1.まずは定番の3×3魔方陣レシピ
まずは、定番の3×3サイズの話をしましょう。
深くご存じの方々は読む所ないかも。セクション2に進んでください😊
図1-1 の盤面が3×3魔方陣です。
パズル好きや魔方陣好きな方々にはお馴染みですね。
ちょいと調べてみたら、語呂合わせがあるらしい!
憎し、七五三、無為や。
もし人生で魔方陣を忘れる大ピンチに見舞われても、これさえ覚えておけば安心ですね!
七五三にヘイトを溜めてブラブラ過ごせば良いのです😅(意味不明)
この3×3魔方陣、パターンはたった1通りしかありません。
図1-1 の形だけなんです。
このセクションでは、「なぜ3×3サイズの魔方陣は1種類しかないのか?」という疑問に触れてみましょう。
まず、3×3魔方陣において、とある数字の配置場所は必ず決まります。
これが成り立つんです。
- 数字5は必ず盤面中央に配置される。
他の数字はわからないけれど、数字5の座席は必ず中央に決まるという。
なぜか?
それを説明しましょう。
一列の合計は15ですね。
これは皆さんご存じでしょうけれど、一応、理由を軽く説明しましょう。
9マスには1〜9が1個ずつ入るから、9マスの数字の合計は45です。
ということは、ヨコ3列の総計も45になる。だから、ヨコ1列の合計は 45÷3=15 なんですね。
さ、話を戻しましょう。
盤面に入る数字を \(a,\ b,\ \cdots,\ i\) とおいて、タテ・ヨコ・対角線の4列に注目してみます。
一列の合計は15だから、この4列の合計は60になりますね。
内訳を筆算で書いてみましょう。
\begin{array}{rr} & {\color{blue}\boldsymbol b} + {\color{blue}\boldsymbol e} + {\color{blue}\boldsymbol h} \\ & {\color{blue}\boldsymbol d} + {\boldsymbol e} + {\color{blue}\boldsymbol f} \\ & {\color{blue}\boldsymbol a} + {\boldsymbol e} + {\color{blue}\boldsymbol i} \\ +) & {\color{blue}\boldsymbol c} + {\boldsymbol e} + {\color{blue}\boldsymbol g} \\ \hline &60 \end{array}
この式を見ると、\(a,\ b,\ \cdots,\ i\) が1個ずつあって、さらに \(e\) が3個オマケで付いている。
もちろん \(a\mspace{-2mu}+\mspace{-2mu}b\mspace{-2mu}+\mspace{-2mu}c\mspace{-2mu}+\mspace{-2mu}\cdots\mspace{-2mu}+\mspace{-2mu}i=45\) なのだから、この式はもっと簡単に表せちゃいますね。
\(\boldsymbol{45\mspace{-2mu}+\mspace{-2mu}3e=60}\)
よって、\(e=5\) が得られた。
つまり、中央のマスは数字5で確定するんです。
というわけで、中央に5がドーンと占拠した!
あとは、奇数4個と偶数4個を周り8マスにどう入れようかという話になりますね。
さて、どう入れたらいいんだろう?
ここで、ちょいと別の視点に立ってみましょう。
偶奇性に着目してみます。
各列の合計は15でしたよね。つまり、合計は奇数です。
ということは、一列に入る数字の組み合わせは 奇奇奇 か 偶偶奇 のどちらかになりますね。
それを踏まえて 偶数/奇数 の配置を探ってみる。
すると、図1-3 のパターンしかあり得ない。これがわかるんです。
そうなると、各列に配置する数字の組み合わせが見えてくる。
例えば、数字5を含む4列は 159, 258, 357, 456 に決まる。
数字1&偶数の列は 168 に決まる。
数字9&偶数の列は 249 に決まる。
8と9を同じ列に入れてはいけない。7と8も同様。etc...
で、完成した魔方陣は 図1-4 の通り。
図1-1 とは見た目が違うけど 180°回転させれば一致するので、本質的には同じ形になりましたね。
これは 図1-4 に限った話ではなく、3×3魔方陣はすべて同じ形です。
どうしても9の両隣に2と4が入ってしまうので「憎し」が必ずできあがり、「憎し、七五三、無為や」と読めてしまうんです。
例えば、図1-4 の場合は右下隅から読めますね。
どれもこれも 11月15日に敵意丸出しでダラダラ過ごす。
3×3魔方陣クンは変な奴らばっかりなのでした😅
2.奇数サイズの魔方陣レシピ
次は、5以上の奇数サイズの魔方陣を作ってみましょう!
このセクションでは、よく知られている3つの方法を紹介します。
どの方法も5×5サイズを例に解説していきます。
ここでは、「5×5サイズ魔方陣において、一列の合計は65である」ということは既知としておきましょう。
まぁ、既知でなくとも (1+2+……+25)÷5=65 と簡単に求まります。
2-1.切って貼るだけ!
まずは1つめ。
作り方は至って簡単!
数字をダイヤ型に並べて、はみ出た部分を切って反対側に貼るだけ!
これは バシェーの方法 と呼ばれています。
まず、盤面の四辺にマスを追加してダイヤ型に拡張します。
そして、図2-1 のように数字1〜25を斜めに並べていく。
すると、いくつかの数字は盤面からはみ出ちゃいますね。
そのはみ出た部分を切り取って反対サイドに移すんです。
例えば、数字1, 2, 6は盤面の上端からはみ出ている。
これを盤面下端にスライドさせるわけです。
他も同様です。
数字16, 21, 22は盤面右端へスライド。
数字4, 5, 10は盤面左端へ。
数字20, 24, 25は盤面上端へ。
これで魔方陣のできあがり😄
図2-2 です。
めっちゃ簡単!
タテ列・ヨコ列・対角線、どれも合計が65になっていますね。
ヒマな時にでも確かめてみてください。
2-2.斜めへひたすら走れ!
次は、斜め一方向に走りまくる方法をご紹介。
一方向に数字を並べて作るのが基本なんだけれど、細かいルールがちょいとややこしい。
でも、慣れてしまえば難しくはありません。
これは ヒンズーの連続方式 と呼ばれています。
基本的に「右上のマスに移動して次の数字を置いていく」を繰り返して魔方陣を作っていきます。
これを念頭に置きましょう。
まず、数字1を盤面の上端中央に置き、そこから右上に移動します。
すると、盤面の上にはみ出ちゃいますね。
上にはみ出た時は盤面の下端まで真っ直ぐ下がり、次の数字2を置きます。
次に、その右上に数字3を置き、また右上に移動する。
そしたら、今度は盤面の右にはみ出てしまった!
右にはみ出た時は盤面の左端まで移動し、次の数字4を置きます。
そして、右上に数字5を置く。
数字5を置いたあと右上に移動しよう……と思ったら、すでに1で埋まってた😅
右上が既に数字で埋まっていた時は、1マス下へ降りましょう。
そこに数字6を置きます。
以降、数字15まで進みます。
途中、はみ出した場合は逆サイド端へ。
右上に先客がいた場合は1マス下へ。
さて、15まで進みました。
そこから右上へはみ出すことは可能っちゃぁ可能だけれど、例外として右上隅に来た時は1マス下に降りてください。
そこに数字16を置きます。
あとは、右上へ右上へと進んで数字を置いていくだけ。
もちろん、はみ出たら逆サイド端へ。
先客がいたら1マス下へ。
これで魔方陣のできあがり😄
図2-5 です。
タテ列・ヨコ列・対角線、どれも合計が65になっていますね。
ヒマでしょうがない時にでも確かめてみてください。
手順をおさらいしておきましょう。
- 開始位置は盤面の上端中央。そこに数字1を置く。
- 右上へ移動しながら次の数字を置いていく。
- 途中、上にはみ出たらそこから盤面の下端に下がる。右にはみ出たら左端まで移動する。
- 右上のマスに既に数字が置かれていたら、1マス下へ降りる。
- 右上隅に着いたら、次は1マス下へ降りる。
2-3.桂馬のように跳びまくれ!
最後は、桂馬のようにピョンピョン跳びまくる方法です。
これは結構ややこしいかもしれません。
そこで、「盤面は上下にも左右にもつながっている」と解釈して読み進めていってください。
あっ、ここで1つ大事な注意。
この桂馬跳び法は、魔方陣サイズが3の倍数だと使えません。
そこはご注意ください。
名前の通り、この方法は桂馬の方向に跳んで次の数字を置いていきます。
これを念頭に置きましょう。
まず、盤面の任意のマスに数字1を置きます。
ここでは左下隅にしましょう。
そこから右上の桂馬の位置に跳ねて、次の数字2を置きます。
もう1回跳ねて数字3も置けますね。
さらにもう一度跳ねると、盤面の上にはみ出ちゃう。
ただ、盤面の上下端はつながっているので大丈夫! 数字を置けます。
具体的には上にはみ出た時はそのマスから下に5マス移動し、次の数字4を置きましょう。
そこから数字5も置けますね。
数字5を置いたあとさらに跳ねよう……と思ったら、ちょっとわかりにくいけど既に数字1で埋まってた😅
桂馬位置のマスが既に数字で埋まっていた時は、跳ねずに左上のマスに行きましょう。
そこに数字6を置きます。
数字7まで置くと、次は盤面の右にはみ出ちゃいますね。
右にはみ出た時はそのマスから左に5マス移動し、次の数字8を置きましょう。
ここから数字14まで進めましょう。
途中、はみ出したら5マス移動します。
数字10では桂馬跳びできないから、左上に移動します。
数字14から桂馬に跳ねると、遠くへ行っちゃいました😅
この場合も慌てずに。
下に5マス&左に5マス移動して、次の数字15を置きましょう。
あとは、時折左上に行きつつ桂馬跳びを繰り返せばOK!
これで魔方陣のできあがり😄
図2-9 です。
タテ列・ヨコ列・対角線、どれも合計が65になっていますね。
どうしても一列の合計を求めたくて求めたくてしかたがない方々は確かめてみてください。
手順をおさらいしておきましょう。
- 開始位置はどこでもOK。そこに数字1を置く。
- 右上へ桂馬跳びしながら次の数字を置いていく。
- 途中、盤面からはみ出たら逆方向に5マス移動する。
- 右上桂馬の位置に既に数字が置かれていたら、左上のマスに移動する。
2-4.3つの魔方陣には共通の秘密がある
さて、これまで3つの方法を紹介し、魔方陣を3つ作りました。
実は、その魔方陣たちには共通の秘密があるんです。
図2-10、5×5の盤面に数字を順番に並べました。
なんだか某番組みたいですね😅 なぜ角を取らない!
実は、この盤面に大きな秘密があるんです。
今、次の特徴を持つ5マスを選んで黄色にしてみましょう。
- どのタテ列を見ても、黄色マスが1個だけある。
- どのヨコ列を見ても、黄色マスが1個だけある。
例えば 図2-10 の黄色5マスですね。
こういう特徴を持った5マスの数字を、ここでは タテヨコかぶらない数字5個 と呼ぶことにしましょう。
この数字5個、ちょいと合計を出してみましょうか。
4+6+13+20+22= 65。
65になりました。
あら、魔方陣の一列の合計と同じですね。
別の5マスでも試してみましょう。
例を4つ挙げてみました(図2-11)。
それぞれ合計を計算すると……
あらま、どれも 65になったよ!
マジか! すげぇな。
図ったように同じ数。
これは……偶然なのか?
いやいや、偶然ではないんです。
タテヨコかぶらない数字5個について、こういう定理があるんです。
- タテヨコかぶらない数字5個の合計は必ず65になる。
証明はこのページに示してあります。
実はこの定理はかなり重要で、既に作った3つの魔方陣に対して絶大な効果を発揮するんです。
具体例で説明しましょう。
図2-5 の盤面をもう一度(図2-12)。
ヒンズーの連続方式で作った魔方陣でした。
この黄色ヨコ列を見てみましょう。
この数字5個、実は、タテヨコかぶらない数字5個なんです。
だから合計は65になっている。
さらに、他の列も見てみると、ことごとく数字がタテヨコかぶっていません。
なんと、この魔方陣の全12列のうち、タテヨコかぶらない数字でできているのは……11列もあるんです!
これはもぅ!
魔方陣になるべくしてなったと言っても過言ではない!
この性質は、バシェー法・ヒンズー法・桂馬跳び法の魔方陣ではほとんどの列に現れます。
しかも、5×5だけでなく他の奇数サイズでも顕著です。
これらの魔方陣はネット上に数多く存在しますから、ヒマな時にでも各列を調べてみてください。
本当にタテヨコかぶらない数字ばっかりで、さぞビックリすることでしょう😊
ちなみに。
数字1〜25から5個選んで合計65になる数字の組み合わせは、全部で 1394通りあります。
そのうち、タテヨコかぶらない組み合わせは 120通り。
たった 8.6%しかありません!
なのに、その 8.6%がこれらの魔方陣にこれでもかこれでもかと現れる。
もぅもぅもぅ、不思議で仕方ありません。
3.4の倍数サイズの魔方陣レシピ
今度は、サイズが4の倍数である魔方陣を作ってみましょう!
このセクションでは、4×4魔方陣の有名な作り方を1つ紹介し、さらにそれを拡張してみます。
ここでは、「4×4サイズ魔方陣において、一列の合計は34である」ということは既知としておきましょう。
既知でなくとも (1+2+……+16)÷4=34 と簡単に求まるけれど。
3-1.4×4は簡単な方法がある
まずは4×4魔方陣の話をしましょう。
図3-1、数字を順番に並べただけの盤面を用意して、それを加工してみます。
加工は簡単、対角線上にない8マスを 180°回転させるだけ。
黄色8マス半回転で、ハイ、魔方陣のできあがり!
ビックリするほど簡単ですね😊
なぜこんな簡単にできるのか、説明しましょう。
加工前の各列A〜D, a〜dの合計をちょっと出してみましょう。
A〜Dはそれぞれ 10, 26, 42, 58、a〜dは 28, 32, 36, 40 ですね。
34と差し引きすると、ヨコ列は -24, -8, +8, +24 です。
タテ列は -6, -2, +2, +6 です。
今、ヨコ列の「差し引き」に注目しましょう。
列Aと列D、符号は違うけどどちらも 24ですね。
ということは、この2列の間で数字をいくつかトレードすると差をゼロにできそう!
例えば、2列A, Dの内部にはそれぞれ合計5と29がある。
それをトレードすると良さそうだ。
列Bと列Cも同様です。
-8 と +8 だから、うまくトレードすればプラマイゼロにできそう!
というわけで、青色8マス(図3-2)の数字を上下入れ替えてみましょう。
上下反転させて、数字8個の大型トレードを敢行!
図3-3 のようになりました。
各ヨコ列の合計はどうなったでしょう?
もぅご覧の通りです。
ぜ〜んぶ 34!
まぁ〜綺麗ッ!
同様に、タテ列もトレードで合計を揃えることができます。
実は、青色8マスを左右反転させればうまくいくんです。
やってみましょうか。
めでたくタテ列も合計34で揃いましたね!
あと、対角線の2列はどうか。
これはまったく問題ありません。
両者とも合計は最初から34であり、一連のトレード劇でも一切変化しません。
さぁ、これで魔方陣のできあがり😊
おそらく、これが最も簡単な作り方です。
図3-1 の黄色8マスに「上下裏返し+左右裏返し」の2段階操作をすれば魔方陣ができあがるわけですね。
ただ、この操作は「180°回転」と同じ結果をもたらすため、「黄色8マスを 180°回転させる」と考えてOKです。
3-2.サイズを4の倍数へと拡張できる
4×4の魔方陣、めでたく完成しましたね。
実は、この方法は大きな魔方陣にも応用できるんです。
サイズが4の倍数である魔方陣に対しても、似たやり方が通用します。
それを紹介しましょう。
まずは、8×8サイズの魔方陣を例にとります。
このサイズの一列の合計は 260 です。
4×4魔方陣と同様に、数字1〜64を順番に並べて各列の合計を計算してみましょう。
260と差し引きした値も記しておきましょう。
この盤面も似たような状況になっていますね。
ヨコ列を見ると、-224 と +224 の2列がある。
その2列の間でトレードすると、プラマイゼロにできそうだ。
他の列もプラマイゼロを見込めそう!
あとは、セクション3-1の青色マスのように全列をプラマイゼロにする方法が見つかるかどうか。
実は、そういう方法は存在します。
盤面を4×4に区切って、ミニ盤面それぞれに対して3-1と同じ8マスに青色を施してみる。
図3-5 のように模様っぽい図柄になりました。
この青色32マスを 180°ひっくり返すとうまくいくんです。
では、やってみましょうか。
こうなりました(図3-6)。
さぁ、合計はどうなってるでしょう?
もぅ……盤面の外側が綺麗すぎる🥰
綺麗に並んだ 260たち。
気持ちいい🥰
なお、対角線2列はどちらも最初から合計260です。
なので、これはれっきとした魔方陣です。
12×12サイズでもやってみましょうか!
やり方は同じです。
4×4の小部屋に区切り、青模様をつけて、青色マスを 180°ひっくり返す。
図3-7 の通りになりました。
さぁ、魔方陣になったかな??
……って、検証する気起きないよね😅
図3-7 はちゃんと魔方陣になっています。
12×12サイズだと一列の合計は 870 ですが、全列その通りになっています。
他にも、16×16、20×20、24×24、……、サイズが4の倍数ならすべて同じ方法で魔方陣を作れます。
100×100なんかも作れるよ!
絶対作る気しないけど😅
4.まぁまぁのサイズの魔方陣レシピ
最後は、まぁまぁのサイズで使える魔方陣の作り方を紹介します。
4以上のサイズに共通する方法です。
4-1.4×4サイズでやってみる
手始めに、4×4サイズでやってみましょう。
まず、大文字ABCDと小文字abcdを用意します。
そして、それぞれから1個ずつとって足し算を作ります。
A+c とか D+a とか。
こういう式は全部で4×4=16通りできるけれど、その16個を4×4盤面に配置するということを考えましょう。
ただし、テキトーに配置するわけではありません。
重要な約束事が1つあるんです。
詳しくは 図4-2 にて。
図4-2 のように式を入れてみました。
実は、この配置には重要な特徴があります。
それは……
- タテヨコ対角線、どの列を見ても4マスの合計は等しい。
合計値は A+B+C+D+a+b+c+d である。
理由は簡単です。
どの列もABCDabcdがキッチリ1回ずつ現れているからです。
図4-2 の盤面にはこういう特徴があるんですね。
逆に言えば、そうなるように 16個の式を入れなくてはいけません。
次の2つを必ず満たすべし。
これが 前図4-1 で述べた約束事なんです。
- タテヨコ対角線、どの列も大文字が重複していない。小文字も同様。
- どの式 A+a, A+b, …… も重複していない。
うまく式を配置したことで、図4-2 の盤面は確実に魔方陣になれます。
上記の約束事を守って魔方陣が確約された盤面を、ここでは 魔方陣の下地 と呼ぶことにしましょう。
下地ができれば、あとは各文字に適切な数値を当てはめれば良い。
そうなりますね。
では、実際に数値を当てはめましょう!
下表の通りにしてみます。
A〜Dには4の倍数、a〜dには1〜4を設定します。
a=1 | b=2 | c=3 | d=4 | |
---|---|---|---|---|
A=0 | A+a=1 | A+b=2 | A+c=3 | A+d=4 |
B=4 | B+a=5 | B+b=6 | B+c=7 | B+d=8 |
C=8 | C+a=9 | C+b=10 | C+c=11 | C+d=12 |
D=12 | D+a=13 | D+b=14 | D+c=15 | D+d=16 |
この設定により、見事に数字1〜16すべて現れますね。
こうしてできた魔方陣が 図4-3 です。
実は、この魔方陣はどの列もタテヨコかぶらない数字でできています。
その話については 図4-4 で説明しましょう。
「タテヨコかぶらない」についてはセクション2-4をご参照ください。
4-2.奇数サイズでもやってみる
次は5×5サイズでやってみましょう。
図4-4 の通り、魔方陣の下地を作りました。
数値は次の通り設定しましょう。
- a=1, b=2, c=3, d=4, e=5 と設定。
- A=0, B=5, C=10, D=15, E=20 と設定。
これで魔方陣のできあがり😊
さて。
完成した魔方陣を見て、何か気付いたでしょうか?
この魔方陣、桂馬跳び法に出てきた物と同じです。
そして、どの列もタテヨコかぶらない数字でできているんです。
実は、【1】魔方陣の下地 と【2】タテヨコかぶらない魔方陣 の間には親和性があります。
まず、【1】からは必ず【2】を作れます。
そして、逆に、【2】からは必ず【1】を復元できるんです。
5×5魔方陣において、各数字を5で割ると余りがちょうどa〜eに対応します(5で割り切れる場合は「余りは5」とみなす)。
そこで、各数字から余りを引く。すると5種類の数値しか残らないから、それらをA〜Eとすれば復元が完了するんです(図4-4 の場合は 0, 5, 10, 15, 20 の5種類が残る)。
というわけで、魔方陣のすべての列がタテヨコかぶらなければ、必ず魔方陣の下地を作れます。
となると、桂馬跳び法で奇数サイズの魔方陣を作ると、割と容易く下地ができそうだ。
例えば……
17×17サイズとか!
図4-5 みたいに式を289個配置して下地を作り、次のように値を設定する。
そうすれば、17×17の魔方陣がめでたく完成するわけですね!
- abcdefghjkmnpqrst に 1〜17 を設定。
- ABCDEFGHJKMNPQRST に 0, 17, 34, ……, 272 を設定。
まぁ、これは完成図を作ってから下地を作ったんで、本末転倒なんですけどね😅
っていうか、なんでこんなバカみたいなサイズで作ったのか😅
タテヨコかぶらない魔方陣が存在すれば、下地も存在する。
ということは、とりあえず大半の奇数サイズでは魔方陣の下地を作れるわけですね。
となると、ここで疑問が1つ浮かび上がる。
任意のサイズで魔方陣の下地を作れるんだろうか?
そういえば、このセクションのタイトルは「まぁまぁのサイズの魔方陣レシピ」でしたね。
「まぁまぁの」って、何だろうな……?
4-3.6×6サイズは不可能だった
このセクションのタイトルには「まぁまぁのサイズ」と書かれていますね。
「まぁまぁ」って……、一体何だ?
実は、残念ながら「任意のサイズで魔方陣の下地を作れる」とは言い切れないんです。
なぜなら、6×6魔方陣の下地を作るのは不可能だからです。
『幾何の魔術』(日本評論社・刊)によると、6×6のオイラー方陣を作ること自体が不可能なんですね。
つまり、下地どころか「対角線に同じ文字が現れてもいいよ!」と条件を緩めても叶えられないんです。
いやはや。
まさか、このセクションのレシピに落とし穴があったとは!
そうなると、他にも下地の不可能なサイズがあるかもしれませんね。
ただ、どうやってそれを突き止めればいいのか私には見当がつきません。
だから、「まぁまぁの」と言葉を濁したタイトルにしました。
テキトーでごめんなさい😓
でも、「頑張れば6×6の下地なんて作れそうなのに実は不可能だった」というのは面白い話です。
現在では、「6×6以外のオイラー方陣は必ず存在する」ということが判明しています。
オイラー方陣をうまく改造すると、6×6以外なら魔方陣の下地も作れそうですね。
さて、「オイラー方陣」なんて言葉が出てきましたね。
ここからは、ラテン方陣、オイラー方陣について軽く説明しましょう。
「6×6のオイラー方陣は不可能」の元ネタ『士官36人の問題』の話に軽く触れて、当ページはおしまいです。
方陣のサイズは3以上の奇数としておきましょう。
5×5を例に挙げて説明します。
まずは、ラテン方陣。
図4-6 を見てみましょう。
5×5の盤面に数字1〜5が配置されていますが、その配置には次の性質があります。
- タテヨコどの列を見ても数字は重複していない。
この性質を持った盤面を ラテン方陣 と呼びます。
ラテン方陣には簡単な作り方があります。
図4-6 のように数字を1マスずつずらせばいいだけ。
めっちゃラクですね😃
前図4-6 では数字を右へずらしてラテン方陣を作りました。
もちろん、左へずらしてもラテン方陣ができあがります。
簡単なラテン方陣が2つできましたね。
では、その2つを合体させてみましょう。
すると 図4-7 のように新しい盤面ができますね。
実は、この盤面には次の性質があるんです。
- タテヨコどの列も数字1〜5が2個ずつ現れている。
- (1, 1), (1, 2), ……, (5, 5) のペア25組がすべて現れている。
「1〜5が2個ずつ」というのはラテン方陣の性質から明らかだけど、25組のペアすべてが盤面に現れているんですね。
この性質を持った盤面を オイラー方陣 と呼びます。
実は、奇数サイズのオイラー方陣を作るのは簡単です。
数字を左右ずらしてできたラテン方陣2枚を合体させればいいだけ。
ただの機械作業です😊
さて、前図4-7 でオイラー方陣ができたわけですが、盤面の数字には数値的な意味はありません。
ということは、それらを文字に置き換えてもオイラー方陣だと言えるわけです。
では、左側の数字をA〜Eに、右側の数字をa〜eに変えちゃいましょう!
ついでに、見た目をスッキリさせるために、括弧とコンマを削除しちゃいます。
すると、図4-8 のようにシンプルになりました。
ちなみに、各マスの2文字の間に「+」を挿入すると、魔方陣の下地に似た盤面になりますね。
対角線では文字の重複があるため下地ではないですが、重複がなくなると本当に魔方陣の下地になります。
魔方陣の下地はオイラー方陣の特殊な形だと言えますね。
オイラー方陣に関して真っ先に思いつきそうな疑問、たぶん……これでしょうか。
すべてのサイズでオイラー方陣は存在するの?
とりあえず、4×4、5×5、17×17 の実例は既に挙がっています。
他のサイズは果たしてどうか?
この疑問の答えとして、『士官36人の問題』という問題があります。
6個の連隊から6つの階級の士官を1名ずつ計36名を集めて、6人ずつが6列に並んだ隊列を考えます。
このとき、どの横の並びにも縦の列にも各連隊と各階級から1名ずつ入るようにできるか?
この問題は、「6×6のオイラー方陣が存在するか?」という問題と本質的に同じです。
連隊をA〜F、階級をa〜fとして、Aa, Ab, Ac, ……, Ff という36人の士官がいる。
この36人を盤面に配置してオイラー方陣を作れるだろうか?
そういう話なんですね。
かの有名な数学者オイラーは、当時、この士官36人問題に取り組んでいました。
オイラーは「6×6は不可能だ」と考え、さらに 10, 14, 18 など 4n+2 サイズでもオイラー方陣は不可能だと推測していたそうです。
ただ、結論の出ないまま彼はこの世を去ります。
18世紀後半に生まれたこの問題、6×6サイズの場合は決着がつきました。
1901年、G.Tarry によって「6×6のオイラー方陣は存在しない」と確認されたんです。
その方法は……なんとシラミ潰し!
皆さんお使いのコンピュータなんて無かった時代です。さぞ根気よく鉛筆が動いていたのだろうと想像します。
その後も、R.C.Bose, S.S.Shrikhande, E.T.Parker の3人によって 10×10 サイズなどのオイラー方陣が解明されていき、とうとう最終決着の日を迎えます。
1959年、ついに、その3人によって 10以上のサイズでオイラー方陣が可能なことが証明されたのです。
最終的に「6×6以外のオイラー方陣は存在する」という結論に至りました。
オイラーの予想は覆ってしまったけれど、200年弱ほども長い道を走り切り、めでたくゴールテープを切ったわけですね。
しかし、「6だけ」とは不思議なモンですよね。
1個だけ、しかも中途半端な数字。……と言ったら6に失礼か😅
幼い頃 12,345,679×9=111,111,111 を見て「なんで8だけ無いの?」と不思議に感じたけれど、パズルではたまにこういう摩訶不思議な事実を目の当たりにします。それもまた面白い。
パズルに奇妙さは付き物。パズルという世界はそこも魅力なんですよね〜😊
参考・参照
- 佐藤肇・一樂重雄 著, 日本評論社,『幾何の魔術 魔方陣から現代数学へ』(第3版), 2012
更新履歴
- 2022. 5. 5.
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