目指せ真四角! 切った貼ったの大裁ち回り

 図形パズルの定番として『裁ち合わせ』があります。
 ある図形を切り分けて別の図形を作るというパズルです。
 その中には、意外性、エレガントさ、美しさなど魅力が豊富に詰まっています。
 それらについてちょいと語ってみます。

1.図形から図形へ大変身! 裁ち合わせパズル

 ある図形をいくつかの小ピースに切り分けた後、それらを組み合わせて別の図形を作る。
 こういうタイプのパズルがありますよね。
 『裁ち合わせ』と呼ばれているものです。

 有名な例と言えば、『デュードニー分割』でしょうか。
 19〜20世紀に活躍したパズル作家、ヘンリー・アーネスト・デュードニー。彼の作った有名な裁ち合わせパズルです。
 正三角形を4個のピースに切って並べ替えると正方形ができあがる。しかも、鳩目でピース同士を繋げば、さながらオモチャのように 正三角形⇔正方形 の切り替えができる。そういうスグレモノです。
 当サイトでも『デュードニー分割の作り方』のページで解説しています。

 もちろん、デュードニー分割以外にも秀逸な裁ち合わせパズルは数多く存在します。
 今回はそういうパズルに少し触れてみたい!
 特に、正方形へ変形するパズルに焦点を絞って話をしましょう。

図 1-1

 まず、問題を1つ。

 図1-1、3×3の大きさで、隅が1マス欠けた図形があります。
 この図形をうまく切り貼りして、正方形を作りたい。
 さぁ、どうする?

 もしかしたら、書籍によっては「3枚に切り分けて」などの条件も付けられているかもしれません。
 まぁ、ここでは枚数は気にしないことにしましょう。

 この問題の正解を言っちゃいます。
 下図のように切ればOKです。

 完成図を見た時、「こんなん思いつかんわw」と思った方々は多いかもしれません。
 ✔️みたいな切れ目が走ってますもんね。緑色ピースの形からして複雑さが垣間見える。
 しかし、実は、この裁ち合わせ問題はさほど難しくないんです。
 なぜなら、初歩的なコツを使って解いただけだから。

 正方形へ変形するタイプの裁ち合わせパズルを解くにあたって、いくつかコツがあります。
 そのうち、初歩的なのはこれかな?

 裁ち合わせパズルにおいて、面積は大きなヒントになります。
 図形をどのように切り分けても全体の面積は変わらないのだから、できあがる正方形の面積は元の図形と同じ。
 ということは、正方形の一辺の長さは最初から計算できるんですね。

 そこで、その長さの線を図形内部に引き、それを正方形の一辺として活用する。
 これが解決への足掛かりになっていくんです。
 具体的にはこんな感じ。

 1マスの面積を \(1\) とすると、元の図形の面積は \(8\)。
 ということは、変形後の正方形も面積は \(8\) です。
 だから、その正方形の一辺の長さは \(\sqrt{8}\) だとわかる。
 つまり、\(2\sqrt{2}\) だとわかります。

 長さ \(2\sqrt{2}\) の線を図形内部に引いて正方形の一辺として活用できれば、切り貼りがラクですよね!

 でも、その長さをどうやって作ればいいんでしょう?
 そこで出てくるのが、「\(1:1:\sqrt{2}\)」という直角二等辺三角形です。
 これを利用して、長さ \(2\sqrt{2}\) の線を作れるんですね。

 このことに気が付くと、「斜め \(\boldsymbol{45^{\circ}}\) の線を引けば良さそう!」と解決への糸口が見えてくるわけです。
 では、その糸口に従って、とりあえず線を1本引いてみましょう。

 あとは、別の斜め \(45^{\circ}\) 線を引いてさらに細かく切り分けて、試行錯誤で正解を見つけていくだけです。

 必要な長さの線を引くために、直角三角形を利用する。
 これだけでもグッと正解に近づける。
 しかも、この問題では、斜め45°以外の線を考える必要は特になさそうですね。
 \(2\sqrt{2}\) や \(\sqrt{2}\) に無関係な線を引いたところで、正方形の辺としては使えそうにないですもんね。

 変形後の正方形から一辺の長さを求める。
 こういう「逆算」は結構役に立ちます。
 上述の問題は簡単な方だけど、同じ手法を使った華麗な裁ち合わせも存在します。
 それは次セクションで紹介しましょう。

2.正十二角形の華麗な裁ち合わせ

 次は、高難度ながら華麗な裁ち合わせをご紹介!
 正十二角形から正方形へ変身します。

図 2-1

 では、問題。

 図2-1 は正十二角形です。
 大きさは「中心から頂点までの距離は1」としておきましょう。
 この図形をうまく切り貼りして、正方形を作りたい。
 さぁ、どうする?

 なんとも直角とは縁のなさそうな正十二角形。
 ここからどうやって正方形を作り上げるんでしょう?
 切り分け方がまったく見当つかん……。

 これもまずは正解を言っちゃいましょう!
 こういう切り分け方が知られています。

 「何を食ったらこんなもん思いつくんだw」とか言われそう😅
 もぅただただ驚愕の一言ですね。
 サヤエンドウ4個とミニ正三角形1個となんか1個、たった6個のピースで正方形ができちゃうんだもの!

 なぜこれが正方形になっちゃうんでしょう?
 それは、偶然なのか何なのか、4個のサヤエンドウが最高の性質を持ってくれているからなんです。

 とりあえず、まずは変形後の正方形のサイズを知りたいですよね。
 では、正十二角形の面積を求めましょうか!
 具体的には、正十二角形をピザみたいに12等分にカットして1ピースの面積を求めるという手法を使います。
 詳細はこのページに譲るとして、この正十二角形の面積はちょうど \(3\) でした。
 正方形の一辺の長さは \(\sqrt{3}\) だということですね。

 ここで、サヤエンドウの(さや)の長さと先端角度を求めてみます。
 これも詳細はこのページに譲るとして、莢の長さは \(\sqrt{3}\)、先端角度は \(45^{\circ}\) でした。
 まるで作ったかのように、莢の長さは正方形と同じ。
 まるで作ったかのように、角度は直角の半分。
 ということは……、

サヤエンドウをL字に置けば、正方形の片鱗が見えてくるじゃぁないか!

 こうなると、サヤエンドウをさらに2個作れたら、もぅ正方形は完成したも同然だ。
 実際、正十二角形からサヤエンドウを4個切り出す方法は存在し、めでたく正方形への裁ち合わせが成功するわけですね。
 残った図形も手裏剣みたいな簡単な形で、非常にシンプルな裁ち合わせになる。
 これもまた凄いところだね!
 \(45^{\circ}\), \(60^{\circ}\), \(150^{\circ}\) の3つが絶妙に噛み合って、奇跡的な裁ち合わせになっているんです。

 正十二角形から正方形へ、という意外性。
 たった6ピースに切り分けるだけ、という意外性。
 図形のサイズや角度が奇跡のはたらきをして正方形にピッタリ収まる、という意外性。
 意外な切り分け方でエレガントに解決できてしまうのが、裁ち合わせパズルの醍醐味です。

 正直言って、裁ち合わせパズルは解けなくったっていいと思う。
 正解を見てるだけでも楽しいよ😃

3.切り分けは美しい模様のように

 裁ち合わせについては、昔からいろいろ研究されてきました。
 その中で、切り分けの一般的な手法もいくつか生まれています。
 そのうちの1つは見た目が非常に美麗です。当セクションではその手法を紹介しましょう!
 「敷き詰めの原理」です。

図 3-1

 このセクションでの問題はこれにしましょう。

 図3-1、5マスをクロスの形に繋げた図形があります。
 この図形をうまく切り貼りして、正方形を作りたい。
 さぁ、どうする?

 実は、これもセクションと同様に完成形からの逆算で解くことは可能です。
 が、敢えてここでは「敷き詰めの原理」に魅了されてみましょうか🥰

 ……と、その前に。
 数学好きな方々は「平面充填」という用語をご存じだと思います。
 数種類の図形を隙間なく&重なることなく平面に敷き詰める。
 特に、同一の対称図形で敷き詰める場合、その配置は美しい模様を描きます。

 簡単な例は、正多角形ですね。
 平面充填が可能な正多角形は3種類。正三角形、正方形、正六角形です。

 実は、図3-1 のクロスも平面充填可能です。
 こ〜んな感じ。
 なんか、こういう石畳、探せばどっかにありそうだね😅
 この配置だけで、もぅ美しい🥰

 さて、この石畳にちょいと手を加えてみます。
 各クロスの中心を線で結びましょう!
 すると、少し傾いた網目ができあがります。
 実際に描いてみるとこんな感じ。

 ここで、網目で区切られた四角形1個に注目してみる。
 例えば、上図の青色。
 実は、これは正方形です。
 そして、その面積について、こんなことが成り立つんです。

 理由は簡単!
 斜めに引いた網目によって、クロスは4分割されますね。
 その各ピースを平行移動させるだけで正方形ができあがるんです。
 特に、クロスの中心を通って分割されているもんだから、クロスはキッチリ4等分されている。
 わかりやすく綺麗な形で正方形に収まるんです。

網目を描いただけで裁ち合わせができちゃった。
美麗なだけではない。なんてわかりやすい方法なんだろう!

 しかも、これはクロスに限った話ではありません。
 平面充填可能で、正方形状の網目ができるなら、どれだけ形が複雑でもOKなんです。
 例えば「卍」でもできるよ!

 平面充填可能な図形に対しては、こういう芸術的な方法もある。
 裁ち合わせは模様のように美しく。
 そんな一面を持ち合わせているところも、裁ち合わせパズルの大きな魅力です🥰

4.あの有名な定理も敷き詰めの原理で解決さ!

 前セクションでは、クロスを敷き詰めて裁ち合わせを成功させましたね!
 華麗な裁ち合わせでした🥰
 今回は、話をさらに一歩進めます。
 敷き詰めの原理を利用して、とある有名な定理を解説しましょう。

 今回用意するのは、大小異なる2種類の正方形。
 小さい方の一辺は \(a\)、大きい方は \(b\) としておきましょう。
 で、こう並べます。

 これもまた美しい🥰
 この石畳は現実にホントにありそうだ。

 ここでも前セクションと同様に網目を作りましょう。
 ただし、今回は正方形の中心ではなく、大きい正方形の右上隅同士を線で結んでみます。
 こ〜んな形の網目ができました。

 実は、この場合も裁ち合わせが成立しているんです。
 「大小2個の正方形から1個の正方形を作る」という裁ち合わせパズル。
 下図のように、正方形をくっつけた後、2つの直角三角形をスライドさせれば新しい正方形のできあがり!

 ここで、できあがった正方形の一辺の長さを \(c\) としましょう。
 すると、上図の青色ピースは3辺 \(a\), \(b\), \(c\) の直角三角形になっていることがわかります。
 この直角三角形で「とある定理」の正体がチラッと見えた……かな?

 両者の面積を比較してみましょう。

 変形前の図形の面積は \(a^2+b^2\) ですね。
 正方形の一辺の長さはそれぞれ \(a\) と \(b\) ですもんね。
 そこから新たな正方形に変身した。その一辺の長さは \(c\) だから、面積は \(c^2\) です。
 変身の前後で面積は変わらないことを考えると……、

\(\boldsymbol{a^2+b^2=c^2}\) が成り立つ。
あら、ピタゴラスの定理じゃん!

 そう。誰もがみんな知っている、あの有名な等式が現れるんです。
 大小の正方形による敷き詰めの原理は、ピタゴラスの定理の証明としても知られています。
 もしかしたら、ビジュアル的に最も美しい証明かもしれませんね。

 ここからは余談です。
 裁ち合わせに絡めて『ピタゴラスの定理』について軽く話をしましょう。
 ピタゴラスの定理とは次の定理を指します。

 直角三角形の直角を挟む2辺の長さを \(a\), \(b\)、斜辺の長さを \(c\) とする。
 この時、\(a^2 + b^2 = c^2\) が成り立つ。

 ピタゴラスの定理は今ではユークリッド幾何学の屋台骨を担うほど重要な定理で、あまりにも有名です。
 それはもぅ、あらゆる視点から何十何百もの証明が存在します。
 その中には微分積分や回転行列などを使った手法もあって、証明方法の広さが窺い知れます。
 もちろん、直角三角形に関する定理だから、相似や外接円などビジュアルを利用する手法は多い。特に、\(a^2\), \(b^2\), \(c^2\) は正方形の面積だと解釈できるから、裁ち合わせは誰もが思いつく原始的な手法です。

 裁ち合わせの有名な例は…… 12世紀のインドの数学者バスカラかな?
 「見よ!」の一言で済ませた、圧巻の証明。
 本当にこの一言に相応しい容易な裁ち合わせ証明で、『モノグラフ 数学史』でも演習問題として取り上げられています。
 解説をせず演習問題にしている、というところにも容易さが窺えますね。

 下の図は,インドの数学者バスカラ(Bhaskara, 1114-?)がピタゴラスの定理の証明に用いた図である.バスカラは,これらの図をえがいて,ただ「見よ」といっているが,これでピタゴラスの定理が証明されている理由を説明せよ.

『モノグラフ 数学史』p.18 より

 他には、レオナルド・ダ・ヴィンチは熨斗(のし)みたいな六角形を使った画期的な証明を残しています。
 これは理解まで時間はかかるものの、たった2ピースの切り分けで済むという秀逸な証明です。
 他にも面白い証明がたくさん見つかるかもしれませんね。

 直角三角形Aに対する証明です。
 X, Y, Zはどれも正方形。Aとaは合同です。
 六角形を真っ二つに切って、位置を移す(黄色ピースは裏返す)。
 X+Y+A+a=Z+A+a が成り立つことを確認しましょう!

 当ページを執筆している時にちょいとネットをさまよっていたら、『Pythagorean Theorem』というWebページを見つけました。
 そのページ、ピタゴラスの定理の証明を100個以上も紹介してた😅
 すげぇわ😅
 その中には裁ち合わせによる証明も豊富に存在し、未知の切り分け方をたくさん知れて面白かった。

 もちろん、裁ち合わせによる証明はそのWebページ以外にもたくさん存在することでしょう。
 ピタゴラスの定理が発見されてから、もぅかれこれ2000年以上。
 「切った貼ったの大裁ち回り」は永きにわたって世界中で繰り広げられてきたのかもしれませんね。
 あらためて、ピタゴラスの定理の凄さを思い知らされます。

参考・参照

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