1.カプレカ定数とは何ぞや?
いきなりですが、とある4桁の整数を皆さんに1つ紹介しましょう。
その整数とは…… 6174 です。
「ただの数字じゃねぇかw」とか言われそう😅
いやいやいや、今回はこの整数について話をしていこうというワケです。
実は、この 6174 は個性の光る整数でして。
4桁の整数のうち 6174 しか持っていない、特殊な性質があるんです。
その性質を示すために、ちょいと次の手順をたどって数字遊びをしてみましょうか。
- テキトーな4桁の整数を思い浮かべる。
- その整数の各桁の数字を 昇順&降順 に並べ替えて、別の2数を作る。
- その2数の差を計算する。
- その4桁の整数に対して手順 2.〜3. を再度行い、新たに4桁の整数を作る。これを延々繰り返す。
なお、手順 2.〜4. の過程でできた整数が3桁以下の場合は、頭に0を付けて4桁にしてください。
具体的にやってみましょう。
最初の数を 5293 とします。
各桁の数字を昇順に並べ替えると 2359、降順だと 9532 になる。その差は 9532-2359=7173。
7173 を昇順に並べ替えると 1377、降順は 7731。差は 6354。
以下、同様に繰り返す。
9532-2359 = 7173
7731-1377 = 6354
6543-3456 = 3087
8730-0378 = 8352
8532-2358 = 6174
7641-1467 = 6174
(以下、同じ等式が延々と続く)
なんと、途中から 6174 ばっかり続いちゃう!
何の変哲もなさそうな数なのに、6174 はこういう面白い性質を秘めているんです。
こういう整数を カプレカ定数 と呼びます。
実は、4桁の整数について、既にこういう結論が出ています。
- 4桁のどんな整数(ゾロ目は除く)から始めても、必ず 6174 にたどり着く。
- 7777 などのゾロ目から始めた時は0にたどり着く。
4桁の整数のうち、6174 は唯一のカプレカ定数だったんですね。
試しにあらゆる4桁整数で確かめてみてください。
本当に見事に 6174 に収束していきますよ!
パズル界には「数字遊び」なるジャンルがあります。
例えば、『小町算』とか『4つの4』とか『切符に印字されている4桁の数字で10を作る』とか。
カプレカ定数もその一種と言えますね。
数字遊びは数学とも関係が深いから、数学好きな方々は「6174」を見ただけで既にピンと来ていたかもしれませんね。
当ページでは、このカプレカ定数という物を少しばかり掘り下げてみようと思います。
2.整数 6174 には弟がいる
前セクションでは、カプレカ定数 6174 を紹介しました。
こういう数を1つ紹介しちゃうと、当然、こういう興味が湧いてきますよね。
カプレカ定数って、他にも存在するのかな……?
他にもあるかどうか、今度は3桁の整数の中から探してみましょうか。
3桁バージョンの手順はこうです。
- テキトーな3桁の整数を思い浮かべる。
- その整数の各桁の数字を 昇順&降順 に並べ替えて、別の2数を作る。
- その2数の差を計算する。
- その3桁の整数に対して手順 2.〜3. を再度行い、新たに3桁の整数を作る。これを延々繰り返す。
ま、「4桁」を「3桁」に変えただけです😅
なお、手順 2.〜4. の過程でできた整数が2桁以下の場合は、頭に0を付けて3桁にしてください。
これも具体的にやってみましょう。
最初の整数を 204 としてみます。
420-024 = 396
963-369 = 594
954-459 = 495
954-459 = 495
(以下、同じ等式が延々と続く)
あら、今度は 495 だ。
3桁にもカプレカ定数が見つかった!
6174 には弟が居たんですね。
実は、3桁についても既に結論が出ています。
- 3桁のどんな整数(ゾロ目は除く)から始めても、必ず 495 にたどり着く。
- 777 などのゾロ目から始めた時は0にたどり着く。
4桁のカプレカ定数は1つだけありました。
3桁も1つだけありました。
こうなると、カプレカ定数の分布を知りたくなってくる。
各桁に1つずつあるのかな?
それとも、桁によって偏りがあるのかな?
全部で数えるほどしかないのかな? それとも無限に存在するのかな?
興味は尽きないね☺️
3.カプレカ定数探しの強力な助っ人
3桁と4桁はすべて探し終えました。
もちろん、視線はもう他の桁に向いています。
5桁, 6桁, 7桁, ……、そこにもカプレカ定数は存在するのだろうか?
いざ新天地へ、兄弟探しの旅をしていきます。
ただ、できることならシラミ潰しでの旅は避けたいものです。
なぜなら、桁が増えるにつれて指数関数的に時間と手間がかかってしまうから。
たとえ計算をパソコンにやってもらうにしても、15桁や20桁のシラミ潰しなんて時間も手間も「桁」違いなんです😅
効率化を図るため、各桁のカプレカ定数について少し考察してみたい。
- 7641-1467 = 6174
- 954-459 = 495
この2つの式はどういう形をしているかと言うと、
- (降順の形の整数)-(昇順の形の整数) = (カプレカ定数)
こういう形をしているんですね。
ということは、左辺の引き算を文字式で表せば、それがカプレカ定数の候補になる。
こういうわけです。
ま、具体的にやってみましょう!
手始めに、3桁の場合はどんな式になるかな……?
1桁の整数 \(a,\ b,\ c\ (0 \leqq a \leqq b \leqq c \leqq 9)\) を昇順に並べてできる3桁の整数を \(A\) とします。
すると、\(A\) はこう表せます。
対して、逆順に並べてできる3桁の整数 \(B\) は
\[ B = 100c + 10b + a \]
と表せますね。
すると、両者の差 \(B-A\) は
となります。
ここで \(a\) と \(c\) は整数だから、\(c-a\) も整数。
というわけで、\(B-A\) は 99の倍数 だということがわかりました。
さて、このことから一体何が言えるのか?
こういうことが言えるんです。
- もし3桁のカプレカ定数が存在するならば、それは 99の倍数 に限る!
この事実はかなり大きなもので、絶大な効率化をもたらすんです。
だって、99の倍数である3桁の整数なんて、たった9個しかないんだもの!
198, 297, 396, 495, 594, 693, 792, 891, 990。
候補がこんなにも絞られたのなら、後は地道に1個1個確かめればOKさ!
その結果、唯一のカプレカ定数 495 が簡単に見つかるわけなんです。
3桁の整数なんて900個もあるのに、それを9個にまで絞りきるこのチカラ。
どれだけ効率的か。語るまでもないでしょう!
4桁の場合も式を作ってみましょうか。
1桁の整数 \(a,\ b,\ c,\ d\ (0 \leqq a \leqq b \leqq c \leqq d \leqq 9)\) を昇順に並べてできる4桁の整数を \(A\) とします。
降順の方は \(B\) としましょう。
両者の差 \(B-A\) を計算してみます。
\begin{align} B - A &= (1000d + 100c + 10b + a) - (1000a + 100b + 10c + d) \\ &= 999d + 90c - 90b - 999a \\ &= 999(d - a) + 90(c - b) \end{align}
ここで \(0 \leqq b \leqq c \leqq 9\) であることを踏まえると、実は \(c-b\) の取り得る範囲はだいぶ狭い!
具体的には \(0 \leqq c-b \leqq 9\) です。
また、\(0 \leqq a \leqq d \leqq 9\) でもあるから、同様に \(d-a\) の範囲も狭い。
\(0 \leqq d-a \leqq 9\) です。
ただ、\(d-a=0\) の場合は \(B-A\) が3桁以下になってしまうので、\(d-a=0\) は除外しましょう。
正確な範囲は \(1 \leqq d-a \leqq 9\) です。
というわけで、\(p=d-a,\ q=c-b\) とおいて、\(B-A\) は次の形で表されることになりますね。
\[ \boldsymbol{B - A = 999p + 90q} \; (p,\ q\ \text{は整数},\ 1 \leqq p \leqq 9,\ 0 \leqq q \leqq 9) \]
4桁のカプレカ定数は \(999p+90q\) の形で表される。
こういうわけですね。
ゴチャゴチャと書いちゃいましたが、大きな事実が1つ見えた。
- 整数値 \(p\) の取り方は \(1\)〜\(9\) の9通り、整数値 \(q\) は \(0\)〜\(9\) の10通り。
もし4桁のカプレカ定数が存在するならば、その候補は9×10=90個に絞られる!
90個はちょっと多いけれど、まぁシラミ潰しができない個数ではない。
少し根気を出せば、\(p=6,\ q=2\) の時にカプレカ定数 6174 が見つかるんです。
4桁の整数は9000個もあるけれど、それをたった90個に絞りきる!
恐るべし、このチカラ!
この方法は、桁数が多くなるほど効果が格段に大きくなります。
例えば、9桁の整数は9億個もあるけれど、それがたった9000個に絞られる。
絞り具合がまさに「桁」違いという、強力な方法なんです。
頼もしい助っ人が仲間になった。快適な兄弟探しの旅が約束された。
この仲間の力を借りて、次セクションでは桁数ごとにカプレカ定数を探していきます。
さぁどんなカプレカ定数が見つかるかな?
楽しみだ☺️
4.カプレカ定数は兄弟だらけだった
では、カプレカ定数を探してみましょうか!
各桁のカプレカ定数(の候補)はこういう形をしています。
桁数 | カプレカ定数の形 |
---|---|
3 | \[ 99p \] |
4 | \[ 999p + 90q \] |
5 | \[ 9999p + 990q \] |
6 | \[ 99999p + 9990q + 900r \] |
7 | \[ 999999p + 99990q + 9900r \] |
8 | \[ 9999999p + 999990q + 99900r + 9000s \] |
9 | \[ 99999999p + 9999990q + 999900r + 99000s \] |
10 | \begin{align} 999999999p + 99999990q + 9999900r \\ { } + 999000s + 90000t \end{align} |
11 | \begin{align} 9999999999p + 999999990q + 99999900r \\ { } + 9999000s + 990000t \end{align} |
12 | \begin{align} 99999999999p + 9999999990q + 999999900r \\ { } + 99999000s + 9990000t + 900000u \end{align} |
13 | \begin{align} 999999999999p + 99999999990q + 9999999900r \\ { } + 999999000s + 99990000t + 9900000u \end{align} |
整数値 \(p\) の取り方は \(1\)〜\(9\) の9通り、\(q\) 以降は \(0\)〜\(9\) の10通りです。
各項の係数に法則性があるから、桁数が多くても式は簡単に作れそうですね。
ちょいとプログラムを組んで、ゴリッゴリ探してみました。
とりあえず、13桁まではこんな感じ。
桁数 | カプレカ定数 | 個数 |
---|---|---|
2 | (なし) | 0個 |
3 | 495 | 1個 |
4 | 6174 | 1個 |
5 | (なし) | 0個 |
6 | 549945 631764 | 2個 |
7 | (なし) | 0個 |
8 | 63317664 97508421 | 2個 |
9 | 554999445 864197532 | 2個 |
10 | 6333176664 9753086421 9975084201 | 3個 |
11 | 86431976532 | 1個 |
12 | 555499994445 633331766664 975330866421 997530864201 999750842001 | 5個 |
13 | 8643319766532 | 1個 |
この表を見てみると、興味深い事実が浮かび上がってくる。
実は、6174 に似たアニキ達が偶数桁の欄に名を連ねているんです。
- 【4桁】
- 6174
- 【6桁】
- 631764
- 【8桁】
- 63317664
- 【10桁】
- 6333176664
- 【12桁】
- 633331766664
まるで 6174 が3枚の食パンに分かれ、同じ桁数の 333…… と 666…… をサンドイッチにしている。
そして、桁数が多くなればなるほど肉厚の豪華なサンドイッチになってます😅
しかも、このサンドイッチ、3と6を増やしていくらでも肉厚にできる! それがカプレカ定数であることは計算で簡単にわかります。
なんと、6174 の兄は無限に存在した!
ついでに、1つの定理も生まれちゃいます。
- カプレカ定数は無限に存在する。
さらに調べていくと、別系統の兄弟もまぁ居るわ居るわ!
そうなると、一体どれほどの兄弟達が存在するのかと気になってしまいます。
カプレカ定数界の家系図を知りたくなる😅
そこで、3桁〜19桁のカプレカ定数を一覧表にして、同系統の兄弟を太字&同色にしてみました。
(スマホでご覧の皆さん、表が長すぎてゴメンね🥺)
桁数 | カプレカ定数 | 個数 |
---|---|---|
3 | 495 | 1個 |
4 | 6174 | 1個 |
5 | (なし) | 0個 |
6 | 549945 631764 | 2個 |
7 | (なし) | 0個 |
8 | 63317664 97508421 | 2個 |
9 | 554999445 864197532 | 2個 |
10 | 6333176664 9753086421 9975084201 | 3個 |
11 | 86431976532 | 1個 |
12 | 555499994445 633331766664 975330866421 997530864201 999750842001 | 5個 |
13 | 8643319766532 | 1個 |
14 | 63333317666664 97533308666421 97755108844221 99753308664201 99975308642001 99997508420001 | 6個 |
桁数 | カプレカ定数 | 個数 |
---|---|---|
15 | 555549999944445 864333197666532 | 2個 |
16 | 6333333176666664 9753333086666421 9775531088644221 9975333086664201 9977551088442201 9997533086642001 9999753086420001 9999975084200001 | 8個 |
17 | 86433331976666532 98765420987543211 | 2個 |
18 | 555554999999444445 633333331766666664 886644219977553312 975333330866666421 977553310886644221 997533330866664201 997755310886442201 999753330866642001 999775510884422001 999975330866420001 999997530864200001 999999750842000001 | 12個 |
19 | 8643333319766666532 9876543209876543211 9987654209875432101 | 3個 |
とりあえず、495 と 6174 と 864197532 の兄達はたくさん見えている。
これらの兄達は無限に存在します。
そして、14桁の「97755108844221」、17桁の「98765420987543211」、18桁の「886644219977553312」が新たに誕生していますね。
これらの兄達もきっと無限に存在するのでしょう。
私が特に注目したのは、8桁の「97508421」です。
兄の増殖が凄まじい!
まず、10桁の兄が2人います。
これは、97508421 に「3と6を挿入する」「9と0を挿入する」の2通りを施して生まれた物です。
その兄2人に 36挿入/90挿入 を施せば、さらに2桁大きい兄が3人生まれます。
以降、4人生まれ、5人生まれ……、偶数桁の欄がことごとく大所帯になっていく。
なんという兄の多さだ! 渡る世間は兄ばかり😅
私のパソコンだと19桁が調査の限界なので、ここまでしかカプレカ定数一家を知ることができません。
もしパソコンが 128bit に進化して40桁ほどに調査を広げられたら、さらに一家の奥深い顔が見られるかな?
でも、兄弟の多さもさることながら、カプレカ定数の字面に奇妙さと美しさも感じてしまい、私はもぅもぅお腹いっぱいです😅
いや〜、カプレカ定数って面白いわ😃
更新履歴
- 2023. 4. 9.
- 新規公開。