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・テーマ「まもる」

 遥か遠くで回り続ける歯車は、音もなく輪郭も無い。
 
 夜の闇は思いのほかに薄く、雪に染められた町は微かにその姿を浮き上がらせていた。
「ススキさん、寒いっす……」
 後ろから声を掛けられて、ススキは振り返った。式術による怪我は治したものの、服は直ってはいない。ボロボロどころか、たぶん背中は丸見えだろう。
「……あきらめろ」
 だれも居ないからと言って、どこかの家で火事場泥棒みたいなまねをするわけにも行かず、服を奪えるような人間すら居ない。向かう先にそびえる城は、雪に染められて嫌でも寒さを喚起させる。
 と、一瞬辺りが明るくなる。驚きに二人は光源を探すが、既に光源は消え場所ははっきりしなかった。
「なんの、光っすかね」
 片腕になってしまった色なしの少女が、光の発せられた方向を見ながら言う。服は血と泥にまみれ穴だらけだが、彼女の肌はそれでも白く美しかった。
「式術だ」
 呟くような答えは、少女の前対照的に真っ黒なシルエットから黒が基調のメイド服に。漆黒の髪の毛、エプロンは白いもののそんな物が黒を犯せるわけもない。
「式術? え、でも今の光、全然色なんか……もしかして」
「……」
 式術は常に色をまとう。色がない式術は存在しない。アサガオは、黙り込んだススキの顔を覗きこむが表情は見えなかった。
「白だ」
「えぇっ! 全二式……って、じゃぁウンジン様が」
「いや、あいつは使わないだろ。白なんて、意味が無い色」
 わからないのならどうでもいい、そんな表情でススキはまた城へ向かって歩き出す。
 逆に、判らないことがどうしても気になってしまうアサガオは、ススキの背中を追いかけようか光の出所をつきとめようか迷い、立ち止まっている。
「あ、ちょっと待ってススキさん!」
 迷ってる間に、ドンドンと先に行くススキを追いかけて、結局アサガオは走り出した。
 
 雪は踏みつけられ、既に地面が顔を出している大通り。二人は、目の前に城を見据えながら其処を小走りに抜けて行く。
「ススキさん、白ってなんなんっすか?」
「不明だ」
「不明? 判らない?」
 首をかしげるアサガオに、どうやって説明したもんかとススキも一緒に首をかしげる。
「だから白は不明だって。いや、不定といったほうが正しいのか」
「――もしかして、なにが起こるか判らないとか」
「そう、だから不明。そんなもん、あの干物が使おうとするとは思えない」
「なるほど……」
 納得したアサガオを確認し、ススキはまた前を向いて走り出す。
 ――白の構成触媒なんて、カトレアの式具にしか無い。
 城はしだいに近づいてきている。収容した住民達のざわめきが、微かに耳に届いて着ていた。
 ――ニノが生きていたということか。じゃぁなぜ式術を?
「ススキさんそろそろ」
 ――ウンジンしかいないか……。
「ススキさん?」
 アサガオの声に、我に返ったススキは振り返ると首を縦に振った。
「わかってる、仕上げといこう」


 謁見の間は、いらだった空気に支配されていた。階下からは、避難させた住民の喧騒が響いていて、なおさら苛立ちを加速させる。
「ウラジロ、あのヒマワリとかいうメイドはどこにいった!」
 新王は、吐き捨てるように後ろに控える初老の軍人に叫ぶ。せわしなく苛立ちに震える足は、もはや王の素養全てを否定し、よどみによどみきった目は部屋を落ち着きなく見回していた。
「は、先ほどの城下の騒ぎを確認しに行くといったまま、連絡が――」
「だから別の者に行かせろと言ったのに!」
 そんな事は一度も言って居ないが、ソレでもウラジロは申し訳ありませんと頭を下げた。
「さっきから、騒がしいな。屑どもが何を騒いでいるんだ……」
 階下から聞こえてくる喧騒は、さきほどから収まるどころか膨らんでいた。
「はて……」
 確認しようとウラジロが窓から顔を出した、瞬間。
「――王! 大変です、霧が!」
 はじけるように、顔を戻し彼は叫んだ。
「霧だと! ヒマワリが言っていたことが本当になったのか」
「急ぎ、兵を集めましょう」
 ヒマワリは、城をでるときもし霧がでたら注意しろと最後に残して消えた。 
 雪が振ったばかりで日も指す前のこの時間に霧が出るわけが無いと、二人は鼻で笑って取り合わなかったが、結果は窓から地面が見えないほどの濃い霧の出現だった。
「なんでこんなときに、霧など……式術か」
「でしょうな、霧と言うよりは雪を溶かした湯気といったほうが近いかもしれません」
「しかし、何でそんな回りくどい事を」
「そのまま式術を放つより効率がよいのでしょう。急げ、兵をあつめてこい」
 後ろの言葉を、近くの兵に叫びながらウラジロが答える。
「急がなくてもいいだろう、なにせ私には人質がいるのだから」
 そういって、玉座の横に座らされている少女を見下ろした。猿轡に、目隠し、腕と足を縛られた姿が其処にある。銀色の髪の毛だけが、自由に床に広がっていた。
「なぁ? そうだろ、フィリフェラ。せいぜい、私の為に役立ってくれ。といっても、私の声も聞こえていないんだったな。ははっはははは!」
 同時だった。
 爆発とも思える打撃音が謁見の間に響いたのは。
 霧は留まるところを知らないといった風に体積を増やし、既にこの謁見の間の床にまで達している。その霧が揺れた。入り口付近から兵が吹き飛ばされたのだ。そして、その入り口からゆっくりと影のような物が姿を現す。
「アレを捕らえろ!」
 王の座る玉座から、入り口までは百歩を数える。百歩向こう黒い影をさしてウラジロが叫んだ。数人の兵達が走り出し、影に向かって殺到していく。
 が、接敵した瞬間兵が吹き飛んだ。

「な……」
 ウラジロは何も言えず、新王も驚きに固まっている。
 ゆっくりと影が近づいてくる。明かりに照らされてなお、黒い影が。
「よう」
 足音だけが聞こえる。
「返して貰いにきたぞ」
 真っ黒なメイド服に真っ黒な髪の毛。腕には一本の箒。
「選べ。死ぬか――」
 足音が。
「――殺されるか」
 真っ黒なシルエットの中、狂気に満ちた笑いが張り付いている。

「ススキ……」
 ウラジロが、身構えながら呟いた。その言葉に、玉座の横に座らせられていたフィリフェラは全く反応しない。ただうなだれるように、その場に座り込んだままだった。
「おっと、動くなよ。貴様が来るのはヒマワリから聞いていた。もしかしたらとはいっていたが、まさか本当になるとはなぁ。残念だが、それ以上動くな、でなければ」
 新王は、懐からナイフを取り出し、ゆっくりとフィリフェラの上にもっていく。
「ブスリ。だ」
 しかし、その言葉が聞こえていないのか、ススキの歩みは止まらない。
「貴様、聞こえて――」
「聞こえてるさ、落として見ろ、突き刺して見ろ。刺さる前にお前が死ぬだけだ」
「ひっ」
 強烈な殺意を向けられ、新王は悲鳴を上げた。ススキの歩みは止まらない。
 と、また足音が謁見の間に近づいて着ていた。
「……ふん、残念だったな、ススキノ・ススキ。黒の式術師。稀代の式術師ウンジンの一番弟子よ」
 叫んだのはウラジロ。いぶかしむように、ススキは視線を向ける。
「そら、もう一人ご到着だ」
 顎でさすのは、ススキが入ってきた入り口。思わずススキは、振り返った。
「! ――スモモ」
「先ほど、城の前で見つけたそうだ。式術師と言えども、子供。不意さえ突ければとるに足らんな。訓練された人間の相手では無い」
 兵に掴み上げられたスモモがいた。腕は後ろ手に縛られ足も縛られている。式具は奪われ、兵士の腰に括り付けられていた。
「ごめんなさい、ススキさん」
「どうする? どちらか選ぶのはお前のほうだぞ」
 ウラジロが笑う。ススキはさすがに動けないのか、ゆっくりと階下から上がってくる霧の中央で立ち尽くしていた。
「……」
 ススキは箒を捨てた。絨毯に落ちた箒は音を立てず転がる。風だけが舞い上がり、ゆらりと霧がうごいた。
「さぞ見晴らしが悪く、突入しやすかっただろうが。おかげで、ヒマワリの予想通りの結果がまっていたわけだ。霧に乗じて貴様らは城内へ突入、フィリフェラの奪還。だが、残念だったなぁ。ぜんぶ、予想通り予定通りだ」
 ウラジロが、面白そうにべらべらとしゃべるのをまるで他人事のようにススキは聞いていた。ゆっくりと、玉座を離れていくウラジロ。新王はいまだ楽しそうにナイフをフィリフェラに突きつけてこちらを見下ろしていた。
「いくら貴様でも、同時に二人を助ける事はできまい? どちらかを守ればどちらかが死ぬ」
「ススキさん! 私はいいからフィリフェラちゃんを……ぐっ」
 叫んだスモモの首がしめられる。喉元にはナイフが突きつけられ、うっすらと首から血が滲み出ていた。
「さぁ、選べ。理不尽で揺るぎの無い結果をなぁ!」
「もう選んでる。――お前達が死ね」
 言葉と同時、ススキは床を踏みつけた。
「――!」
 跳ね上がったのは箒。光の尾を引いて、箒が放物線を描いていく。色は。
 黒。
『滅月・侵削の黒』
 変化は一瞬だった。
 大六式を越える全二式のうちの一つ。伝説すらをこえた、既に御伽噺の領域の色がゆらりと揺れた。
 黒色は一瞬で霧散。次に襲ってきたのは衝撃でもなく音でもなく、気が狂いそうになるような圧力だった。
 空気そのものが、重くなったような、いや自分の体が重くなったようなそんな圧力を感じ、ウラジロはその場で床に倒れる。
「っ!」
 見れば、謁見の間にいた全ての人間が地面に伏せていた。
 ススキだけがただ一人その場でたって箒を握っている。
「理不尽? 理不尽なのは、残念ながらこっちみたいだな」
「くっ……黒がぁっ!」
「そう理不尽で欠片の妥協も無い、全てを塗りつくす色の名さ。――アサガオ!」
 気圧による耳鳴りの向こう、入り口の方から足音が聞こえた。
 だが、何も見えない。白く煙った霧の向こう、足音だけが――
 ウラジロの視界が反転した。蹴り飛ばされたのだと気がついた時には、既に重力に押し込まれ地面にもう一度うちつけられる。
 この状況下で動ける人間がいるとすれば――
「いろ……なし」
 霧にまぎれて判別がつかなかったのか、今更気がついた事実にウラジロは歯噛みをする。
 アサガオは、ウラジロの横を走りぬけるとそのまま霧に紛れ、フィリフェラへと走りこんだ。座り込んだまま床につぶされているフィリフェラの横には、あまりの重さに取り落としたナイフが一本。その横で、新王が椅子にぐったりと座り込んで苦しそうな顔をしていた。
 アサガオは手を伸ばしフィリフェラを片手で器用に抱き上げると、そのまま走りぬける。
「ススキさん!」
 その言葉に、いきなり重圧はなくなり、元の空気が返ってくる。
 アサガオが振り返ると、スモモを抱えたススキがコチラを向いて頷いた。
 誰もが終わったと思った。
 二人が走った後を追いかけるように流れた風に、巻き上げられた霧がついていく。音はなく、倒れたまま、ころされる事を覚悟したウラジロが目を瞑り、体がいきなり軽くなったことに驚く新王が目を開き、ススキに蹴り飛ばされた兵士が気絶し。アサガオは、ちょうどフィリフェラの目隠しと猿轡を取り終えたところだった。
 何もかもが終わったと。
 そう――
 だから。
 壁が、玉座の後ろの壁が盛り上がり、そして破砕したことに一瞬反応ができなかった。
 土煙の向こう、黒い影。黒い大剣の影が見える。
 一瞬にして、ススキは血の気が引いた。足を踏み出し、前へと。
「だめだ! シュンラン!!」
 しかし、剣はゆっくりと円弧を描く。土煙が切り裂かれ、空気が切り裂かれ、その軌跡の先には、玉座に座ったままの新王がいる。
 ちょうど横には、助け出されたフィリフェラがいた。彼女もまた、音に驚き上を見上げている。しかし、その目には全く生気はなく、ただ見ているという形だけの物だった。
「やめろぉぉ!」
 叫ぶが、どうやっても届かない。手を伸ばしても距離が足りない。踏み出した足がいやに遅い。風が重たく、体は一向に進まない。
「シュン、ラン」
 呟くような声が聞こえた。続いて、剣が激突する音。
「うああああああああああああああああああ!」
 そして新王の叫び声。
「う、腕が! ひっ、腕が!! 俺の腕がああああああ!!」
 土煙の向こう、大剣を振り下ろしたシュンランはうつむいていた。頬に伝っていた涙は誰にも見えていない。


 謁見の間は、静かな空気が流れていた。
 破壊された壁と玉座に、血にまみれた床。辺りは凄惨だが、空気は落ち着いている。
 ススキはうつろな目をしたままのフィリフェラを見下ろしていた。横には、心配そうにしているシュンランとフウランが控えている。
「ススキさん、ウラジロさん閉じ込めてきました」
 入り口から、ひょっこりとスモモが顔を出す。遅れてアサガオも顔を出した。
「新王のほうは、脅したら王位から降りるって泣いて謝ってたっす」
 振り返り、無言でススキはうなづく。
「で、フィリフェラちゃんのほうは……」
 フィリフェラは外部からの反応をうけつけなかった。一度だけ、呟くようにシュンランの名をよんでから、また己の殻閉じこもるかのようにじっとしている。
「心的外傷じゃない、たぶん式術だ」
「え? じゃぁ!」
 壊れてしまったのかと、心配されていただけにスモモの顔がぱっと明るくなる。
 が、ススキの顔は逆に全く明るくはなかった。
「解除したら、脳が焼けるな。結構無理やりにしかけられてる、そうとう暴れたんだろ」
 ススキの言葉に、シュンランとフウランは無言で頷いた。
「あの、姉さまは」
「治るよ。けど、色無しじゃないと治せない」
 無言のままアサガオとフウランに視線が集まる。
「あ、じゃぁボクが」
 フウランが一歩前に。ススキはソレをみて、薄く笑う。
「よし、じゃぁキスしろ」
 無音。
「「えぇ! ええええええええ!?」」
 すごい勢いで後ずさるフウランを、ススキはゆっくりと追うように歩く。
「いや、ちょっと、その、一応養子とはいえ、僕達は兄弟なわけでして」
「……めんどくせぇなぁ。おい、アサガオ」
 振られて、アサガオは自分を指差す。
「別に、男でも女でも関係無いし。一時的に補足座標が狂えばいいんだ」
 青くなるアサガオは必死で弁解を始める。
「あー、いやほら私一応同性だし。それに――」
「判りました、ボクがやりますっ」
 その時振り返ったススキの笑顔を、フウランは一生忘れられないと思った。心底楽しそうに狙ったところに狙った物が当ったようなそんな顔。
 襟首を捕まえられたと思った瞬間引きずられ、フウランはフィリフェラの目の前に投げ捨てられる。
「さぁ、えぐりこむようにチューだ」
 力いっぱい、頭を抑えられフウランは動けなくなった。押される頭に対抗しようと、必死で抗うが、ススキの膂力に叶うわけもなくゆっくりと姉の顔が近づいてくる。
「諦めろ、姉を守りきれなかったお前達と、お前達を守ろうとした姉の結果だ」
「うぅ……」
 唇に、やわらかい感触が来た。フウランは目を瞑り、姉に意識が無い事を祈る。
 

 ゆっくりと、フィリフェラは目をあけ周りを見渡した。
 彼女は二三度まばたきをすると、ススキを見止め目を丸くする。死んだと聞かされた者が目の前にいる。
「ススキ、さん?」
「よう久しぶりだな」
「ここは……」
「全部片付いた。お前の記憶にある事は夢でも無いし、嘘でもない。現実だ。だけど、全部終わった」
 ゆっくりとススキが立ち上がる。シュンランとフウランが心配そうにフィリフェラを覗きこんでいる。返事をするようにフィリフェラが微笑んだ。
 記憶は夢でもなく、嘘でもない。その言葉がしみこんでいき、一瞬だけフィリフェラは目を伏せる。
 彼女の目の前で母は殺された。現実味を帯びないその言葉が、ゆっくりと輪郭を得てフィリフェラの体にしみこんでいく。
「そう、ですか……」
 怒りはなかった。ただ、フィリフェラは自分のふがいなさが情けなかった。
「おぅい、ススキー」
 と、遠くからウンジンの声がきこえ、みながそちらを向く。フィリフェラも、上体を持ち上げそちらを見た。
 謁見の間の入り口から、老人がひょこひょことこちらに歩いてくるのが見える。
「じじぃ、遅いぞ」
「すまんな、忘れ物とりにいっててな」
 そういって手を上げる。
 その手に収まっているのは、銀色の二つの輪。
「カトレアの……」
 ウンジンからその銀色の腕輪を受け取ると、ススキは一度強く握り締めた。金属のこすれる硬質な音が聞こえる。
「フィリフェラ」
 しゃがみこみ、フィリフェラの目の前に座り込むと腕輪を差し出す。
「コレは、お前のだ。すまなかった、私がちゃんとあいつを見てれば……」
 ゆっくりとフィリフェラはその腕輪を受け取った。握り締め、やっと母がいないのだという事実が彼女の中にしみこんで行く。
「うっ……母様……。申し訳、ありません。私が……」
 誰に言うでもなく、彼女は腕輪を握り締めうずくまる。
「カトレアは誰の所為だとも思って無い。人の所為にするような人間じゃないのは、お前がよくしっているだろう?」
 ウンジンがため息混じりに呟く。それでも悲しさは消えない、肩を振るわせてフィリフェラは涙を流し続けていた。
「母様っ……母様……母様母様母様……」

 なき崩れるフィリフェラのすぐ傍で、ススキは膝を突き彼女を見下ろしている。声を掛けられないのか、シュンランとフウランは一歩はなれたところからその二人を見ていた。
 ウンジンは仕方なさそうにため息をついて、そのちかくでスモモはうつむいて泣いている。
 
 そして、アサガオは、ただ一人を見ていた。
 
 まるで全て仕組まれ、そして物語をなぞるように終了した。綺麗にたたまれた物語のはずなのに、何かがおかしい。戦争を起こした理由は既に本人が居なくなって真意は判らずじまいだが、おこりえた長い長い世界を相手にした戦争は引き起こされる前に終結しようとしている。
「おい、爺。カトレアの腕輪は」
 ススキが振り返ってウンジンを見た。
「ん? ニノから返して貰って来たぞ」
「そうか、仕留めそこなったのか」
 アサガオは、無表情で二人の言葉を聞いている。
「二ノが白をつかったのか? あの時、一瞬だけ光がみえたんだが」
「……あ、あぁ。いや、ワシ」
 呆れ顔になるススキ。そして、対照的にアサガオは表情を厳しくした。
「何が起こるか判らないのに……ニノはどうなったんだよ」
「いやぁ、はははは。とりあえず、消滅したんじゃないかな。基本的に物理法則がぐちゃぐちゃの世界に放り込まれるからなぁ。運が良ければどっかに転移してるかもしれんが――」
「あの」
 アサガオがたまらず口を挟む。
「白って、世界を特定させないで呼び出すから、何が起こるか判らないって事っすよね?」
「ああ、そうだ。大体は物理法則の違う世界に取り込まれるから存在崩壊して消える」
「そうっすか。じゃぁ――」
 語尾は激突音に書き消された。
 連続して続くそれは、床に突き刺さる何かの音。
 誰もが何が起こったか判らない。音だけが続く。何本も何本も剣が突きこまれるような音。
「いやあああああああああああああああああああ!」
 フィリフェラの、悲鳴。土煙が上がっている。フィリフェラは――
 顔半分を赤く染めて叫んでいた。
「ススキさん! ススキさん!!」
 彼女の前にいたはずの、ススキのシルエットが見えない。巻き上げられた煙の向こう、人間ではありえない、まるで剣山のようなシルエットだけがみえている。
「そんな……」
 風に、煙が晴れていく。
「そんな――」
 目の前の光景に、誰もが息を呑んだ。
 
 鉄の棒が、床に突き刺さっている。まるで、そのシルエットは剣山のように一点に向かってつきこまれている。
 その一点に、立っていたのは。
 
「ススキさん!!」

 放射状に綺麗な形を描き、全てがススキの胴体を中心に突き刺さり、突き抜け、床にまで達していた。いや、床でも止まらずに床に突き刺さっている。
「ごっ……はっ」
 声になら無いうめき声を上げ、ススキが血を吐いた。
 水っぽい音をたて、フィリフェラにその血が降りかかる。
「いやああああああああああああ! ススキさん! ススキさん!!」
 反応したのはフィリフェラだけで、後は誰もが呆然と立ち尽くしていた。フィリフェラは、ススキを突き刺している鉄棒を握り締め、引き抜こうとする。が、ススキの血をかぶり滑る手では床に深く突き刺さった鉄の棒が動かせる事はなかった。
 石畳を叩く、硬い硬質な音。
 霧も晴れ始めた謁見の間の入り口から、軽い足音がした。
 なぜか、フィリフェラの叫び声よりもその足音が耳につく。アサガオは、ゆっくりと音のする方向を見た。
 
 赤い。
 
 赤い色が見える。
「娘を」
 足音が聞こえる。燃えるような赤い髪。ススキによくにた、焼け付くような意志に溢れる視線。足音。
「受け取りに来た」
 酷く、落ち着いた声が謁見の間に響く。
 
 

簡易人物紹介:
ススキ
 ホイ串刺し。ホイ死亡。
 だが、地獄行く。理不尽の体現者。
 
アサガオ ――初出:「早起き少女アサガオと絵本の天使」
 いいところ邪魔されたので、起源悪いです。ススキさんのママは空気がよめないとおもいます。

フウラン ――初出:第12回「大切な記憶の願い事」
 漢。
 不幸を背負う真っ白は背中は、あまりにも弱々しく、痛々しい。
 
シュンラン ――初出:第12回「大切な記憶の願い事」
 じつは、仇ーっつーか人が切りたかっただけってのは、秘密にしてます。 

ウンジン
 秘密老人。アサガオににらまれて、ちょっとちびった。

ユウ ――初出:第08回「トラウマの世界へGO!」
 赤い人。ススキのママ。不条理の体現者。どっかの、性春エンタメな赤いひとみたいに、正義ではないので注意。






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