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・テーマ「幼馴染」

 握った手を意識して、ススキは前を見据えていた。
 いまや深淵とは言いがたい光に、目が痛くなり思わず顔を伏せる。何が起こったのか、それだけはわかっていた。肌は光に当てられ熱く、風は揺らぎもしないのに髪や服が所在無く揺れている。天地は感じるものの、それは平衡感覚が狂わない程度のもので、安定感があるわけじゃない。目の前に紡錘型の真っ黒な船をみながら、ススキは歯噛みをする。
 憤りと怒りと疑問とあせりが腹の下からせりあがってくる。
 だから、届かないはずの声をありったけの力で叫んだ。
「ふ、ざけんじゃねぇぇぇぇ!」
 目の前で、強大な光を受け止める巨大な紡錘型をした宇宙船に向かって。

 


 幾千のエラーが一瞬にしてログからすら消え去り、新たに幾万ものエラーが書き加えられる。莫大ともいえたメモリ領域は一瞬にして埋め尽くされ、美しい黒を写していたディスプレイはいまや流麗の欠片も無い警告文が埋め尽くしていた。
「全砲門斉射終了。非接触型装甲、金田三式の破損を確認しました。重力場震動による衝撃が原因。現在〇.一raised to the 三〇th power%の減衰を確認。接触します」
 同時、空気そのものが震えるような音が来た。衝撃がやってくるよりはやく、そこらじゅうをエラーが埋め尽くす。
「なさけねぇ……。 よう、ツバキ。お前の後ろにあるのはなんだよ」
「私の過去です」
 あの日、ダイソン球を作った三連戦術機はパーソナル情報をパージし、ユウとともに逃げ出している。ずっと、ユウと共に居るために。
「お前の出力じゃ、足らんのだとよ。どうよ?」
 また艦橋が激しく揺れた。しかし、ユウは動じず一人艦長席に座り腕を組んで全てをなぎ払う光を見上げている。
「過小評価も甚だしいかと」
 ツバキの声はほとんど感情がこもっていない。だがその言葉の隅っこに、少しだけ身じろぐような感情が見え隠れしていた。
「私の後ろに控えるのは、私の昔。情報熱量の使い方もなっていないロウスペックのスクラップ。それに劣るなどということは、欠片もないと判断します」
 ユウは無言で口元を引き上げた。いまだ衝撃は止まず、爆音は留まるところを知らない。エラーに染まった宇宙には、無粋な光が一条。
「最新機のプライドは安くありません」
 同時、光に向かって艦が加速するのがわかった。ゆっくりと、だが確実に前に。捻りこむように、プルタブは前進を開始し始めた。

「……と、申し上げたいのは山々ですが」
「ああ」
「シミュレーションは完璧です。予測誤差を大きく下回っております」
「減衰率六〇%が関の山か。しかしまぁ、それでもさすが最新鋭といったところだな。普通の戦艦じゃ、縦に百隻ならべたって1秒持たずに熱にかわるだろ」
「お褒めに預かり光栄です」
 ちょうど、ユウの頭上が衝撃にひしゃげ爆散した。手で払いながらユウは大きく息を吸った。
「貴様と俺とは同期の桜〜」
 爆音にもかき消されないユウの歌声は、艦橋にこだまする。
「同じ兵学校の庭に咲く〜」
 ゆっくりと立ち上がり、彼女は揺れる艦橋を歩き出した。
「咲いた花なら散るのは覚悟〜」
 またどこか、船が破砕した衝撃が響く。
「見事散りましょ国のため〜」
「物理融解ジェネレーターのオーバーヒートを確認。推進機出力七〇%減」
「すまんな、ツバキ」
「その言葉は、ススキ様へ向けるのが適切かと」
「あいつは許してくれないさ。謝って許してもらえるほど、半端なことはしてきたつもりもないしな。はっ! では、重巡宙艦”プルタブ”へ最後の命を下す」
「……」
 一瞬破砕の音すら届かない無音が訪れた。最後の静寂は、いやに寂しくて冷たい。だが、ユウの表情には一つの悲しみも憂いもなく、燃えるような意志だけがある。それをみて、ツバキは己を駆る船長を誰よりも頼もしく思った。
 振り上げるのは握り締めた拳。叫ぶのは、いかなる光よりも熱い意志。
「全力前進。目標、連結型惑星殲滅砲”絶対神判”――神なんか糞食らえ」
「最終命令を確認。重巡宙艦”プルタブ”全速前進。目標、連結型惑星殲滅砲”絶対神判”。――乾坤一擲」
 全てを捨て、全てを賭し、全てを望み、黒い紡錘型の船は行く。
 駆け上るのは、光の滝。
 駆り立てるのは――


 ゆっくりと、飛沫を上げる光の先、紡錘型の戦艦は前進していた。
 光にむかって抗うようにゆっくりと、だが確実に前に。そして、確実に己を壊して。
「ふざけんな! なんだよそれ! いまさらそんなこと……ふざけんな!!」
 必死で戦艦を追いかけるように進むが、すぐにHUBICシステムの効果範囲にたどり着き、真空に腕が焼かれた。
「ぐっ」
 それでも前に出ようとするものの、大体推進力すらなく、出れば死あるのみという現実だけが目の前に横たわっている。感触の無い、あまりにも大きく硬い壁が其処にある。
「ふざけんな! ふざけんな! ふざけんな! ふざけんな! ふざけんなぁぁぁぁ!」
 叫ぶが、その声が届くことは無い。己の耳だけをたたき、声はどことなく熱を失って消えうせる。
 と、目の前で先ほどとは違う色の光がはぜた。
 戦艦が爆発したのだ。驚きに顔をあげ、戦艦がまだ形を保ってることを確認して、ススキは安堵のため息を吐く。
 しかし火を噴いているのか、赤い光が戦艦の端々から顔を出していた。それでも戦艦は、光に向かって突き進む虫のように、愚直に前に進み続けていた。
 手をこまねいてるしかない己に、ススキは拳を握り締める。そこではじめて、自分が支えの無い場所に居るのだと痛感した。
 踏みしめる大地も、体を抑える重さも、体を駆け抜ける風も、何もかもがない。怒りを受け流してくれるものは一つもなく、振り上げた拳はただその場で震える。行き場をなくした怒りは一瞬にして不安と恐怖へと反転し、それはすぐに加速を始めた。
「ちくしょう……」
 光は一向に衰えるそぶりを見せず、むしろ強くなってきている。光を掻き分ける戦艦の影は、ゆっくりと光に飲み込まれるように小さくなってるようにすら見えた。
 光の一筋が、それてススキの横を通り抜けて言った。
 同時一瞬にして空気が焼け付く。
「がっ、ごほ」
 すぐに温度は元に戻るものの、一欠片にも満たないような光が近くを通り過ぎるだけであたりを焼き尽くす。その恐怖に、彼女は戦艦を見上げずには居られなかった。あの中は一体どうなっているのか。
「ちくしょう、なんだって今更! かってに自己満足な結論だしやがって!」
 誰も殺さないと誓ったのだ。だれも。なのに目の前で死を選んだバカがいる。
 伸ばした手は、距離を縮めるには役には立たず。
 空をかく足は、体を進ませるにはあまりにも弱い。
 叫んだ声は、霧散し届くには絶望的に小さく。
 己の弱さに、ススキは顔を伏せた。崩れゆく戦艦を見ていられなくなったのだ。
 胸に悔しさが突き刺さっている。まばらに見える星が、なんだかせせら笑っているようで、情けなかった。
「……ちくしょう」
 また、戦艦の一部が爆ぜたのか赤い光が咲く。その赤い色が、白色の光にまざってまるで桜色に見えた。
 ススキは拳を握り、式術を放とうとしてすぐにやめる。防御陣を張るには遠すぎ、打ち消すには戦艦が邪魔なのだ。
 桜色に燃える戦艦は、ゆっくりと前に進み続けていた。それが、どうしても寂しかった。
『おおい、ススキ!』
 いきなりの声に、気絶しそうになるほど驚いたススキは、あわてて周りを見渡した。
「な、え? あ? ウンジン」
 向こう側に声を送れたのだから逆もまた然り、納得がいったとススキは胸をなでおろす。
『どうなってる! ――っ! ユウ様……』
 ウンジンの顔を写した空中ディスプレイは場所をかえ、ススキの横に回る。
「最後の最後にかっこつけやがって」
『……で、なんでお前はそこで観戦してんだ』


 空には、桜色の光が輝いていた。白色の色に揺れるように赤が混じる。まるで生きているかのように空にはきれいな光が踊っていた。
 それを見上げウンジンは呟く。
「お前は、それでいいのか」
 彼の横にある空中にうかんだディスプレイには、うなだれうつむいて表情のわからないススキが映し出されていた。彼女の前には、光を一身で受ける戦艦の影。
 ウンジンは、そのとんでもない光景に唾を飲み込んだ。惑星をほぼ一瞬にして熱と電磁波に変えるほどの純エネルギーともいえる光を、数十秒以上たったの一隻で受けきっているという事実に。
『どうしようもないじゃないか! ここであいつが死ぬのを見守って! それでも流れてきたやつは私が――』
「それでいいのかと聞いているんだ」
 時間がない。
『いやだと言ってなんか変わるのか! 認めないと言って、助かるのか! ふざけんな! それともHUBICシステムなら何とかしてくれるってのかよ!』
「HUBICシステムは、人の生活をサポートするためのシステムだ。お前が助けてくれといったところで、あの状況下のユウ様を助けることはできん」
『じゃぁ、式術は!』
「お前が手をこまねいてる事体だというのが、答えだろう……魔法じゃないんだ、物を壊すことしか能の無いくだらない技術だ」
『だったらどうしろって――』
「艦長権限を持つ人間がココにいれば……もっと上位の、三連戦術機そのものに対しての命令が下せれば」
『艦長!? どこにいるんだ!』
「いま、あの光を一身に受けてこの世界を守ろうとしている」
 ススキの叫ぶ声をきいて、ウンジンの後ろに皆が集まっていた。カルミアだけは、疲れた体を休めるように謁見の間の崩れ落ちたあたりから外を見下ろしている。
 と、彼女は不思議な光景を見た。
 既に自分の演説は終え、空に浮かぶディスプレイは消えたはずだ。なのに、なぜ街がこんなにも明るいのだろうか、まだディスプレイは存在しているのだろうか。首を傾げるものの、答えがわかるわけでもなく、まるで花びらのように街に散らばる銀色の光をカルミアは見下ろす。
 世界が終わるかどうかという瀬戸際なのに、その光景はあまりにも幻想的で美しかった。


「テメェは! 私に絶望してほしいだけかよ!」
 結局たきつけるだけたきつけ、ウンジンは答えを持っていないとしり、ススキは叫ぶ。
『なぁ、ススキ。おまえ、あんなにまでしてきた人をなぜ助けようとする』
 その声は、酷く落ち着いていて、ススキ一番さけてきた答えをえぐる。
「……誰も、もう誰も殺したくないだけだって!」
「本当に?」
 その声は、違う場所からやってきた。ディスプレイ越しのウンジンの声ではない。後ろから。間違いなく聞き覚えのある声。
「ねぇ、ススキさん。本当に、そうですの?」
 体は動かなかった。驚きとそれ以上に――
「まったく、本当に昔っからかわってませんわね。私が子供のころから、ずっと……なぁんにも、かわってませんわ」
「あ……」
 すっと、手が伸びてきたのが判った。その手は、ゆっくりとススキの両肩を回り彼女を抱きしめる。思わずその伸びてきた手に、ススキは触れた。
 暖かい、たしかに其処に存在している手だ。背後から抱きしめられて、ススキは体を震わせた。
「ワガママで、自分勝手で、かと思うとへんに優しくて、そして全部自分で背負い込んで」
「お前に、何がわかるんだよ」
 すねるようにススキは答える。
「わかりますわ。貴方が幼いころから、我ら一族は貴方と共にありましたから。自分に母親が居なくて寂しかったのでしょう? うれしかったんでしょう? 母親が現れて」
「そんなこと――」
「あらそうですの? 私にはとてもうれしそうに見えましたわ」
「違う!」
 かぶりを振って、ススキは己を抱きしめる両腕から逃げ出そうとする。まるで子供の駄々っ子のように。
 けれど、なぜだかその手は全く彼女を離さず、子供をあやすように力強くけれど優しく抱きしめ続けていた。
「助けたいのでしょう?」
 その声に、抗えずススキは頷く。
「ならば、助ければいいじゃないですか」
「でも私には、力がない」
 思わず箒を握り締める。と、ゆっくりと掌にしずくが落ちてきた。重力はほとんどないが、天地を決めるためにかすかに働いている。それにつられて涙が落ちたのだ。
「だったら、力をかりればいいんですわ。貴方はいつも一人で全てを背負い込んでしまうから、人にお願いする方法もしらないでしょうけど」
 くすくすと小さな笑いと共に、手が離れた。
 思わずススキは振り返ろうとする。
「大丈夫、誰も貴方を見捨てなんかしませんわ」
「まって、カトレ――」
 伸ばした掌は、何も触れずに空をきった。其処には誰も居ない。誰も居ない。
 が、目の前に広がるものがあった。
「……あ……」
 視界いっぱいに広がる天球儀だ。
 ゆっくりとブラックホールを包む内殻を中心に、歯車が囲んでいる。どこか遠くの恒星からやってくる優しい光を浴びて、輪郭を宇宙に浮き立たせていた。歯車の歯一つ一つが、暗闇にエッジのきいた光の尾を引いて回っているのが判った。あまりに壮大で、一つの精密機械のようなその姿に、ススキは息を呑む。
「あ……」
 ――誰も貴方を見捨てなんかしませんわ。
 掌を握り締めた。何かを抱きしめるように、胸の中央で拳を握り合わせる。
「お願い……」
 涙が、握り締めた手の上に落ちる。
 そんなこといっても無意味なのに、と頭の隅っこで誰かが呟く。けれど、そうじゃないと誰かが言った。涙はもうとめどなく溢れ続けていた。
「お願い! お母さんを助けて!」

 叫ぶ声は凛としたあの強い声ではない。まるで子供が叫ぶような不器用で不恰好な叫び。
 けれど涙にぬれたその叫びは、ウンジンが開いていたディスプレイから、世界の人間すべてに届いた。
 

「ススキ……」
 ウンジンのつぶやきだけが、謁見の間にぽつりと落ちた。誰もがススキの悲痛な叫びに目を伏せ、涙を流している。自分たちには何もしてあげられない、その思いだけがあたりに充満していた。
 カルミアはそんな皆をみながらため息をつくと、城下町を見下ろす。崩れ落ちた床に腰をかけるようにして座ったまま、足は投げ出され押されるだけで下へまっさかさまだという場所で、彼女は城下町を見る。
 相変わらずに、光がともっている街は幻想的なままで、美しかった。と、その光景に別の物が混じり始めた。動きだ。それが、地震のようなものだと気がつくには一瞬の時間を要した。
 あまりに緩やかで、しかし力強い揺れが世界を震わせている。
『――認。 艦長権限の』
 いきなり空全体をスピーカーにしたような声が響いた。女の抑揚の無い声で、その声が叫び続ける。
『を開始します。 艦長権限の譲渡を開始します。パスワードクリア。 艦長権限の譲渡条件をクリアしました』
 世界そのものが震え始める。
『三連戦術機デウス・ドライブ、エクス・マグイス、マキナ・アリヴィ三基の全承認を確認しました。全システムの起動。起動確認』
 まるで産声を上げるように地面が、空が、空気、森が、川が、海が震える。
『これより、本艦はスリープを解除します。全乗組員は、起動時の衝撃に備えてください。繰り返します、全乗組員は――』

 遥か遠く、地平線の向こうで歯車が爆ぜた。

 揺れは収まらずさらに大きくなる。警告を告げる声だけが高らかに鳴り響き続ける。
『all system unquestionable。これより、本艦は――』


 目の前で、天球儀が震えていた。
 ススキは驚きに目を見開く。
『艦長ススキノ・ススキ。副艦長不在、操舵手不在、航行長――』
 声が聞こえた。
『これより、本艦は艦長命令を遂行します』
 同時、光の柱が三つ天球儀から立ち昇ってきた。三つは重なり、しかし混ざらずまるで織物のように引き合い近づきながら真っ直ぐにススキに向かって走ってくる。
 そして、ススキのすぐ横を走り抜けると、そのまま背後へと。
 驚きに彼女は振り返る。視線の先には、いまだ光を受け続けほぼ形を残していない戦艦の影。
 そこにむかって光は走り、そして破砕した。
 まるで宇宙をすべて白く染め上げるかのような強烈な光。閃光ともいえるそれは、音も無くその全てを流し込む。
「!」
 あまりのことに目を背けようとしたその視界のなか、ゆっくりと戦艦が射線軸から離れていくのが見えた。
『ススキノ・ユウの退避を確認しました』
 安堵のため息が、ススキから漏れる。
「……はっ……はは……――っ!」
 三つの光が弾き飛ばされたのだ。弛緩しそうになったからだが一瞬にして緊張で目を覚ました。
 ――まだ来る。
 余裕も、容赦もなく、いまだ必殺そのものを体言した光が鎌首をもたげるように空間を突き進み始めた。今までいた邪魔者が居なくなったことを喜ぶように、歓喜に打ち震え、前に。
 拳を握り締める。しっかりとした感触に、ススキは頷きを一つ作って口元を引き上げた。
 頬に流れた涙の跡をぬぐい、大きく息を吸う。
「きやがれ、仕切りなおしだ!」
 両の手で箒を握りしめ、踏みしめることの出来ない足の代わりに体に軽く力を入れる。
 真っ黒な世界が広がっているのが見えた。その視界の中央に、無粋な光が一条。
 そんな光すらも、黒い闇は優しく包んでいるように見えた。何もかもを許容する色。どんなものも包み込むその闇は、ドコまでも優しくそして雄大だった。
 ――ああ、そうか。
 気を張り続けていた自分を意識し、ススキはふっと息を吐き出す。己の後ろには、皆がいるのだ。それは守るべき弱者なのではなく、共に歩むべき者達なのだ。
 全てを許し、全てを包み込み、全てを享受する黒き闇がゆっくりと箒からあふれ出し陣を形成していった。
 モチーフは歯車。天球儀そのものを模すような、精巧で雄大な式。
 ――滅でもない侵でも削でもない。
 それは、
『優月・允可の黒』
 伝説をも越え、御伽噺の先にあるその色は、宇宙の深淵に全く犯されない真の闇となってススキの前に広がった。
 そして光が激突するのが見える。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
 衝撃。
 その震えだけで、意識をもっていかれそうになる。押さえ込むからだそのものが、一緒に振動し体中が軋みを上げた。
「っく……あ、あああああああああ!」
『出力サポートを開始します』
 一瞬ツバキの声かとおもったが、微妙にイントネーションの違う声がした。けれど意識をそっちに向けた瞬間、吹き飛ばされそうでススキは前を見続ける。
 ゆっくりと体が押されているのが判る。全く減衰しない光の流れに、肩が軋んだ。
「ココまで来て、引き下がれるか!」
 かみ締めた奥歯が欠け、口の中に鉄の味が広がった。それでもススキは気にせずに渾身の力を両手にこめる。幾度も物理演算を繰り返し、世界を作り変え、しかし破壊されその上に世界を作り直す。一瞬でも世界構築を間違えた瞬間、間違いなく目の前の光はススキを飲み込むだろう。
 しかし彼女は一歩もひるまず、じっと前をにらみ続ける。
『減衰率九〇%を確認』
「糞が! 誰が全部受け止めてやるか! 世界にはなぁ! 許容されない現実もあんだよ! 残念だったなぁ!」
『重力サポート開始。慣性率変化。座標固定完了。効果範囲内ガイド生成終了。いけます』
「テメェは、宇宙の隅に吹き飛んでいやがれ!」
 真っ向からうけとめるのではなく、その光条を弾いた。
 空気ではなく空間そのものが震える気の遠くなるような爆音。

 それは、地上に居る彼らにまで届いた。
 皆が皆空を見上げていた。
 空を一直線に地上に向かっていた一筋の光は、途中から折れ曲がるように軌道を変え地平線の向こうへと消え去っていく。
「星が、流れてく」
 シュンランが呟いた。
 皆が空を眺めている。綺麗な一条の光は、そのまま空を横切りまるで流れ星のように夜空に一筋の光を残して消えていった。
「流れ星……」
 星溢れる空に、まるで筆で一筋白をいれたように綺麗で力強い流れ星が流れていく。
「綺麗っすね、星空」
「ああ、これをずっと見たかったんだ。ずっと……」


 ため息がどこからとも無く漏れた。
 フィリフェラはリングを握りしめ、空を眺めていた。
「姉さま」
 シュンランがすぐ傍にきて座る。
「ねぇ、シュンラン。お母様は、もしかしたらこうなることわかってたんじゃないかしら」
「どうして?」
「だって、貴方達をつれてきてくださったんですもの」
 シュンランは驚いて顔をあげ、見下ろしている姉をみる。何も言わず、優しく見下ろしている姉をみて、シュンランは笑い返した。
 静寂が降りる。
 が、いきなりスモモがくしゃみをしてそれを破った。
「寒いね」
「そうね、みんなさっきまで動き回ってたからわからなかったかもしれないけど」
 そういって、カルミアが笑う。寒さの元凶をつくったアサガオは、じっと空を見上げていた。
 と、いきなり警告音が鳴り響く。
「なに!?」
『HUBICシステムのエラーを確認。HUBICシステムを再起動します。再起動予定は二時間後。HUBICシステムのエラーを確認。HUBICシステムを再起動します。』
 スモモは内容をきいて、安堵のため息をついた。
「なーんだ。HUBICシステムだったら、別に……」
「ススキさんは、今どこっすか!」
 立ち上がりアサガオが叫ぶ。
『上空、二〇〇〇キロメートルを降下中。意識不明』
「――!」
『HUBICシステム停止のため、詳細現在地の特定が不能です』
 一瞬にして謁見の間が色めきたった。
「場所がわかれば助かるっすか」
『不能。現在HUBICシステムは停止しております』
「そんな……」
「ユウさんに連絡をすれば」
 スモモがあわてて声をあげるが、
『プルタブへの交信は全て断絶中です。乗組員の生存は確認。ですが、プルタブの航行機能は全て停止しております』
 すぐに戦術機からの返答があった。アサガオがため息をつく。
「艦長権限の一時譲渡は」
『権限譲渡は人間のみとなります』
「ここまできて、人権っすか。クローンは人間じゃないっすか」
 誰も居ない夜空を、ゆっくりとススキは重力の腕に引き寄せられ落ちていく。
 彼女の耳には風の音も届かず、目には魂が抜けそうなほど綺麗な星空も見えていない。

 遥か遠く地平線の向こう、もう歯車は回っていない。




簡易やる気がない人物紹介:
ススキ
 主人公。泣き顔を見られたので、全人類抹殺計画を練り始めている。殺すリストトップはウンジン。

ユウ ――初出:「トラウマの世界へGO!」
 主人公の母親風味。神風特攻隊。お国のためなら死んで見せます。浪花節。

ウンジン/ニノ
 主人公の育ての親。自分に負けて出来たての新しい世界に飛ばされた。時間牢獄で、更生した。

スモモ ――初出「土中入定! 即身仏」
 主人公の弟子(仮)。金髪。黄色はいらない子。

アサガオ ――初出:「早起き少女アサガオと絵本の天使」
 先天性白皮症。じつは、そんなに早起きじゃない。本が好き。引きこもり。

フウラン ――初出:「大切な記憶の願い事」
 先天性白皮症のショタ。苦労人。三〇〇年前の大戦の忘れ物その一。

シュンラン ――初出:「大切な記憶の願い事」
 ガチサドのロリ。バカ。三〇〇年前の大戦の忘れ物その二。

フィリフェラ ――初出:「大切な記憶の願い事」
 貴族。王様候補。銀髪。

カトレア ――初出第10回「ピンチ! ナンパが出来ない!」
 銀髪貴族。身内に優しく他人に厳しく。己には劇甘。

カルミア ――初出:「コスプレ不合格!? 本人登場」
 アイドル。王様なんかよりカリスマ持ち。結構危険人物。カトレアと名前を間違えられる。

ツバキ
 ぜんざい。





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