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・テーマ「ロボット」

 我関せず。歯車は、何があっても変わらず動いている。
 
 足音が聞こえる。中央の城下町は道が整備され、何処へいっても綺麗な石畳が並んでいた。軽く乾いた足音が、連続して聞こえる。しかし、その音は余りにも小さくすぐに喧騒に溶け込んでいった。
 足音の主は、小さい体に長い髪の毛をなびかせ路地裏を走りつづける。まるで何かを探すように。
 と、いきなりその姿がかすんだ。軽い足音を一つ、彼女は空へと飛び上がる。耳には風を切る音。
「姉さま……」
 呟きは風に流されていく。
 上空から町を見下ろして、シュンランは一瞬だけ寂しそうな顔をした。


 時はさかのぼって、朝。
 久しぶりに、カトレアが帰ってきた。王が殺され、葬儀と王位継承の儀でずっと彼女は家に帰ってなかった。
 式術近衛団団長という立場は、臣下団とは全く別系統で国を守る立場にいるため、団長ともなると激務では言い表せないほどの仕事が舞い込んでくる。ただでさえ、継承は戦争を起こす危険性を孕んでいる。そのために王は不老調整を受けていた。誰もが、王はいなくならないと勝手に信じきっていた。そして、そのしわ寄せは余りにも大きかった。
 カトレアの自慢の縦ロールがしなびる程度に。
「お帰りなさいませ。お母様」
 玄関でカトレアを迎えたのは、三人の子供達だった。フィリフェラを中央に、左右にシュンランとフウランが並んでいる。
「疲れました。フィリフェラ、お茶入れてくださる?」
「はい、お母様」
 心底疲れたといわんばかりに、カトレアは頭を抱え自分の部屋へフラフラと歩き出す。その足取りは、あの気丈なカトレアの足取りとは思えない程に、力の無いものだった。
「母様、大丈夫ですか?」
 フウランの言葉に、階段を上る足を止めカトレアが振り返る。
「問題ありませんわ。明日まで寝れば、良くなります」
 そういって、カトレアはまた歩き出した。
「え……、母様?」
 だがシュンランの驚きは、カトレアには届かなかった。彼女は、そのまま扉の向こうへ消えていく。小さく丸い音だけが残った。
「どうしましたの?」
 背中から声をかけられ、二人は驚いて振り返る。
 姉のフィリフェラが紅茶を盆にのせ、不思議そうに二人を見ていた。
「いえ……大姉さま、母様は自室にもどられました」
「そう? ありがとう」
 銀色の長い髪の毛を揺らし、フィリフェラは歩き出す。その背中からは、期待と喜びに満ちたオーラが漂っている。
 そんな背中をシュンランとフウランは、少し心配そうなめで見送る。
「姉さま、母様は」
「だ、いじょうぶ。私たち養子の身ならいざ知らず、実の娘の――」
 ぱたんと、カトレアの扉が開く音がする。
「誕生日を忘れるはずがないもの」


 扉をくぐると、母の匂いがした。フィリフェラは大きく息を吸うと、一歩前へ。背中で扉が閉まる音がする。
「お母様、紅茶いれてまいりました」
 声に反応するように、窓際にあるベッドがもぞりと動いた。
「ありがとう、フィリフェラ。いただきますわ」
 そういって上半身を起すカトレアは、まるで精気が無い。
 本当にこれがあの、どんな時でも毅然とした母なのだろうかと、フィリフェラは思う。盆を持ち、カトレアの前に。
 無言でカトレアはカップを受け取り、
「あつ」
 取り落とした。
 幸いベットの上には落ちず、カップは盆の上を転がった。もちろん、盆の上に転がったところで紅茶が全て受け止められるわけも無い。
 布団の上に紅茶がゆっくりと拡がっていく。
「お母様! 大丈夫ですか!」
 とっさに、盆を取ろうとフィリフェラが手を伸ばす。
 火花が散った。目の前が真っ白になり星の光のようなものを、フィリフェラは見る。
「え?」
 フィリフェラは自分の頬が叩かれたのだ、とすぐには理解できなかった。
「フィリフェラ! 貴方、言われたことしか出来ないのですか!」
「お、母様……」
「言われたことをするぐらい、ロボットにだって出来ます! わたくしは、これから寝るというのに、なんですかこの温度は! 満足に紅茶も淹れられないなんて」
「お母様……布団を」
 前に出ようとしたフィリフェラを、カトレアの視線が止める。
「もういいですわ。下がりなさい、私は寝ます」
「申し訳、あり、ません」
 唇をかんで、フィリフェラは俯く。涙を必死でこらえ、肩が震えていた。
「お母様、いつ起きられますか?」
「明日、新王と会議があります。それまで寝ます」
「……え」
「何をしているのですか。早くでていってくださいまし」
「お、かあさま」
 怒っているからなのか、それとも本当に忘れているのか。どちらにせよ、それはフィリフェラにとっては最悪の物でしかなかった。
 自分から言い出せるわけもなく、ただ手を硬く握り締め肩を震わせるほか彼女に取れる抗議はない。
「早く出て行って! 言うことも聞けないのでは、ロボット以下ですわ!」
 声に押し出されるように、フィリフェラは踵を返して走り出す。

 カトレアの部屋から逃げるようにフィリフェラが飛び出した。
 そのままの勢いで、フィリフェラは階段を下り、玄関を出て行く。
「大姉さま!」
 フウランの叫び声は届かず、後に残されたのは玄関の扉が軋む音が一つ。彼の脳裏には、フィリフェラの泣き顔が焼きついていた。
「フウラン、……姉さまが泣いてた」
 母に似て気の強いフィリフェラが泣いているところをシュンランは初めてみた。
「ちょっと母様のところに行ってきます」
 シュンランは弟に頷きを返すと、走り出した。
 カトレアの自室の扉まで走りこみ、フウランは一度だけ呼吸を整えノックをした。
「母様。はいります」
 有無を言わさず扉を開けると、面倒くさそうにカトレアがベットから上体を起す。
「なんですの、あなたまで。お願いだから」
「母様、今日は何の日だかご存知ですか?」
「え……えーと……」
 考えるように首を捻ったカトレアをみて、フウランはため息を一つ。
「大姉さまの誕生日です。激務とはいえ……大姉さまは泣いておりました。気が立ってるのは判ります、きっと新王は――いえ、申し訳ありません」
 忙しいとはいえ、いくらなんでも数ヶ月近く家を空けるようなことは在り得ない。大体、城と家はそんなに遠くすらないのだ、そこから出てくる答えは一つしかない。カトレアは、ほぼ幽閉に近い状態にあったか、なんとしてもやらなければならない事があったか。
 フウランは奥歯を噛み締める。子供で、しかも養子という立場で何か言えることなどは無い。無いのだ。だから、彼は言葉を飲み込んだ。
「ですが大姉さまは、母様が帰ってきたことを大変よろこんでおりました」
「あ……ぁぁ」
 カトレアは驚愕の表情でフウランを見る。その目から、一筋涙がこぼれる。
「わたくしは、なんてことを」
 我に返ったのか、カトレアは両手で顔を覆うと何度も首を振る。銀色の髪の毛を振り乱し、彼女は喘ぐように泣いた。
「お願いです、フウラン。わたくしは、フィリフェラに謝らなければなりません。お願いです、フィリフェラを」
「ご安心ください。母様。大姉さまは姉さまが探しに」
「……そう」
「私も探しに行きます。母様、もどってきたら誕生日を祝ってやってください」
 そういって、フウランは母の返事を聞かず走り出す。扉をくぐり、玄関を抜ける。メイドに声をかけ、母親に紅茶をと言うのを忘れなかった。
 
 
 路地裏で、シュンランとフウランは合流した。
 考えることは一緒だったらしい。町から出るのに、大通りを使うことはないだろう。ただでさえ式術近衛団団長の娘、目立つどころの騒ぎではない。
 一つだけ、シュンランは不安があった。
「フウラン。姉さま、空間断絶の式術つかって……」
「ありません。大姉さまが家を出て行くとき、式具は腕につけたナナカマドのみ。間違いなく徒歩でしょう。それに、あの勢いでわざわざ家に式具をとりに戻るとも考えづらいです」
「そう……。ならいいんだけど」
 フウランは無言で姉の言葉に頷く。一つだけ、彼は伝えていないことがあった。
 もし……もしも、新王の体制に母親が反対をしていたら。
 事態は、多分最悪である。可能性の話をしてもしょうがないと、フウランは姉の背中を追いながら首を振った。
 不安材料は一つ。母がずっと帰ってこなかったことではなく、まるで拷問を受けていたような――顔を覆って泣いていたとき腕に傷を見た気がする。
「フウラン、急いで。姉さまは頑固だから、早くしないと本当に町をでしまう」
「はい」
 不安を振り払うように加速。二人は裏路地を走りぬけていく。

 声が聞こえた。
 聞き覚えのある声だ。紙を裂くような、金切り声にもにた悲鳴。
「! ――大姉さま」
 間違いなくフィリフェラの声だった。
「フウラン。急いで!」
 彼は姉の言葉に無言で頷くと、その場で飛び上がる。
 同時、足の裏からとんでもない加速がきた。
 シュンランの拳。
 初速はゆっくり、だが加速は容赦が無い。膝が、軋みを上げた。フウランは表情一つ変えず、前を見る。
「とっ――べぇぇぇぇ!!」
 叫びと同時、拳が振り抜かれた。拳の速度はそのままフウランを前に飛ばす力に。
 式術の発動速度など眼中にない。全てが一瞬。何よりも早く、何よりもためらわない速度が走る。声が聞こえたのは、城下町の出口。そこには、王国親衛隊の門番がいる。
 風に体中を持っていかれそうになりながら、フウランは奥歯を噛み締める。
 ――最悪が的中しました。
 放物線を描き上昇していた体は、次第に高度を落としていく。拡がった視界のなか、門番が見えた。
 アレは、式術近衛団の団長の娘を保護している動きではない。間違いなく捕らえている。
「大姉さま!」
 頭上から降ってきた声に、フィリフェラは顔を上げた。泣きはらした赤い目は助けを求めていた。
 門番がフウランに気づき、フィリフェラを盾にするように構える。後ろで腕を極められているのが見えフウランは舌打ちを一つ。同時、重心をかえ目の前に着地した。
 式術の加護などあるわけもなく、衝撃に足が軋んだ。
 彼は痛みに表情一つ変えず、怒りをもって姉を捕らえている門番を睨んだ。
「フウラン!」
「大姉さまを離しなさい。無礼にも程があります」
 脅しながら状況を確認する。もがき逃げ出そうとするフィリフェラの腕が一瞬見える。そこには式具に巻きつけられた――
「色無しの肌……」
 己と同じ色素の無い白い白い肌。それで作られた式具封印帯が巻かれていた。嫌悪感を飲み込み、フウランは男を睨む。
「外道が」
「養子の色無しか」
 門番の男が、嫌味たらしい笑みを口元に貼り付け笑う。
「カトレアの子供三人を捕らえろと、指示が出ててね。まさかこんなところに来るとは思わなかったが、儲けたぜ。俺もコレで門番なんて陰気な場所からおさらばだ」
「もう一度言う。大姉さまを離しなさい。でなければ」
 一歩前に。フウランは左手の指全てにはめてある式具を、握り締めるように確認する。
「逆だぜ、色無しのガキ。動くな、動いたらこいつは殺す」
「なっ! 何を言ってるのか判っているのか。そんなことをして」
 フウランの狼狽が楽しいのか、男は笑みを一層強くしてフウランを見下ろした。
「いいんだなぁ。コレが。従わないのなら殺してでもつれて来い、という命令でね。わるいねぇ、坊主。コレも仕事だ」
 何が仕事か、フウランは舌打ちするが、手を出せないのも確かだった。
「フウラン! 姉さま!」
 背後から、声。姉の声に、フウランは自分の浅はかさを呪う。すぐさま離脱していれば、手の打ち用もあったのに。
「姉さま、来てはだめだ!」
 振り返った先、姉の長髪の後ろ二つの影があった。金髪で姉より少し大きい女の子と、背が高く容姿だけで目立ってしまう世界の至宝と呼ばれる演劇の女王の姿。その想像しえない組み合わせに、一瞬思考が真っ白になる。
「え……スモモさん、カルミアさん?」
 そしてフウランは、一生この瞬間を後悔することになる。
「馬鹿め!」
 左手に、式具封印帯が巻きつけられた。一瞬。だが、その一瞬で十分だった。左手に気色の悪い感触と同時、式具の停止する感覚が来る。冷たい死んだ肌に包まれて、式具は沈黙する。
「っ!」
 逃げようと前に。だが、封印帯をつけられた左手をそのまま極められた。
 フウランはためらわず腕に力を入れる。ゴキリと、肩が外れる感触。驚きで、男の手が緩むと――だが、それはやはり叶わない。
「残念だったなぁ。ガキ。いくらお前が規格外でもな、力比べで負けるほど俺はやわじゃねぇぞ。それに、お前達に殺された仲間の恨みもあってな!」
 折れた肩を、再度捻り上げられる。全く容赦の無い力加減に、フウランは逃げ出せないと悟った。
「姉さま! フウラン!」
「フィリフェラちゃん! フウランくん!」
 スモモとカルミア、そしてシュンランが駆け寄って来る。しかし、目の前の異常な状態に驚き、足を止めた。
 運の悪いことに、大通りには人通りが無い。昼前に街の外に出るような人間は、皆無だった。
「一遍に三人そろうとはなぁ。おっと、動くなよ。お前が一番危険なのはこっちもわかってんだ。だけどな、お前が俺を殺す前に、この二人に一生残る傷ぐらいは負わせられるんだぜ?」
「……フウラン……姉さま」
「俺と一緒に、城まで来てもらう。おっと、後ろの二人はついてこなくていい」
「――わかりました。行きましょう」
「「え!?」」 
 フィリフェラとシュンランが驚きの声を上げる。
「抵抗は無駄のようです。ただ、少し質問があります王国親衛隊側の新王が即位したと考えてよろしいですか?」
 フウランは視線を落としたままで、表情は読み取れない。
「はぁ? しらねぇよ。俺は門長にいわれただけだ。新王なんて興味はないね」
「そうですか。では、母が城にいたとき何をしていたか、ご存知ですか?」
「あぁ? たしか、どっかに幽閉されて……ってどうでもいいだろうが! おら、いくぞ! おめーもだよ! 付いてこなかったらこの二人を殺す。殺してもかまわねぇっていわれてんだ」
 容赦なく、フウランの折れた腕を捻り上げ男が叫ぶ。
 今にも爆発しそうなシュンランに、フウランはこらえてくれと目配せする。
「わ、わかりました。で、ではもう一つ」
「あぁ?」
「そちらの方と、話をさせて頂けませんか?」
 そういって、顎でスモモを指す。
「っち……俺も鬼じゃねぇ、遺言ぐらいすきにしろ」
「アサガオさん、銀が折れました。申し訳ありません」
「え? わたしは――」
 スモモは呆けた顔をする。自分はスモモだ、と口を開きかけ、カルミアに口を塞がれた。無言で首を振るカルミアを見上げて、スモモは力を抜く。
「――うん、わかったよ。かならず」
「すみません」
 スモモに軽く頭を下げてフウランは歩き出す。
「フウラン……」
「大姉さま、泣かないでください。大姉さまは悪くないのです。悪いのは、状況を楽観していた私です」
 男は笑いながら二人を押す。彼にとって、生まれて始めての手柄であり、凱旋だ。スモモとカルミアを後ろに、三人の子供と門番は城に向かって歩き出した。
「スモモちゃん」
「はい、判ってます。急ぎますんで」
「何か手伝えることがあったら、いつでも言って」
 スモモは、カルミアに礼を言うと走り出す。アサガオに伝言を届けるためだ。中央の城下から、アサガオやスモモが住んでいる国まではけっこうな日数がかかる。
 間に合うだろうか。昼前だというのに、空は曇り灰色に染まり始めていた。


 家の門を叩かれ、メイドに起されてカトレアは事実を知った。
 のんきに眠りこけていた自分を呪いながら、カトレアは城へと向かう。空が灰色に染まっている。嫌な空だ、とカトレアは呟いた。
 新王は、王国親衛隊隊長と懇意にしていた王家の血筋だった。本来ありえるはずの無い確率をモノにした王国親衛隊の隊長は、笑いが止まらないといった具合で玉座の横に立っている。
 王が死ぬわけがないので、王位継承は形式上の物だった。だから、そんなものが役に立つなどと、新王ですら思っていなかったのだ。
 王国親衛隊の隊長を除いて。
「カトレア、年貢の納めどきじゃな?」
 初老の隊長は、カトレアを見下ろしながら下卑た笑いを向ける。
「ウラジロ。私は新王に従うつもりは無い、と何度も申し上げております。それとも、貴方言葉がわからないほど、モウロクされました?」
 精一杯の虚勢をはって、カトレアが笑う。しかしその笑いには、どこか力が無かった。
「ふん。強がりも今のうちだ。つれて来い」
 ウラジロの言葉に、横から四つの人影。目も見張る銀色の少女、真っ白な髪と肌をもった少年、ダークブラウンの長い髪の毛の少女。そして、その三人を引っ張る気味の悪い男。
「お前も、意味がわからないわけではなかろうて。さぁ、誓え。王の前にひざまずけ」
「――カトレア」
 新王が顔を上げた。若い男だ。王族の血を引いてるだけあって、顔は整い見た目は美しい。だが、目が最悪によどんでいた。生まれながら王位継承第一位。だが、死ぬまでまわってくることの無い、継承権。今の今まで鬱積していた彼の歪んだ心が、そのまま目に映し出されているようだった。
「……はい」
「誓え。でなければ、まず養子の二人からだ。色無しは、生きながら皮をはいでやろう。ガキのほうは、体で売って死ぬまで稼いでもらおうか。ああ、お前の実子は体なんて売らなくていいぞ、安心しろ。そうだな――」
 腐った目だ。
「お前の目の前で、ゆっくり首を切り刻んでやろう! 親の顔を網膜に焼き付けながら死んでいく姿は、さぞ滑稽であろうな! ハハハハハハ愉快だ、愉快だなウラジロ!」
 新王の言葉に、ウラジロも笑う。
「……」
 唇を噛み千切ったのか、カトレアの口からは赤い筋が一つ。
「誓え、カトレア。あの糞爺との誓いを捨て、俺に誓え。俺の命令を聞き、俺の命令だけに動け」
「お母様! 申し訳ありません。私がっ! 私が!」
 こらえきれず、フィリフェラが叫けぶ。
「お母様! こんな奴の言うことなんて聞いちゃだめ!」
 シュンランも叫ぶ。フウランが静かにカトレアを見た。
「母様。生きていれば先もありましょう――」
 カトレアは、フウランの目をみて小さく頷く。
 抗議の声を上げるシュンランを無視して、カトレアは口を開いた。
「フィリフェラ、誕生日おめでとう。そして、ごめんなさい。私は、貴方達を失うことは出来ませんわ。王よ、一つだけ聞いていただきたいお願いがあります」
 新王に向き直り、カトレアは胸を張る。
「養子の二人にはもとより関係の無い話。御慈悲を。もし御慈悲をいただければ、この銀色の式術師、貴方様の手となり足となり、何なりと従いましょう」
「はっ。いいだろう、もとより養子などに意味はない。好きにしろ。おい、連れて行け」
「ごめんなさい、フィリフェラ。誕生日は、又今度祝いましょう」
 シュンランとフウランが開放される。が、すぐにフィリフェラは引きずるように連れて行かれる。
「お母様!!」
 声は小さく、どんどん聞こえなくなっていく。
「さぁ、誓え。カトレア。誓えば、あの娘幽閉で止めておいてやる。さぁ、誓え。俺の言いなりになると。命令どおりに動くロボットになるとな!」
 カトレアは一度新たな王を見上げ、両膝を床に着いた。
「式こそ人が生きる為の力。集団はかけがえのない前へ進む力。罪のない生命を守り、幸せを守り、世界を保つために、我々は団結します。が、我等では人々を導く事が出来ず、いつしか戦は人の心の中にひそんみ始めるでしょう。王こそが幸せへと至る世界を導き、自由と人権を尊び、差別や貧困をなくすことが出来る存在。我等はその御言葉を体言する手足。我等は、平和な社会を築くことを誓い、王の為にいかな事も体言すると宣言します――」
 カトレアは誓いの文句を吐き出すように呟いた。一息。
「式術近衛団団長、カトレア。今この場所、この時をもって、王への忠誠を誓い命果てるまでその命を守り命を体言することを、御柱の天使と原初の天使に宣言します」
 服従の礼。両膝をついたまま、カトレアは頭を垂れる。銀色の髪の毛が、バサリと落ちた。
「はははははははははははははははは!」
 新王の笑い声が城にコダマする。
 シュンランもフウランも、カトレアも動かない。
 ただ、新王とウラジロだけがわらっていた。




簡易人物紹介:
カトレア -初出第10回「ピンチ! ナンパが出来ない!」
 銀色の式術師。現存する最強と呼ばれる中央の王国に勤める式術近衛団の団長。自称24歳。実際は3X歳。彼女の名誉の為に言うと、前半。

フィリフェラ -初出第10回「ピンチ! ナンパが出来ない!」
 カトレアの娘。カトレアの祖母と同じ名。初出は3歳時。今は14歳になったばかり。

シュンラン -初出:第12回「大切な記憶の願い事」
 とある事件(参照、第12回)によってカトレアに引き取られる事になった少女。身体年齢は13歳。存在年齢は367歳。

フウラン -初出:第12回「大切な記憶の願い事」
 色無しの少年。とある事件(参照、第12回)によってカトレアに引き取られる事になった。身体年齢は13歳になったばかり。存在年齢は367歳。フィリフェラと同じ誕生日だが、皆にスルー。がんばれ。
 シュンランとフウランはフィリフェラの弟妹として、迎え入れられている。

スモモ -初出:第05回「土中入定! 即身仏」
 金髪の式術師見習い。生きる伝説といわれるウンジンの弟子ススキの弟子。弟子の弟子なので、でしでし。16歳。胸は10歳ぐらい。胸を大きくする体操を教えられ、必死で胸筋を鍛えているが、逆効果。

カルミア -初出:第13回「コスプレ不合格!? 本人登場」
 世界の至宝。娯楽がすべて遺跡でまかなえる中、唯一それを越えた演劇の女王。23歳。永遠の17歳。そのため、17歳と79ヵ月と表記する必要性がある。忙しい人。

アサガオ -初出:第11回「早起き少女アサガオと絵本の天使」
 色無しの少女。中央の病院に入院中、とあること(参照、第11回)をきっかけにススキに助けられる。引きこもり暦16年。




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