましょう。
 方向も含めて「上にトラベルする」「下にトラベルする」と言うことにします。

 さて、上記により、トラベルの性質が1つ判明しました。
 トリプレットが揃ってトラベルする場合、次のことが成り立つんです。

  • トリプレットは3組とも同じ方向にトラベルする。
図 2-5

 次は2つめ。
 トリプレットXXXが2対1に分かれて boxrow に入る場合。
 これも2通りあります。

  • 【パターン3】XXXが2個と1個に分かれて入る。
  • 【パターン4】XXXが1個と2個に分かれて入る。

 この2通り。
 chute を埋めていくと、それぞれ 図2-5 の通りになります。

 トリプレットが2対1に分かれるということで、ここでは2個の方を ペア、1個の方を シングル と呼ぶことにしましょう。
 また、ペアとシングルを区別するために、シングルは文字を小さくしてみました。
 chute を見てみると、どの boxrow にもペアとシングルが同居していますね。

図 2-6

 さて、この2通りについて、トリプレットの移動を追ってみましょう。
 まずはパターン3。
 ペアXXは下にトラベルし、シングルXは上にトラベルしていますね。
 YYYもZZZも同様です。
 次はパターン4。
 ペアは上にトラベルし、シングルは下にトラベルしています。

 というわけで、トラベルの性質がもうひとつ判明しました。
 ペアとシングルに別れてトラベルする場合、次が成り立つんです。

  • ペアは3組とも同じ方向にトラベルする。
  • シングルは3つとも同じ方向にトラベルする。
  • ただし、ペアとシングルではトラベル方向が上下逆である。

 この「上下逆である」は密かに重要な性質です。
 なので、特に頭に入れておきましょう😊

図 2-7

 図2-7、具体的な盤面で説明しましょう。
 上段の floor を見ると、数字5と7が一緒にトラベルしてますね。
 この5, 7がペアです。

 そして、数字2は単独でトラベルしていますね。
 これがシングルです。
 ペアとは逆方向にトラベルしていることにも注目です。

 下段 floor では数字1, 4, 8がずっと一緒ですね。
 3個そろって上にトラベルしています。

図 2-8

 縦長の chute(つまり tower)についても同様です。
 サラッと説明しましょう。

 トリプレットが揃ってトラベルする場合、

  • トリプレットは3組とも同じ方向にトラベルする。

 ペアとシングルに分かれてトラベルする場合、

  • ペアは3組とも同じ方向にトラベルする。
  • シングルは3つとも同じ方向にトラベルする。
  • ただし、ペアとシングルではトラベル方向が左右逆である。

 tower におけるトラベル方向は「左右」であることに注意してください。

 さて、トラベルについて解説しましたが、いかがでしょうか?
 なんだかややこしくてホントすんません😓
 でも、このトラベルの性質は重要になるので、なんとか頑張って理解していってください😊

3.トラベルはこんな感じではたらく

 前セクションでは、トラベルの概要を説明しました。
 今度は、実際の盤面でトラベルを見てみます。
 chute 内部でトラベルがどういうふうに機能するのかを解説します。

図 3-1

 図3-1 で説明していきましょう。

 初期状態から少しだけ手が進んだところです。
 中段の floor(黄色)が少し埋まっていますね。
 この floor に対してトラベルを考察してみます。

図 3-2

 まず、3つの黄色 boxrow(図3-2)を見てみましょう。
 ひとつは526、ひとつは692。
 数字2と6が2部屋に同居していますね。
 この時点で、2と6が「ペア」を組んでいることがわかります。

  • 中段 floor において数字2, 6はペアを組み、上にトラベルする。

 ペアがいるということは、当然、シングルもいるわけです。
 ペア2, 6と boxrow に同居している数字、これがシングルです。
 5と9ですね。

 ちなみに、数字5は下にトラベルしています。
 これは、前セクションで述べたこの性質の通りですね。

  • ペアは3組とも同じ方向にトラベルする。
  • シングルは3つとも同じ方向にトラベルする。
  • ただし、ペアとシングルではトラベル方向が上下逆である。
図 3-3

 さぁ、5と9がシングルだとわかりました。
 それを踏まえて、今度は緑色 boxrow(図3-3)を見てみましょう。

 中段 floor にはペアとシングルの両方がいます。
 だから、この boxrow にもペアとシングルが同居しています。
 数字5はシングルでした。
 じゃぁ、残りの1と8は……?

 そうです。ペアなんです。
 ペア2組目の誕生です!
 数字1と8について、これが成り立ちます。

  • 中段 floor において数字1, 8はペアを組み、上にトラベルする。

 あ、図3-3 では既に数字1が上にトラベルしてましたね。
 ペアの片鱗が見えてた😓

図 3-4

 まだペアかシングルか判明していない数字は3, 4, 7の3つ。
 ここで、左側ブロックの数字4に注目しましょう。
 あと、中央ブロック(黄色)も。

 中央ブロックは3マス空いてますね。
 そのどこかに数字4が入ることになりますが……。
 あれ?
 どこに入ろうとも、数字4は必ず下にトラベルすることになりますね。

 なんと、数字4はシングルだと判明しました!
 なぜなら、シングルである数字5とトラベル方向が同じだからです。
 そうなると、残った2つの数字3, 7は3組目のペアになるんですね。

図 3-5

 以上のことから、中段 floor では数字達はこういうトラベルをするはずです。

  • 【ペア】2と6, 1と8, 3と7の3組。上にトラベルする。
  • 【シングル】4, 5, 9の3個。下にトラベルする。

 じゃぁ、このナンプレを解いてみましょう。
 果たして、上記の通りになるかな……?

 完成図は 図3-5 です。
 おぉ、まさに上記の通りにトラベルしてますね!

 盤面の大半が埋まってくると、他の floor や tower に対してもトラベル内容が詳しく判明するようになります。
 そして、そのトラベルに基づいて数字が埋まりやすくなったりするんです。

4.実際に解いてみよう!

 今度は、トラベルの性質を使って実際に解いてみます。
 原案はフォーラムサイト『The New Sudoku Players' Forum』の Follow the numbers というトピックです。
 そのトピックの投稿者が披露した方法を基にしています。
 「へぇ〜こういう解き方もあるんだなぁ〜」と感じていただければ幸いです。

図 4-1

 では、解説を始めましょう!
 図4-1 の盤面で解説していきます。

 ナンプレを解く前に、盤面の右側と下側にスペースを設けます。
 右側スペースには、各 floor に対してメモ欄を2つ用意しておきます。
 これは、トラベル方向で数字を分類するための物です。
 赤色は「上にトラベル」、青色は「下にトラベル」です。

 同様に、各 tower の下側にもメモ欄を2つ用意します。
 緑色は「左にトラベル」、黄色は「右にトラベル」を表します。

 さぁ、これで準備OK!

図 4-2

 まず、既にトラベル方向がわかっている数字をメモしましょう。
 各 chute を見て2個以上入っている数字があれば、その数字のトラベル方向がわかります。
 メモは 図4-2 のようになりました。

 さぁ、この時点で注目すべきところが1カ所できました。
 それはどこでしょう?

 下段の floor です。
 赤色欄には「4」、青色欄には「37」がありますね。
 ここで、セクションで説明したトラベルの性質がものすごく効いてくるんです。

図 4-3

 ペアとシングルに関するトラベル、性質はこうでしたね。
 floor 内部ではこれが成り立ちます。

  • ペアは3組とも同じ方向にトラベルする。
  • シングルは3つとも同じ方向にトラベルする。
  • ただし、ペアとシングルではトラベル方向が上下逆である。

 数字3, 7は一緒にトラベルしている。
 そして、数字4は数字3, 7とはトラベル方向が違う。
 というわけで、こんなことが言えるんです。

  • 下段 floor において、数字3, 7はペアである。そして数字4はシングルである。

 さらに!
 数字4がシングルだということは、黄色 boxrow のおかげで「数字9はペアである」ということもわかるのです。
 どこの誰かは知らないけれど、9には相思相愛の相方がいる。

図 4-4

 実は、数字9の相方はすぐにわかります。数字1です。
 ヨコ列とヒント数字1を見ると、すぐにわかります。

 さて、数字1と9がペアになりました。
 どのペアも同じ方向にトラベルするということを考えると、「37」が書かれている青色欄に「19」と書くことができますね。
 ペア1, 9は下にトラベルすることがわかった。
 これは何を意味するのか?
 こういうことなんです。

  • 数字1も9も黄色 boxrow にしか入らない。

 それを踏まえると…… あっ、なんか左下ブロックに何かありそう!
 左下ブロックでは、数字9は黄色マスにしか入らない。
 それを踏まえると、なんと9の入るマスが確定しちゃいました!
 ついでに、相方の1も確定します。

 いや〜すごいですね!
 メモ欄だけで、ここまでわかっちゃったよ。

図 4-5

 左下ブロックに数字9が入ったから、左上ブロックにも自動的に9が決まりますね。
 今度は左端 tower の数字9、黄色 boxcol に注目してみましょう。

 さて、ここでクイズです。
 左端 tower の数字9はペアでしょうか?
 それともシングルでしょうか?

 正解は「シングル」です。
 なぜでしょう?
 それは、boxcol に同居している数字がすべてバラバラだからです。
 2, 3, 7, 4ですもんね。同じ数字が一つもない。

 ペアと言うのであれば、数字9の相方がいるはずです。黄色 boxcol 内を数字9と一緒にトラベルしてくれる相方が。
 しかし、一目瞭然ですね!
 数字9はペアになり得ないのです。

 これがわかると、さらにいろいろ判明しますね。
 2と3, 4と7、2組のペアが同時に誕生しました!
 そして、数字1はシングルだとわかります。数字9とトラベル方向が同じですもんね。

図 4-6

 あれからだいぶ進みました。
 もぅ終盤です。

 今、中央ブロックに数字9が判明したところです。
 ここで、中段 floor を見てみましょう。
 特に黄色 boxrow はどうなってるでしょう?

 まったく同じトリプレットが入ってますね!
 この floor では、トリプレットは3人揃ってトラベルします。
 しかも、左側ブロックがすべて数字で埋まっているもんだから、トリプレットをなす数字もバッチリわかります。
 「3, 6, 7」「2, 9, 4」「8, 5, 1」の3組ですね。

 トリプレットが揃ってトラベルする場合、性質はこうでした。

  • トリプレットは3組とも同じ方向にトラベルする。

 みんな下へトラベルするんですね。

図 4-7

 さぁ、あとはゴールまでまっしぐら!

 完成図は 図4-7 です。
 ついでにメモ欄も完成させておきましょう😊

 chute という小さな世界で数字たちがトラベルをする。
 ある所では数字たちはペアになって仲睦まじく旅をし、ある所ではシングルで気ままに旅をする。
 たまぁにワイワイと3人旅。
 「旅」というワードで見ると、この解法の表現に面白さを感じます。
 数字たちがわちゃわちゃ旅をする様がなんだか可愛らしい。

 このページでは「トラベル」というワードを使いました。
 これは、Follow the numbersTraveling Pairs and Triples など元記事で「travel」という単語が使われていたからです。
 私は英語に疎いのでなぜトピックの投稿者が「travel」と表現したのかはわかりませんが、投稿者が「旅」になぞらえていたのならその発想は面白いなぁと。
 そこで、私も倣って「トラベル」にしてみた次第です。

 ……とか言って、単に「移動する」とかいう意味だったりしてな😅
 ドヤ顔で投稿者の発想まで語っておきながら、違ってたらすっごくダサいよな😅
 今のは聞かなかったことにしてください😅
 内緒だよ! 内緒!

 まぁそれはおいといて、視点の面白い理論ですよね。
 chute や boxrow などの用語もさることながら、3×9や1×3を視点にナンプレを見るんですもの。
 見たことない物ばかりが目に飛び込んでくる。
 1×9や3×3なら山ほど目にしたけれど、それ以外にも立派な理論はあるもんなんですね。

 やっぱりナンプレは奥が深いわ。

参考・参照

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