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【ハカセトジョシュ】




・三題話 021話 操縦席と骨

お題 :「休暇」「台風」「合体」
 
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
   どこで道を間違えたのかと、いつもそんなことを考えている。ついでに言うと、目の前の人は、いつも何を考えているのかわからない。いまも笑いながらニュースを見ている。髪の毛はぼさぼさ、着ている服が変わったところを見たことがない、ひげもはやし放題だが微妙に薄いのかまばらにはえている。こんな人が自分の雇い主だと思うと、どこで踏み外したのかと人生を振り返ってしまう。世の中の人生のレールというものがあって、もちろんそれを踏み外さず大学をでて就職をしたはずだった。どこにも踏み外した形跡なんてなかった、たぶん生まれるときにはここに就職することが決まっていたのだろう。中学のとき友人の誘いでタバコをすっておけば、高校でバイトをやっていれば、大学で友達と遊びにいっていれば、きっとこのレールから外れてむしろまっとうな生活ができたんではないだろうか。そんな思いさえする。うまれそだった土地からでて都会に移り住んでいればもっとましな就職場所もあったのかもしれない。しかしまぁ、この場所をすぐやめたいとも思っていない自分もいた。それは紛れもない事実で、結局のところこうやって毎日自分の雇い主の言うことを聞いているというのが現状なのだ。もとから自分で決める決断というのをあまりやってこなかったのもたぶんに起因しているということは、おいておこう。
 雇い主の名前は、都紙博士という。フルネームは助手の自分でもしらない。この場所は片田舎の個人研究施設で私はトシ博士の助手をやっている。就職試験の前の説明は、ちょうど交通事故に巻き込まれて出ていないので詳しい内情というか、実情を知らないまま試験を受けた記憶がある。説明が終わり試験に間に合ったときにはほとんどの人間が説明をきいて帰っていくところだった。思い返せばそのときに自分もあやしと思ったのだ。しかし、走りこんで息が切れていた自分は、そのまま席につき試験を受けてしまったのだ。そして気がつけばここにいる。あの時自分も事故に巻き込まれないで説明を受けることができれば………。こんなことには、なっていなかっただろう。そう、脳が空気に触れるような体験というのは。確かに、なかなかできるものじゃないかもしれないが。喜んでしたいものでもないと思う。トシ情報総合研究所、TOSI Information research institute。通称「TIRI」チリ。
「博士! みのもんたみて憤慨してる場合じゃないです。いやまじで!」
 I want to think that it is not what should be exposed.
お昼のタモリからみのもんたは博士のお気に入りの番組だ。まったく叫ぶ程度では反応すらしてくれない。ちょうど「実験だよ」なんていわれて気がつけば、頭蓋がきれいに取り外された。そしてちょうどそのときに時報がなったのだ。脳みそは痛覚がないというのは本当らしく、意外と気にしなければ普通というか頭が軽い程度。でもない、やけに涼しいのはたぶん気のせいじゃない。つーかこのままベットに貼り付けにされたまま、もう2時間近くたとうとしている。博士、お願いだからせめて頭戻してからにしてください。
「お、台風がくるのか」
 私の叫び声は天気速報いかですか。そうですか。だいたい、今時マッドサイエンティストなんてはやらないというのにこの前よんだ「岸和田博士の科学的愛情」が問題だったらしい。あの時、古本屋でみつけたのを喜び勇んで買ったのが間違いだったのだ、そうに違いない。でも、ドラマCDの安川君のキャストは完璧ですよね。いや、今はそういう場合でもない。このままでは、あの岸和田博士に出てくる安川君と同じような運命が待っているような気がしてならない。いやいやいやいや、まてまてまてまて。
「ああ、忘れてた」
 そういって、テレビの前に座り込んでいたトシ博士は立ち上がるとベットに縛り付けられている私の方に歩いてきた。ああ、やっと開放されるのだ。安堵につつまれて、涙が出そうだった。博士気づいてくれてありがとう御座います。視界がにじむ。
「明日台風だから、休みにしよう。うんそれがいいね」
 休みもなにも、博士も自分もここに住み込みなんですが。雨が降ったらお休みですか? 風が吹いたら遅刻ですか? ハメハメハですか? そもそも、大王の子供はなんで学校いってますか? そういや、私最近まであの歌カメハメハ大王だと思ってたんですけど、ハメハメハなんですね。でも、島の住民みんなの名前がハメハメハってのはどうかと思いますよ? ねぇ博士。名前ってのは区別するために存在してるんでしょう? そもそも名前というのはですね、やっぱり ―――
「つーわけで、明日は休暇だし今日も寝るか」
「ちょーーーっとまてーーー!!」
 リモコンを操作しテレビを消して自室に戻ろうとした博士に、思わず突っ込みを入れてしまった。渾身の突っ込みに博士が振り返る。
「ああ、忘れていたよ。すまん。今すぐに元に戻すからそう怒るなって」
 人の頭を空けておいて、忘れていたもなにもないものだと力いっぱい言いたい。できれば声を大にしていいたい。でも動けないし、脳みそが空気にさらされている恐怖が私を縮み上がらせるのだ。
「リモコンはここだったね。若洲君はまめだねぇ」
「まだボケるか!」
 博士はリモコンを棚に戻すと、やっとこちらに向きを直した。
「まったく、せっかちだなぁ。しわが増えるよ若洲くん。せっかく名前が若なンだしさ」
「ボケは私の頭を元に戻してからいってくださいよ!」
 叫ぶと脳みそが揺れるきがする、ずるりと落ちたらどうしよう。かなり突っ込みすら命の危険をはらんでいる気がしてならない。
「わかったよ、もどすからさ。怒らないでよ」
 そういって、博士は取り外した私の頭蓋をもってくる。
「パイルダーオン!」
「マジンガーかよ!」
「操縦席だけでも、合体というのかのじゃろうか?」
 なんでいきなり博士弁ですか? 博士弁って博多弁みたいですよね? っていうかわざとですね? 博士弁と年寄り弁の差はどこら辺なんですかね? それよりも公式の“正義の心をパイルダーオン”ってどうなんですか? ぜんぜん合体じゃないですよねそれ ―――
「よし、くっついた」
「はやっ」
 頭に少し振動がくる。少し頭が重くなった気がした。ああ、なんだかやっと元に戻ったって感じがするな………。ベットに貼り付けられていた拘束もはずされて、やっと体が自由になる。少し頭をふってみた。
「あ、動くと外れる………」
 リノリウムの床に落ちる髪の毛。いや頭蓋骨。の上のほう。意外と軽い音がするんですねぇ。リノリウムって天然素材の床材みたいですよ。1へぇ。
「つーか、乗っけただけですか。そうですか」
「ちゃんとくっつけるよ。つける前に君が動いたんじゃないか」
 そういって、私の頭蓋をもって博士はなにやら塗っていた。薬だろうか。手元が暗くてよく見えない。
「よし、君の頭の方にも塗るから動くなよ」
 そういうとなんだか冷たい感触が頭の変な場所にした。そもそも、普通は触れるような場所じゃないのだから当然といえば当然である。一通り塗り終わると、博士は私の頭に頭蓋を乗っける。
「よし、これでくっつたもう大丈夫だよ。さて、今日はおしまいだ部屋に戻る」
 そういうと、博士は伸びをしながら暗い部屋を後にした。意外とこざっぱりとした研究室には私のよくわからない実験器具がたくさん並んでいる。よく見ると、そのなかに昆虫解剖セットなるものを見つけた。すごいいやな予感がするが何も考えない。博士が天才科学者でも生物ではなく、物理数学などが専攻なのも今は考えないようにしよう。ついでにいま足元に転がっている二つのチューブ、先ほど私の頭に塗っていたやつがあるがよく見ないことにする。きっと何も考えなければ大丈夫だ、そういうことだと思う。使いきられたそのチューブを拾ってゴミ箱に投げ捨てた。アロンアルファスーパーゼリーなんて商品名は見えなかった。明日は久しぶりの休暇だし、一度実家に戻ろう。そういって私は立ち上がる。台風がちかい、雨の音が室内にまで聞こえる。電気の消えたテレビに私の顔が映った ―――
 頭は前と後ろが逆だった。



大挑戦大失敗大後悔




・三題話 022話 昆虫と正義の味方

お題 :「深夜」「森」「古い」
 
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
   小堺一機氏が病気で一時番組降板になって、トシ博士は落ちついてみのもんたを見ている。いつもはせわしなく変わるチャンネルも、タモリが終われば落ち着いた。若洲は何とか頭の向きも戻り、何故か不思議と傷跡の残っていない頭を撫でながら一人思案する。ギャグの真髄は超回復力ではないだろうかと。ためしに若洲は昨日みつけた昆虫解剖セットから、なぜか使われた形跡のあるメスを取り出す。そして、それを自分の腕を刺してみた。音はたたないでメスが体に吸い込まれていく、抵抗も無く気が付くと骨に当たる感触がある。つーか、コレは切れすぎじゃないだろうかと考えていると痛みがきた。
「ぎゃーー!!」
「自傷癖だったンだね若洲君は、まぁ僕はそういう精神的な趣味思考には心が広いから安心してくれたまエ」
 言葉ではそういいながら、トシ博士は若洲と距離を取る。
「まるで自傷癖がマゾの一貫みたいな言い方しないでください!」
「では、ナニかね。死ぬつもりも無い自傷行為に性的欲求いがいの何かがあるというのかね? だいたい僕は心理学なんかに興味はナイヨ」
「ないんなら、どうだっていいじゃないですか」
 それもそうだね、とトシ博士はまたテレビに向かいなおす。そして、背中越しに若洲に声をかけた。
「ああ、その昆虫解剖セットは僕が作った奴でね今度売り出そうとおもうンだ」
 言われて若洲がそのセットのハコをよく見ると、確かにトシ博士の名前がかかれていた。TOSI Information research instituteの文字も見える。
「博士まえから思っていたんですが、Information research instituteじゃ情報研究所ですよね? Information synthesis research instituteじゃないんですか?」
「ん? ああ、exciteに聞いてくれたまえ。あっているかどうかということよりも、重要な事があるという良い見本だネ」
「ついでに、このキャッチコピーはなんですか? “本物のお医者様も大絶賛”って」
「ちゃんと説明書も読んでくれヨ」
 そういわれて、若洲は挟まっていた冊子を取り出す。中を広げると、医者らしい男のの写真と下にコメントがあった。
「私はこれで10人も救いました。スゴイヤ、ボブ」
「深夜番組の通販の宣伝みたいだよネ」
 昆虫とか関係ないし。若洲はセットを元に戻しておく。それよりもみのを見ながら返事をした事に若洲は驚きだった。
「今日は、小堺がいないから半分頭によゆうがあるンだよ」
 聞こうと思った矢先に答えられる。そういえば、今日は実験と称した博士のお遊びがない、若洲は少し不安になって辺りを見渡した。テレビは相変わらずみのが奥さーん、奥さーんとなにやらわからない呼びかけを行っている。それだけ聞いていると、新興宗教のようでもあるなと若洲は思った。まだテレビを見終わるまで時間がかかりそうと若洲は部屋をでていった。
「あ、若洲君今日は昆虫採集に行くから用意しておいてくれ」
 博士の声にため息をつきながら若洲は用意をしに道具を取りに行く。
 丁度若洲が昆虫採集の用意を終えるころ、博士が若洲の前に現れた。
「丁度、昨日虫が集まりやすいように、近くの森に仕掛けをしておいたんだ。そこへいこうか」
 博士が言っている森というのは、研究室のすぐ裏にある森で古くからそこにあるわけではない。つまり、人為的に研究所ができたときに植えられた森なのだ。そんな人工の森に虫などが居るのだろうかと、若洲は考える。
「さぁいこう、引きこもっているばかりでは体がにぶるからね」
「引きこもりの権化が何を言っているんですか」
 二人はぶつくさといいながら研究室を出る。太陽にやかれ、森につく前に半ばあきらめかけている博士を無理やり引きずって二人は森を目指す。
「うーむ、私はもうだめだ。先に行ってくれ!」
 It does not have my physical strength 5m.
たった5mがトシ博士にはやはり限界だったようだ。博士の言うことを無視して森に引きずり込む。森の影にはいってやっと元気がでた博士は先ほどまでと打って変わって森の中にはいっていった。
「ここに仕掛けがあるんだ」
 さほど進んでいない森の木にへんな物が埋め込まれていた。よくよく眺めてみると変な機械が埋め込まれている。若洲は言われた仕掛けをしげしげと覗き込んではよく判らないという顔をしていた。
「えっと、それがブルービートを呼ぶための装置で」
「ビーファイターか!」
「あっちが、ジースタッグ。そんでもって向こうがレッドルだ」
「呼ぶって、あんた! つーか異次元侵略軍団ジャマールでもいるつーんですか!」
「ブラックビートを呼ぶ装置はつくれなかったンだ」
「論点はそこじゃねー!!」
 若洲の叫び声が森に木霊する。
「カブトライジャーのほうがよかった?」
「ハリケンジャーかよ!」
「ぼくは、クワガライジャーというネーミングにはいささか疑問を覚えるンだけど。若洲君はどうだい?」
「だから! ―――
若洲が、持っていた虫取り網を投げ捨てた瞬間だった。
「でたな! 異次元侵略軍団ジャマール」
「いやその台詞はおかしいヨ。なにか間違えたかな」
「ちくしょーーーー!!」
 なんだかそれっぽい三人組に襲い掛かる若洲。虫取り網を振り回し、なぜかそれっぽい武器相手に奮闘していた。
「さすが若洲君だね」
 若洲の戦いっぷりを観戦しながら、またトシ博士はなにかを地面にうめていた。それを見つける若洲。
「これ以上増やさないでください!」
「バカをいうな、昆虫といったら仮面ゴフッ ―――
鮮やかな蹴りがトシ博士の顎に入る。綺麗に入った蹴りにテンプルが揺らされてトシ博士はそのまま腰から崩れ落ちた。
「はーっ、はーっ………ん?」
「ウェーイ」
「そこでオンドゥルかよ!」
 若洲の叫び声が森に木霊した。



ハリケンジャーよりデカレンジャーのほうが好きかも。




・三題話 023話 スパコンと放射能

お題 :「限界」「神経」「プール」
 
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
   慣れというのは、自覚がないため恐ろしいものである。たとえば、平気で二次元の世界からこんにちわな状況が起ころうとなんとも思わず。ついで言うと、それをつかって儲けるわけでもなく壊してそのままにしてるのにもなんとも思わない。実際、あの次元変換システムがあれば世の中のある一定の人たちは、体中から液を滴らせて喜ぶだろう。もちろん、世界を揺るがすような発明なのは間違いないのだけれども。当然ながら博士はどんなものでも作って壊れるまで使ったら満足であるらしく、どうやって研究所が成り立っているのかはなはだ不思議である。ついでにいうと、私の給料もしっかりと出ていてしかもそこらへんのエリートサラリーマンも腰を抜かすような給料が銀行の口座には入っている。残念ながら、住み込みなので使うような暇はなかったりするのだが………。
「BPSだってやっていけるんだ、僕が暮らしていけない道理がないネ」
「アニメとくらべられましても・・・」
 収益の事を聞いてみても、結局こうやってはぐらかされてるのが落ちなのだ。ついでに言うとBPSでGoogle検索をかけると普通にTOPにくるのに意外と驚いたりした。というわけで私はこの研究所の収益がどこから捻出されているのかを調べようと思い立った。そして、こうして研究所の中枢施設に博士に秘密できているのである。網膜、掌認証、顔認証、を軽くクリアする。博士として入らなければ管理者権限のアクセスができないためわざわざ全てを用意した。叩いてもおきない博士からそれらをコピーすることは簡単すぎて逆に心配になったぐらいだった。
「パスワードをドウゾ」
 合成音声が最後の確認に声紋とパスワードを聞いてくる。変声首輪をつけてマイクにパスワードをしゃべりかける。
「サクラタンのエロ画像キボンヌ」
「ピー」
 エラー音が響いた。バカな声紋は確実に取れていたはずだし、パスワードは毎日変わるが今日はコレだったのも確認済みだ。うろたえた瞬間、強制的に再認証が走っていた。
「しまっ」
 『「若洲研究員 : 認証」』
ディスプレイに文字が映し出される。コレまでの苦労は水の泡だった。何故ばれたのだろう、いったい何がエラーを吐いたのだ。周りを見渡しても何もない。体重だろうか、そんな不安定なものは認証に使えない、では重心の癖や足の形だろうか。靴を履いているのにそんなことが可能なのか? もしくは体型認証とかだろうか、周りにカメラはなかったはずだけども。
 呆然としていると、扉が開いていく。私はあきらめて、部屋に入ることにした。扉が完全にあくと、部屋が一望できる。巨大な吹き抜けにレトロな形のスーパーコンピューターがそそりたっている。が、それはただの張りぼてで、実際は奥のほうにあるただのフルタワーマシンである。ただ張りぼてといっても、実は起動すると博士は言い張っていた。多分、言ったとおり動くのだろう、今は電源すら入っていないみたいだが。奥のメインマシンに向かう。あとで先ほどエラーをはいたログも改ざんしておかないといけない。早速マシンにログインしよう。キーボードを叩いてパスワードを入力。エンターを叩くと、ログイン完了のメッセージではなくパスワードミスのウィンドウが立ち上がった。
Just a useless hobby entertains me.
「ハハハハ、若洲くんそのマシンには入れない!」
 スーパーコンピューターの張りぼての上のほうから声が響いた。
「入室エラーが起こればすぐに私に連絡が来ると、何故気が付かないのかネ」
「っく、本来エラーすら起こらなかったはずだというのにっ」
 振り仰ぎながら私は博士に向かって叫ぶ。
「ハハハ、声紋と口臭の認証なのだよあれは! 残念だったネ! とう!」
 くるくると回りながら、博士は飛び降りる。そして、どちゃりと嫌な音をてて床に激突した。掃除ロボが汚れをみつけて博士を運んでいく。もう、創造主も減ったくれもなく博士はロボットにゴミとして運ばれていった。
「博士〜」
 急いで追いかける、たしかゴミは地下の特設ゴミ処理施設に運ばれているはず。急がないと博士が細切れにされてしまう。掃除ロボットの動きは思ったよりはやく、体力の無い私には追いつける物ではなかった。足がもつれてつまずいた。
「あ、あぁ………はかせぇ〜」
「よんだかネ」
「ぎゃーー! は、はかせぇ!? さっきゴミに捨てられて」
 先ほど目の前で運ばれていったじゃないか、なんで博士はここに居るのだろう。
「ああ、変わり身の術だよ。ハットリ君だね。慎吾君はどうなのかね?」
「へぇ、忍者みたいですね。すごいですね」
「若洲君、私のあしらい方がひどくなっている気がするのだけども?」
「気のせいですよ、それじゃ私は作業があるのでこれで」
 さーて、今日は忙しいぞう。資料整理に人工神経の通信テスト、そして ―――
「あそこで何をしていたのかネ?」
「いえ、特に何も」
「そうかね、ならいいけど」
 そういうと、博士は戻っていく。みのが終わったっていつも同じ場所で何かをしているのだ。気が付くと、つばを無意識に飲み込んでいた。足音が遠ざかっていく。もう、あそこには近づかないほうがいいだろう。そのまま私は立ち尽くしていた。
「ギャーーー」
 遠くで叫び声が聞こえて、我にかえる。声のしたほうに走っていくとそれは掃除ロボがゴミをすてる特設ごみ処理施設だった。耳を済ませると声が聞こえる。声に急かされるように私はいそいで扉をあけた。
「お、若洲くん。早く助けてくれるとありがたいのだけれども」
「さっき部屋にもどったんじゃ」
「それは私の霊だね、死んでいたらブチャラティといっしょになれたかネ?」
 とても残念だと、余裕をかましながら博士はダクトに必死でつかまっていた。
「そろそろ限界なんだけども、若洲くん助けてくれないかネ?」
「この下ってどうなってるんですか?」
「この下かね、政府の核廃棄物とか、とおくの工場の廃液とか普通に捨てられないものがいっぱいだよ。何も処理しないでただ投げ込んでいるからすごいことになってそうだネ」
「たぶん、パワーパフガールズができるんじゃないですかね」
「それは魅力的だね。一つ君で試してみよう」
 博士はそういうといきなり私の手をつかんだ。博士、私いなくても逃げられましたね。っていうかわざと私を呼びましたね。あ、そんなに強く引っ張らないでください。袖のびちゃいますよ。あ、落ちる。
「わーーーーー!」
「ああ、うちの研究室はこのゴミ処理所のおかげで成り立っているんだヨ」
 いまさらですか、そうですか。体がダクトをすべり落ちる。と、いきなり体を押さえる感覚が無くなる。ダクトから出たのだ。下には不思議な色の液体がプールのように広がっていた。
 そして、今私は自室のベットに寝ている。
「全く情けないね、若洲君は」
 気が付けば声が出ないほど包帯を体中に巻かれていて、博士の話を聞いていた。
「パワーパフガールズには程遠かったけど、ゴジラにはちかかったんじゃないかな?」
 結局自分が暴れた事はさっぱり覚えておらず。国際救助隊を倒したことを話で聞いた。
「でもV6の声優というのはどうかとおもうよネ。人形みたいにカタカタうごいてくれるのだろうか」
 V6はカタカタ動かないと思う。それだけは確かだ。



そろそろ、自分の文体を見失いつつある。




・三題話 024話 AKIRAとレーザー

お題 :「コンビニ」「協力」「失敗」
 
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
   街に巨大怪物が現れた、それは普通に想像するようなゴジラや戦隊物にでてくる巨大な敵ではなかった。トシ博士と若洲助手がいる研究所であるチリはその巨大怪物を吐き出し続けていた。吐き出しつづけているというのは、巨大怪物が液状というかゲル状でいまだその全貌を見せていないということだ。しかもゲル状といっても、それは透明で綺麗なゼリーではなくて、筋肉や肌といったおぞましい見た目のどろどろとしたものである。しいてあげるなら、AKIRAの鉄男といったところか。肉塊と化しているのは若洲である。研究所からいち早く高台に避難していたトシ博士は、奇怪な叫びを上げながら研究所から這い出している若洲を無表情で見下ろしていた。頬を撫でる生ぬるい風は、研究所から立ち上がる炎と夕日の熱。無言で若洲を見下ろしていたトシ博士は不意に手を横にふる。
「なぜでしょう?」
 聞こえた声はトシ博士の声では無く女性のよく通る声であった。夕日に照らされているのか、研究所の炎に照らされているのか、肌は赤く照り返に染まっていた。服装は、ベタベタのメイド服。BIG-Oにでてくるドロシーそっくりである。
「ふむ、失敗は失敗だが面白そうだしネ。このままほおっておこう」
 トシ博士の言葉が聞こえているはずはないが、若洲であった肉塊は奇声をあげて街を破壊しはじめた。ビル二つ分はあるであろう巨大な肉塊は街を破壊しながら海に向かって移動を始めていた。
「死傷者は確認できてませんが、重傷者は多数確認できます」
 メイドは淡々と状況を説明する、肉塊につぶされている人を見ながら。
「やはりこういうときは地球防衛軍の出番だろう」
「連絡は完了しております」
 いい判断だ、とトシ博士にいわれメイドは静かに頭を下げた。程なくおもちゃのような戦車と戦闘機が肉塊に集まりはじめる。そして、すぐに攻撃は始まった。
 音は激しく衝撃は遠く離れた高台にまで届いている。辺りを振るわせた音にも動じない二つの影は、爆風に煽られ熱にさらされても微動だにしない。風に揺れた白衣とスカートが時々街にあがっている爆炎で赤く照らし出されていた。
「地球防衛軍なら、レーザーとかぐらい撃たんのかネ。あんなミサイルなどうちおって」
「では、国際救助隊を」
「うん、いい選択だネ。お、若洲君がミサイルを食べ始めたぞ」
 メイドは連絡を終えると、トシ博士が指差す方向を見る。そこには地球防衛軍が打ち込んだミサイルが、爆発せずに肉塊になった若洲に飲み込まれていくところだった。
「博士、申し訳ありません国際救助隊を呼ぼうとして ―――
「青年海外協力隊でもよんだかネ?」
 メイドは、トシ博士の言葉に静かにうなずいた。それをみて、凶悪な笑顔になるトシ博士。
「イイネ。じつにイイ。そして、青年海外協力隊の到着が早いのもまたすばらしい」
 若干海側に移動しながら若洲だった肉塊は街を破壊している。そこにわらわらと青年海外協力隊の面々が集まりだしていた。
「俺たち、青年海外協力隊の力をみせてやれ!」
 リーダーらしき男が叫ぶと、わらわらと肉塊に青年海外協力隊の面々が取り付きだした。
「あとで尻拭いするには、少し人数が多くて面倒臭そうだネ」
「問題ありません」
 そういって、メイドは青年海外協力隊を指す。雄たけびが風に乗って二人の耳にも届いた。
「青年海外協力隊ビーム!」
 肉塊を囲んで青年海外協力隊はなにやらレーザーらしきものを発射した。
「ホホウ。地球防衛軍とは違って海外で働いてるだけはあるんだネ」
 嬉しそうにトシ博士は青年海外協力隊を眺めていた。が、ビームは当然といってもいいぐらいに若洲の体に吸収され、何人かが肉塊に取り込まれていった。それをみて蜘蛛の子を散らすように逃げ出す青年海外協力隊。
「そろそろ国際救助隊の出番かナ」
「操る人間が急病のためこれないそうです」
「映画版じゃないのかネ! それは意外と予想外だったよ」
 言っているそばから青年海外救助隊は肉塊にとりこまれていく。断末魔が高台の二人にまで届いていた。街はほとんどが破壊され、若洲だった肉塊が通った後は瓦礫しかのこっていなかった。
「なんか、取り込んで大きくなっているネ。ほんとうに鉄男みたいになってきた」
 肉塊は奇声を上げて海を目指す。あついのだろうか、肉塊は遅いながらも確実に海を目指していた。
「とりあえず、コンビニが壊される前になんとかしヨう。あそこはお気に入りなんだ」
「了解いたしました」
 メイドは一礼すると忽然と消えた。風に吹かれてトシ博士の白衣が揺れる。やっぱ、鉄男にはSOLだよなぁ、そんなことを考えながらトシ博士は眼下の肉塊を眺めていた。研究所からもう1キロは海の方向に下っただろうか。近くに住宅地がすくないので被害は少ないが、それでもやはり何人かは巻き込まれただろう。本来なら空を飛ぶ予定だったので研究室が壊れる程度だと予想していたトシ博士は、困った顔でなにやらぶつぶつと考えだした。
 強大な音というのは、ほとんど衝撃と変わらない。強烈な衝撃はそれこそ突風のごとく辺りを貫いて突き進む。まるで空間そのものが揺れるようなそんな音。若洲だった肉塊が揺れた。衝撃を放ったのは、細い足。だたひとふり、ビル一つぐらいは簡単に飲み込めるであろう巨体はその細い足の一振りで半分以上捲り上がっていた。
I serve just because all are possible for me.
爆音の中心地は先ほどトシ博士と一緒にいたメイドである。振りぬいた足を元にもどし、広がったスカートを丁寧に手で押さえる。そして、メイドは肉塊にむかって一礼。捲れあがった肉塊が重力に引かれて元に戻るのは誰が見ても明らかだった。その捲れあがった肉塊は少しずつ重力加速度の名の元メイドに向かって落下していった。そして響くのは先ほどよりは幾分下品な衝撃の音。砂煙を撒き散らして肉塊は地面に戻った。メイドの背後にはコンビニが一軒、難を逃れて建っていた。
「ユキさん、準備完了。一般人の退避よろしく」
 高台から見下ろしていたトシ博士がつぶやく。呼応するように風が吹いた。衝撃は、肉塊全体を揺らす。辺りの壊れた建物も衝撃で吹き飛んでいるが、よく見ると瓦礫ではないものが混じっていた。先ほど取り込まれた青年海外協力隊や地球防衛軍の面々である。衝撃ごとに取り込まれていた人間が外に投げ出されているのだ。
「トシ博士、救助完了いたしました。SOLの効果範囲外まで吹き飛ばします」
 風に乗ってメイドの声が届く。どういった原理だろうか若洲の肉塊があるところからトシ博士の居る高台まではゆうに5、6キロはあるのだ。それでも二人は普通に会話する声の大きさのまましゃべる。
「一応、唯一の助手だからね、丁寧に頼むよ」
 静かに頭を下げる気配。それにトシ博士は満足そうにうなずいた。
「それに、彼は大事な実験体だからネ」
 つぶやいた声に、若洲であった肉塊が叫びを上げた。聞こえただろうか、一瞬思案するもトシ博士はそれでも構わないとばかりに事の成り行きを静かに見下ろす。ずいぶん火も収まってきている、若洲だった肉塊も動きが鈍くなっていた。コンビニも無事だし、言うことはナイトばかりにトシ博士は満足そうに見下ろしている。
 一際大きい衝撃が連続で響いたと思った瞬間、巨大な肉塊は宙に浮いた。
「ミゴトだね、格闘のDATAなんて入れた覚えはないんだけどね」
「通信講座『寝ながら覚える北斗神拳』を受けました」
「で、何を使ったらあそこまでとぶのかね」
「北斗断骨筋を」
 それは、手首に当てると顔がべこべこになって死ぬ技ではなかっただろうか。トシ博士は考え込む。たしか、あべしという名台詞はこの技をくらった奴がいったはずだ。
「ニクイ選択だ。どうして空を舞うほどの衝撃があったかは聞かないほうがいいね」
 メイドの礼の気配と同時、海に若洲だった肉塊が墜落した。あがった水しぶきはすぐさま津波になって街を襲うとするが、ぎりぎりで防波堤に阻まれる。空にまいあがった飛沫だけが火でくすぶる街に降り注いだ。雨のように降り注ぐ水しぶきに辺りの火事も収まり、舞い上がった水は虹をつくる。
「うん、お見事」
 一人高台でトシ博士は拍手を送っていた。街では生き残った青年海外協力隊がけが人の救護に当たっていた。地球防衛軍はもう姿も形も見えない。こんなものかなと、見下ろしながらトシ博士はつぶやく。
「さぁ、やっぱ肉塊には衛星レーザーだよね」
 ぱちりとなった指の音にメイドがトシ博士の傍に戻ってくる。それをみて頷きながら握りこんでいた拳銃のようなスイッチを押す。
 まるでビデオのはや回しのように雲がわれ、光が肉塊に吸い込まれるように降り注いだ。落ちた衝撃よりも早く空気の揺れが見える。海が蒸発していく様もまるでスローモーションのように見える。次に来たのは閃光だった。目を覆いたくなるような焼け付く光が辺りを支配し影の無い世界が一瞬顔を覗かせる。爆音は地震となって辺りを震わせトシ博士はバランスを崩した。
「うむ、あとは元に戻す薬を打ってきてくれたまえ」
 そう言ってポケットから注射機のようなものをメイドに差し出す。爆音の向こうで、「レーザーは!?」という突っ込みが聞こえた。



一人称じゃないとつらい。




・三題話 025話 病院とりんご

お題:「骨」「ラーメン」「脱走」
 
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
   窓から眺める街は、いつもどおりの街並みで博士はいつもと変わらない服で座っている。いつもと違うのは自分がベットに寝ている事と、博士の後ろに立っているメイドさんぐらいのものだろう。
「ということがあったのだよ」
 こうなった事のあらましを聞いたものの、国際救助隊は結局出てこなかったような気がするが、そういうことをいっても仕方が無い。
「テコいれとかいわれてますが」
「だったら、おばさんメイドでも描けばよいではないのかネ!」
 いきなり逆切れですか、病室で叫ぶぐらいはいいですが果物ナイフを振り回すのはやめて欲しいと思いますね。あ、点滴が。
「だいたい、もとより反応なんてありはしないのだよ! コメント欄を見たまえ! 一度でも書き込みがあったかネ?!」
 何で必死で怒ってるんですか、そんなにテコいれって言われるのいやなんですか。大体てこ入れなら、お色気シーンじゃないんですかね。私はよくわからないのですが。
「ご意見メールが一度でもきたというのかネ! もとから反応なんて期待してっ ―――
珍しく感情を剥き出しにして叫んでる割には、内容が自爆系なので自分の言葉に煽られてさらに切れている。ついでに言うと博士、ナイフが僕の体に刺さっています、肺です声でません。体中ギプスなので動けません。勘弁してください。
「ネタも濃すぎるとのことですが?」
 静かにメイドさんが言った。
「サンダーバードかね! それともV6がかね!? はたまた青年海外協力隊かね!?」
 さすがに、そのチョイスはいかがなものかと思うわけですが。息ができないため突っ込みすらままならない。
「私としては、CRAY-1のほうが濃いと思うのだけども、どうなのかね!」
「ネタとして主要に使用するものと、小物として使用するネタとではおもむきが違うと思われますが」
 メイドさんが静かに反論している。よし、その調子だがんばれ。あと少し意識が遠のいてる気がします。博士、そろそろナイフ抜いてくれませんかね?
「だいたい、作者はメイド萌えでもなんでもないのにテコ入れというのかね!!」
「この場合、作者の趣味思考は関係なく読み手側の流行りや喜びそうなものを入れるのがてこ入れと呼ばれているものかと思われます」
 メイドさんの言葉にブチ切れる博士。怒るのはいいんですが、刺したナイフを回転させるのはどうなんでしょうか。体のなかで骨が折れる音初めて聞きました、いい人生経験ですね。
「もとより面白くない、むしろ『貴方ってつまらない人』の部類に分類される引きこもりの人間が面白おかしい話を書けると思っているのかネ!! それこそ問題にするべきじゃないのかね!」
「自分を切り売りするのがよろしいかと」
 ナイフで貫かれた私をおいて、二人は漫才を始めている。伸ばした手で何とかしてナースコールを押そうと必死でギプスで固められた手を枕に伸ばした。とたん胸に強烈な痛みがはしった、ナイフが抜かれたのだ。
「もとより、反応があるのは挿絵のほうであって、文章でなはいと言う事にいいかげん気が付くべきではないのかね!」
「返す言葉もございません」
 そして、ナイフが振り下ろされる。今度は私の体ではなく、上のほう。そう、予想通りにナースコールのスイッチがぶち壊されていた。おお、神よ………。というか、コレは判っていてやっているのだということに気が付く。しかし、意識がほとんど薄くなって痛みもしない状態で何ができるというのか。父さん、母さん、先立つ不幸をお許しください。
Blood was seen and the apple was remembered.
「君はどう思う? 若洲君」
「出血多量で意識が混濁しているものと思われます」
「増血剤をあげよう、よく効くぞ」
 博士は嬉しそうに笑いながら、怪しげな錠剤を私の口に無理やり押し込んできた。口いっぱいに怪しげな味が広がる。
「飲みものはない、無理やり飲み下すンだ」
 言われたとおり、無理やり飲み込む。飲み込んだ瞬間体中が熱くなった。胸に痛みを感じて視線を落とすと、まるでギャグのように赤い噴水が立ち上っていた。
「ふむ、大失敗だね。しかし傷が無ければ血圧で体が爆発していたかもしれん」
 一向に収まらない赤い噴水を見ながら、そろそろ死ぬなと私は腹をくくった。しかし、体はあつく、どこからそんなに血液を造っていたのかと不思議なぐらい噴水は高々と吹き上げている。
「ははは、なんかまずそうだからユキさん、後はまかせるよ」
 そういうと、博士は窓から飛び降りて脱走を図った。静止できずに、呆けているとメイドさんが医者を呼んできていた。そして気が付けば手術が始まっていた。
 結局、麻酔もなく浅かった傷はすぐさまにふさがりへんな増血剤は意外と効果があったらしく輸血もする必要なしとのことであった。そして、綺麗にされた病室に戻されて今にいたる。病室にはメイドさんがまっていた。
「博士は?」
「ラーメンズの公演を見にいかれるそうです」
 先ほど、自分に刺さっていたであろうナイフで果物をむいているメイドさんを横目にため息をつく。そういや、見舞いの時間はタモリとみのの時間だったな、だから機嫌がわるかったのか。たぶんラーメンズの公演に行くためにはこの時間しか見舞いをする時間が取れなかったのだろう。それにしても外を見ると、街はいつもどおりの街で何も壊れていなかった。遠くに見える研究所もいつもどおりだ。博士の話は作り話としてあの後一体なにがあったのか。どうしても気になり私は、メイドさんに聞いた。
「実際は何があったんですか」
「………ただ、廃棄処理のプールに落ちて怪我をされただけです」
 なんとも、普通の答えが返ってくる。そりゃそうだ。さすが博士が常識はずれでもさすがに壊れた街をすぐさまに戻すことなど不可能だろう。胸をなでおろして外を見る。横にいるメイドさんが剥いた果物をほお張る。おおむね、世界は正常だ。
 病院の背後、街の海岸は巨大なクレーターを埋め立てる工事の音が響いていた。



ラーメンズの公演いきたい。




・三題話 026話 ハカセとメイド

お題:「電気」「湿度」「遊び」
 
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
   ○月×日。明日は若洲様で人体実験をする、と博士が言っておりました。あと、日記に書く日付というのは、○や×、△や□などを使って表現しろとおっしゃっていたので、今日からそのようにしようと思います。私を開発する前の博士はそれは精力的に研究や実験を行っていたと記録にも残っておりますが、私が持っている情報では博士がまじめに実験をするのはかなり久しぶりでございます、しかし遊びの可能性は否めませんが。下準備も完了しておりますし、珍しくしっかりとした実験のため、私も張り切ってお手伝いさせていただこうと思いました。実験の内容は、人体の再構成及び巨大化のテストだそうです。成功すれば空を飛び回ることが可能になるとおっしゃられていました。そういえば、私の記憶にある博士は常に人体実験をされています、本来は生物や化学ではなく、情報技術者つまり私をつくるような技術者だったと聞いているのですがどういった趣旨変更なのでしょうか。いつかそれについて聞いてみたいと思います。起動前の情報は、ほとんど記録媒体や、博士の言葉端からしか入手できません。現在持っている情報からの予測は、感情を挟まれると私には理解しがたいものになるので正確ではないですがここに判ることを記していこうと思います。
 私につんであるシステムをごいっしょに研究をされていたナーハ様は、現在行方不明になっております。ナーハ様が行方不明になってから博士はそのシステムの利権をうって生活されているそうです。Abyss Central Informationからし払われた金額は、国一つが簡単に動くような金額だそうで、そのお金で博士は私を製造、現在あまったお金で水道電気ガス代その他もろもろ研究所を運営されているとの事です。時々いまでもAbyss Central Informationからのメールがきているところをみると、まだ開発に携わっているようですが、内容は拝借できませんので詳しいことは判りません。兎にも角にも、そのナーハ様が行方不明になられてからあまり研究をされているご様子はなく、こういった人体実験を行う事すらまれだということです。私が調べたところ、ナーハ様はどの国の戸籍にも登録されておらず、その存在がなぞとされております。ナーハ様の話をすると、博士がお怒りになられるのでこの辺で日記は閉じておこうと思います。
 ○月△日。本日は早朝から、用意していた「気になる光線」を若洲様に影から浴びせつづけました。おかげで計画は順調にすすみ、若洲様はメインサーバー室に向かいしっかりと博士を追いかけていかれたようです。私は博士に変装し、すぐさま廃棄ダクトの中に身を潜め、若洲様を見つけたら叩き落せといわれていました。しかしながら、若洲様にはとてもよくしていただいている義理もありますので、普通に引っ張って落とすことにしました。博士は「なぜ、叩き落さなかったのかね」とお怒りでしたが、少し安心したような顔をされていたので判断は間違い出ないと確認します。結局、勢いよく落ちなかった若洲様は重要な肥大筋肉の圧縮再構成のプラントまでたどりつかず肉塊となってしまいました。若洲様には本当に申し訳ないと思います。が、どうもプラントに落ちてからの記憶は混濁しているようでしたのでこの点に関しては擬似人格がいたむような事は無いと思われます。結局、火を放ち海に誘導して街への被害は最小に収められたので良しということになっております。失敗とはいえSOLに絶えうるほどの強固な外殻に博士は大喜びだった模様ですが、蒸発した水が大量であったため、街の湿度が猛烈に上がってしまい各所でかびの被害が届けられています。
 結局、取り急ぎ作成した薬で若洲様は元に戻りましたがプラントに落ちた時の傷は治っておりませんでした。成功していれば、体は完全な状態に戻るとのことでしたので、あの時力いっぱい叩いて落としておけばと、少々後悔しております。次は、骨の跡も残らないほどの最大出力で挑みますと意気込んだところ、博士に「それは跡形もなくなるからやめておいたほウがいいね」といわれ、私の頭を撫でられました。
Being praised is likes and it is disagreeable that child treatment is carried out.
メイドロボの頭を撫でるのは基本だそうですが、私にはわかりません。少々古いネタかと思われますが、こういった場合若洲さまなら突込みを的確にできることをうらやましく思います。研究所で若洲様を治すことも可能だったのですが、若洲様も安心できないだろうとの配慮で、現在街の病院に搬送されているそうです。明日は見舞いに行くぞと博士は意気込んでおりました。若洲様がいらしてから、博士が元気になったような気もします。
 ○月□日。本日、ラーメンズの公演となっておりました。博士は本日までそのことを忘れていらしたようで、見舞いの時間とすり合わせを一生懸命行っておられました。結局面会時間内ではどう計算しても昼過ぎでないと間に合わないとのことで、博士は泣く泣くテレビのビデオを予約されておりました。若洲様の病室は個室で、とても綺麗な個室です。若洲様は気が付いておられなかったようですが、要人などが入る個室だと予測します。ここの看護士長と博士は長い付き合いだそうで、病室に入るまえに長いことお話されておりました。看護士長は外国人の方でとても陽気なかたでした。博士にしきりに定期検診にこいとおっしゃっていましたが、博士がわざわざ行くわけもないと判断します。もちろん、看護士長もそこらへんは理解しているようでしたが。
 若洲様に実験ごに残っていた腫瘍を取り除くのに果物ナイフ使ったのは失敗でした。現在の医療ではほとんど発見不可能な因子は博士のナイフで無理やり抉り出されましたが、出血が大量になりもう一度手術を受ける必要が出てきてしまいました。手術はすぐに終わりましたが、博士は時間になってしまったのでラーメンズの公演を見に若洲様に挨拶ができないまま帰られました。若洲様が退院なさるころには、街の修復も終わり全て元通りになっているハズです。本日は、若洲様についていろとのことですのでこのまま病室で日記を書くことに致しました。現在若洲様はうなされているようですが、私にはどうすることもできないのでそのまま見ていることにします………
 趣旨を変えました、あまりにも唸り声が五月蝿いので口を無理やりふさぐことにしました。日記は片手でかけるので、なんら作業に支障はありません。先ほどまで暴れていた若洲様は静かになってくれたので良かったと判断します。しかし、心音まで止める必要ないような気もするのですが、この場合どういった対処をすればいいのでしょうか。
 博士に電話をしたところ「心臓マッサージだね」とおっしゃっていられたので、粉骨砕身心臓をマッサージさせていただくことにします ―――

 静か夜、病院が衝撃圧力による粉砕を起こし次の瞬間辺りを震わすような音が溢れ返った。まるで地震のような音と、揺れが町全体を襲う。しばらくして、病院が砂煙の中から現れた。上階だけをみるとその姿はまるで廃墟のごとくに破れてはいた。不思議とけが人は一人としてでていなかった。あの病院の爆発をみていた街の住民は語る。
 ありゃ、うちの娘の正拳なみの破壊力だったな! ――― 街にすむ、酒屋の親父(シャツの娘LOVEのプリントがまぶしい45歳)の談。
 ともあれ、衛星による砲撃、医療施設のなぞの大爆発、全てはTIRIにすむ博士の一言で街の外に情報はもれなかった。全ては何も無く、ただ若洲の記憶が飛んだだけで何もかもが元通りへと向かっていく。
「若洲様の再生終了いたしました」
 研究所の奥で試験管に浮いている若洲を眺めながらトシ博士は満足そうにうなずいた。
「ま、結局のところ研究所デ治すのが一番だね」
「若洲様の人権はどこに落ちてるでしょうか?」
「そうだね、多分生まれたときからナいんじゃないかな」
 


そろそろ、てんぱってきた。




・三題話 027話 鍋と村長

お題 :「徹夜」「コンビニ」「カロリー」
 
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 概ね平和だったと思っていた街はつまるところ、自分が知らなかった部分が多すぎるというだけの話だった。結局のところ、街に住む人間が知らなければ問題は起こらないわけだけれども。こういう場合、なんていうかは知っている。知らぬが仏 ―――
 最近、人生とかそういうことを考えるようになった。けれど、どれほど考えても答えは諦めるという結果しか出てこない。たとえば、自分の上司がコンビニに向かうのに(*1)一個師団 を投入し、挙句の果てにぼろぼろになって帰ってくるのを見たときとかだ。
「ああ、若洲君。いいところに、ユキさんに後処理まかせルといっておいてくれ」
そういうと、そのままボロボロの服で自室にもどっていった。とうぜん、今までも何度もありなれたものだ。程なく、部屋から機械音と奇声が聞こえてくるはず。
「おや?」
予想と違い、奇声はあがらず機械音もなり始めはしなかった。と、ちょうど横をメイドさんが通ったので博士に言われたことを伝えておく。静かに頷くとメイドさんは研究所の奥のほうに歩いていった。メイドさんが、人間じゃないなんていまだに信じられないが、まぁ博士のやることにいちいち疑問を覚えるのは疲れる。しかし、あのメイドさんは博士の趣味じゃないような気もする。あの人なら、多分全長3mぐらいの巨大マッチョとか、部屋を埋め尽くすようなゲル状のメイドを作りそうだ。そういや、誰かとの共同制作とかも聞いたようなきがする。
「若洲君!」
ああ、名前を呼ばれただけなのに、地獄の門が開いたような絶望を味わえるのはいかがなものかと。ちょっと博士、襟引っ張らないでください。それにしても今日は暑いですね。え? この前の衛星砲の影響なんですか。まるで、これじゃ真夏ですよね真夏って言えばやっぱクーラーと冷えた麦茶とかいいですよね? なんでこんなのがおいてあるんですか。というかこの部屋暑くありません?
「というわけで、我慢大会をやろうじゃナいか」
コタツっていいですね、和の心ですよね。でも、コタツの上にはみかんだと思うんですよね。100歩譲ってなべにはガスコンロですよね、なんで七輪なんすかね。なべおいしそうですね、でも私おなかいっぱいなんで今日は………あれ、沸騰してるお湯だけですか。なんですか、飲めとかいいませんよね? ―――
「お待たせしました」
逃げようと、手を伸ばした扉が目の前で開いた。開いた瞬間、私は顔を手で隠す。強烈な熱気だ、何だろうとおもって顔を上げる。そこには、わざわざ温度を上げるためとしか思えないような沸騰したなべとそれに入っている具。最近のなべは火から離してもぐつぐついうんですね。保温性たかいんですね、すごいっすね。めっちゃ暑くて目が開けれないんですが。メイドさんなんで素手でもってますか? というかわざと僕に近づけてませんか?
「我慢大会だけでは、少々赴きがないとおもってね。闇鍋もやろうかとおもってるのさ」
振り返ると、白衣の上に上着やらなにやらを着込んでいる博士がなにやら鍋に入れていた。「ああ、安心したまえ。半分は食える」
へー、半分も食べられちゃうんだー。いっぱい食べれますねー。それ、半分は食べれないものが入ってるってことじゃないんですよね? まさかそんなことないですよね?
「若洲くんも座りナよ」
いわれるがまま、というよりほとんど暑さで朦朧としたまま私はコタツに入る。コタツの熱が、足からいやというほど体に伝わってきた。と、背中に服をかけられる感触。顔をあげると、メイドさんが私の肩に北極でも行くんじゃないかというような防寒具をかけていた。もう何もいうまい………観念して鍋に視線を戻す。もうとっくに具はそろっていて、基本的なものは作り終わってるようだった。
「さぁ、電気を消してはじめようカネ」
とたん、暗くなる部屋。あまりの暑さに息さえ苦しいのに、暗闇となるとさらに息苦しく感じる。息苦しさを我慢しながら、私は鍋を覗き込む。猛烈な暑さに一瞬吐き気を覚えるが耐えながら覗く。でないと、何を入れたかどこに入れたかわからなくなる。七輪のおかげであたりが少しほの明るいのが救いだろうか。というか、自分は何をやってるんだろう。
「もウ大丈夫かな」
そういうと博士は、いきなり中のものをかき混ぜ始めた。ああ、そうですかお見通しですか。ひとしきりかき回すと、博士はそのまますぐに中のものを小皿にうつした。
「どうした、若洲君もたべないのかい?」
平気で、何かを食べている博士をみて少し安心する。そのまま自分も鍋をつついて適当なものを小皿に移した。そのまま口に運ぶ。いっしゅん視界の端に博士の笑っている顔が見えた。
 でも、やっぱ食えないものはくえないっすね。ええ、そのときは少しいけるんじゃないかって思ったんですよ。え? そりゃもちろんあの時は普通じゃなかったというか、その場の勢いってあるじゃないですか。いやー、でも人間やればできるっていうか、信じる力っていうんですかね? あの瞬間は食べ物に見えたんですよ。そうすよねー不思議ですよね。人間って偉大ですよねー ―――
「ですよねー」
「カロリーメイトは空けてから食うべきだと思うよ、若洲君」
It can give. It cannot obtain. I want to carry out a meal at once.
フラッシュをたかれインタビューを受けていたはずだったが………
「ですよねー」
メイドさんが、まねをしている。口には、あけていない袋のままのカロリーメイト。いや、カロリーメイトぐらいはわかるんですけどね、せめて袋は開けましょうよ、ね?
「ですよねー」
メイドさんは、いまだに私の物まねをやっている。仕方なく熱くなったカロリーメイトを空けて食べる。ああ、中はそんなに熱くないんですね、カレーのルーは熱くなるんですけどね。不思議ですよね? とりあえず、次になんか食えるのを。そう思い鍋に手を伸ばしてつかむ。
 やぁ、村長。DASH村はどうしたんです? っていうか、ちょっとやわらかくなってません? つーか、とけてますね。っていうか、中に熱湯が。あれー? 
「ギャーーーー」
 気がつけば、何時間もそうやっていた。朝になってるんじゃないだろうか、そんな感じもする。けれど徹夜したほどの疲れはなかった。そういや、七輪って一酸化中毒になるんじゃなかったでしたっけ? あ、換気はしてたんですかね? あれ? じゃぁ我慢大会は? っていうか、あんまり暑いって感じしないんですけど。アレ? ―――

 肌に当たる冷たい風に、意識が戻ってくる。
「おはようですよねー」
お気に入りですね、メイドさん。っていうか、なんで自室で私はねてるんでしょうか。
「おはよう………ございます」
意外と体調は普通だった、体もいたくないし気分も悪くない。寝起きで頭がすこし寝ぼけているぐらいだ。寝かされた布団をめくり上げ上体をもち上げる。
「えっと、鍋をつついてて………どうなったんでしたっけ?」
「知らぬが仏という言葉をご存知ですか?」
ああ、やっぱり世の中はそういうことらしい。部屋を吹きぬけた風が肌にあたった。



デス米。 Myuにいじめられた。




・三題話 028話 FAVOと机

お題 :「世界」「定期」「送信」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
   休みだからこそということもあるだろうし、もちろんその逆も然り。
「だから、お盆だからといって休んでいいいわれは全くナいのだけれども」
博士はどこかに電話をしていた。不機嫌になるところをみると、多分メイドさんを作ったときに世話をした会社だろう。博士は会社が嫌いらしい、無能な人間がいっぱいだからだそうだ。無能かどうかは私では判断しかねるところだけど。
「そもそも、期日を定時したのはそちらだろう? あわせたのに、対応なしトはそれこそ会社としてどうなのかね」
口論は続く。見ていると、メイドさんがお茶を博士に運んできた。そういえば、さっきは研究室の一つを掃除していた気がした。仕事が速いのだな、さすがメイドさんだと感心する。博士はメイドさんから受け取ったお茶を一気に飲み干している、コップを受け取るとメイドさんはすぐに台所に戻っていった。
 最近、体の節々が痛い私は、早々に博士から離れて逃げ出すことにする。どうも何度も体が壊れたのがいけなかったのだと思われる。元から痛い思いはなれているので、特になにか思うところは無いのだけれど………
「若洲様、お出かけですか?」
散歩でもしようかと外に出ると、メイドさんが箒で研究所の周りを掃いていた。さっき、台所にいったはずなのに。
「あ、ちょっと買い物に行ってきます」
「わかりました」
せっかくのチャンスなので、逃げ出す事にする。街まで出てしまえば博士も追ってこないだろう。今日は電話で忙しいだろうし。
 研究所を出て、街に向かう。このまま思い切って世界一周の旅にでも出たいところだけれど、研究所の居心地がいいのは否めない。まぁ、あそこに居れば退屈の言葉だけは忘れられそうだし、それでいいのだろう。命の危険は付きまとうわけだが………。メイドさんに言ったことを守る必要なんてないのだけれども、それでもなぜか言うとおりに自分は買い物するものを頭に浮かべていた。とりあえず、減ってきたDVDRと携帯に便利なFAVOを買おう。無線タブレットなんて使えたものじゃないしね。財布を確認しながら商店街に向かう。
 平日ではあるが、夏休みということもありこの街唯一の商店街は人でにぎわっていた。人ごみを掻き分け目的の電気店に向かう。商店街のアーケード下に入れば、店から流れてくる冷房の冷たい空気とさえぎられている直射日光のお陰で幾分涼しくすごせる。丁度、自分の近くの店の扉が開いて、さらに冷たい空気が肌をかすめた。その冷たい空気に、視線を向けると、旅行代理店の旅行パンフレットが色鮮やかに並んでいた。ああ、北海道は涼しそうですね。さすがに、この熱気で南の島とかかかれるとゲンナリするのは私だけじゃないと信じたいところだと思う。
 目的の電気店は、辺りの店よりも幾分涼しい空気を流している。わざわざ電車で遠くに出る必要も無いぐらいしっかりしたものがそろっているのは、博士の研究所の所為だろうか。そういえば、時々大量の注文をしているようだけれども。店の中に入れば、宣伝の騒がしい音と声が辺りを震わしていた。明るい店内に、派手な広告、騒がしい声、電気店独特の雰囲気を味わいながら、自分は目的の物が売っている階へとあがっていく。そういえばプリンターのインクもそろそろ切れるころだろうか、基本的に毎日使っていると定期的にインクを買わないといけなくなってしまう。博士に言っておけば買ってくれるが、わざわざそこまで頼むのも気が引けるのだ。PC用品の階に足を運びプリンターのインクを探す。cannonのプリンター用インクは高すぎていけない、今度投書してみよう。ついでに、レジ近くに並んでいるDVDRの束を見つけて買い込んだ。あとはFAVOだ、周辺機器は上の階かな。階段を上るときに外気にさらされると、一気に汗が噴出す。白衣脱いでくればよかった………
「若洲様、博士がお呼びです」

聞きなれた声に、顔を上げると上の階にメイドさんがたっていた。あれ? 研究所の前を掃除してたのでは?
「買い物してからでいいかな?」
「できるだけお急ぎください」
道を開けてくれたメイドさんの横を通り過ぎる。メイドさんも大量に買い物をしたらしく、袋を両手に下げていた。目的の物はすぐに見つかったので、メイドさんの視線に急かされながらそれを購入、二人で外に出た。
「そういえば、研究所の前を掃除していたのでは?」
「まだ掃除中です」
答えに納得がいった、メイドさんはいっぱい居たのだ。アーケードを出ると、メイドさんに首根っこを捕まえられる。急ぎますの一言で大空に舞い上がる。ああ、非常識に慣れたとしても、非常識が常識になるわけではないんですね。風を切る音を聞きながら、涙と鼻水で視界が揺れた。次の瞬間には、盛大な音を立てて着地する。巻き上がる土煙の向こう、博士が建っている。
「やぁ、若洲君遅かったね。買い物は済ンだかい?」
あいまいな笑顔で返答しながら、研究所を見上げた。
「そういえば、掃除していたメイドさんは?」
「君の後ろにイるが?」
振り返ってみるも、電気店で会ったメイドさんしかいなかった。ハテ? と、おもって辺りを見回すがやはり、メイドさんは一人だった。
「君は、ユキさんが大量生産されていルとか、そういう面白可笑しい想像でもしてるのかね?」
「え?」
思わず聞き返すと、摘み上げられていた首から手が離れた。
「ユキさんが大量に居るわけ無いだろう? 君が歩ける場所など、ユキさんには1秒もかからずに移動できるだケのことだ」
やっぱりメイドさんは、ただ仕事が速かっただけだったのだ。大量に居ても怖いですよね、魂のない人形とか言われて壊されちゃいますもんね。怖いですね。気が付くとメイドさんは、研究所の周りの掃除を再開していた。
「で、呼んでいるってどうしたんです? 電話は?」
「ああ、面白いものが出来上がったので見せようと思ってね」
そう言って、博士は横に移動した。
 目の前には、木の机。いやただの木の机じゃない、強いて言えば左下側の引き出しには0点の答案が大量に入っていて、一番大きい引出しからは有名な青い猫形のロボットが出てきそうなデザインの机だ。
「なんだね、その微妙な顔つきは。本来今日納品だったのだが、あいつら盆休みとかで受け取れないと言い出シた。だから、試運転もかねて、どうだね? 若洲君」
見れば何を作ったのか判るだろうといわんばかりの表情である。金メダルを取った勝者のような顔である。というか、絶対私をそれに乗せる気ですね? やっぱり四次元ですか? 時間移動できちゃいますか?
「何が入ってるかナんて、説明の必要はないね。さぁ、私もついていく。乗り込みたまえ」
そう言って、博士は机の引出しを開いた。覗き込めば、引出しの中は引き出しではなく、あのレトロな感じの、えっとなんといったか。そうだ、タイムトンネルとなっていた。ああ、わざわざデザインまでこる必要ないのに。と、身を乗り出して覗き込むと、そこには車が浮いていた。
「って! デロリアンかよ!」
「名前ハ、航時機」
「未来にいけないのかよ!」
「よく知っていルね?」
覗き込んだ机の中、タイムトンネルに浮かんでいるデロリアンにしか見えない航時機という名のタイムマシンは静かに駆動していた。低いエンジン音が一瞬高くなったりする、タイムトンネルっぽーい、などと一人で感動してしまった。視界も歪んでいて、まさにそれっぽいのだ。絶対狙ってやってるとしか思えない。
「とりあえず、いってみるかね」
おもいきり押された。ずるりと、机の中を逆さに落ちていくがしっかりとした落下の感覚はなかった。水の中を押されたように、へんな感覚が支配する。視線を向けると車が近づいてくる。近づけば近づくほど、車はデロリアンそっくりだった。振り向くと博士も向かってきていた。先に落とされた私はデロリアンに何とか引っ掛かって乗り込んだ。コレは落ちたらどうなったのだろうか。空恐ろしい事を考えて、すぐに頭をふって考えを追い出す。
「さて、では行こうかね。10年程度適当にもどってみようか」
ハンドルを握っているのは博士ですか? ペーパー暦が免許とってから今までの博士ですか? っていうか、自動操縦ですよね?
 車体が前後にゆれて、エンジンの止まる音が社内に響く。
「エンストしタ」
「ここまでつくって、マニュアルですか!」



デロリアンは好き。でもジゴワットって納得いかない。




・三題話 029話 時間旅行と覗き魔

お題:「体操」「コーヒー」「イベント

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
   結局、博士の運転で10年ほど前にたどり着いたのは、体感でも数時間近くかかっていた。このタイムトンネルの中で、時間を語るのはいかがなものかとも思うけど。
「で、どうやって降りるんですか?」
「そのままさ。サぁ、せっかくのイベントだ時間旅行者として恥ずかしクないよう時代を改変しないとね」
さらっと、とんでもないことを言いつつ博士はハンドルを切る。強烈な横Gに振り回されてからだが傾いた。シートベルトの接続部分が軋みをあげる、音に恐怖を覚えて外を見るとトンネルを抜ける瞬間だった。一瞬視界が暗転、つぎの瞬間には見渡す限り星空が広がっていた。10年前も、記憶にある現在も星空はほとんど変わらないで街の上で光っていた。よく見れば、研究所の裏手に車は止まっている、場所はあまり移動していないようだ。私は、シートベルトをはずし扉に手をかける。
「若洲君外に出てはいケないよ。少し待つんだ」
つぶやかれた言葉に、体が反応して扉から手を離す。外をみるが、特に変わったことは無かった。振り返って博士をみると、なにやらごそごそと辺りをいじっていた。
「どうしてです?」
「呼吸ができないどころか、重力の干渉もなくなってるからすっ飛んでいってしまう」
言われて窓から車を覗き見ると、地面とタイヤの間には隙間があった。体は普通にシートにおしつけられているが、コレは車の中だからだろう。
「時間軸がずれてるから、干渉できるものは一つも無い。つまり扉を開ければ、窓越しに見えてる景色すら見えなくナる。圧力0の中にほうり込まれて着の身着のままで生きていける道理はないよ」
青い猫型ロボットのようには行かないネ、と博士はつぶやきながらせわしなく手を動かしていた。なにやら作っているようだが………
「若洲君、コーヒーを入れてくレないか? 外に出れるまではもう少しかかりそうだ」
言われて振り向くと、丁寧に整理された食器棚や冷蔵庫、果てはDVDまでそろっている。この几帳面というより完璧に整理されているのはメイドさんの仕業に違いなかった。あまりに機能的過ぎて、探す手間など全くない。手にとれば全く抵抗なくインスタントコーヒーの袋は私の手に納まった。コップにお湯とインスタントコーヒーを入れて適当にかき混ぜて博士に差し出す。
「ユキさんが居ないと、やはり不便ダネ?」
コーヒーの匂いが車内に充満する。窓越しに眺める、夜空は普通に存在し、風の音だって聞こえてきそうだ。ドアを開けて飛び出せば、草の匂いと研究所から流れる怪しげなウメとか杏みたいな匂いが流れてくる。
「そういや、なんで研究所ってあのウメっぽい匂いがするんですか?」
「あれは青酸の匂いだね。青酸カリを飲んだ人間の口からする匂いと一緒ダ」
「へ? アーモンド臭っていいませんそれ?」
てきぱきとなにやら作りながら、博士は答える。どこかの推理小説や刑事ドラマなんかで聞いたのだと、アーモンド臭がするといっていたが。
「アレは、アーモンド臭でも実であって、君が想像していルような種の匂いではないよ」
「まぁ、でも匂いぐらいなら別に………」
「青酸カリが猛毒なのは、胃酸と反応して毒ガスのシアン化水素が発生するからナンだが?」
「………毒ガス駄々漏れですか? あ、でもガスマスクつけてれば」
「皮膚からも吸収されるかラね、完全な防護服でも着込まないと死ぬよ」
ことごとく、希望が打ち砕かれてる気がします。
「もちろん、青酸カリは胃酸と反応しなくテも二酸化炭素と水でも反応してシアン化水素が発生する。結局舐めたら死ぬね。ついでにいうと、煙草にも含まれている」
「そんなガスが漏れてるなんて!」
「研究所の匂いはウメ木の匂いなンだけども」
「そこまでウンチクかたって、結局それかよ! 大体青酸の匂いだって言ったの博士じゃないですか!」
「青酸は、杏桃梅等に青酸配糖体という形で含まれているのだが? 熟れていない梅が危ないっていうじゃないかネ?」
「そういえば………」
なんだか、上手いことごまかされた気もするけど、なんだか疲れた。ウンチクを語っている間も、博士はごそごそとしている。
「よし、でキた」
「なんですか? それ」
聞くと、博士が胸をそらして叫ぶ。
「こんなこともあろうかと、用意しているものがアるのだよ!」
「めっちゃ、今作ってたじゃないですか!」
あ、ションボリしちゃいましたか。スミマセン、博士ですもんね博士は。それは一度はやっぱり言わないとだめですもんね。マッドサイエンティストか戦隊モノで新しいロボが出るときの決め台詞ですもんね。
Subject. It is such a thing after all in the first step etc.
「さすが博士! 用意がいいっすね!」
私の言葉に、表情に輝きが戻る。蹲っていた体が、一気にそりあがる。忙しい人だと感心してしまう。手には、なにやら小箱状のものを握っていた。
「時間軸変換機だ、とりあえず可視光と気体だケだが。それに互換機のほうが機能の説明的には間違っていないがやはり変換機のほうが語呂がいいよね?」
「重力も無ければ、モノに触れることはできないってことですか?」
「そうなるね、干渉できないのが残念だが外にでても死ぬことは無い。ほら、小型推進器も持っていくトいい」
私は博士から、小箱みたいな変換機と小型推進器を受け取った。意外と軽く、携帯のような感じでもてる小箱はそのままポケットに入れる。
「その変換機を中心にの半径1Mから出なければ大丈夫だ。つまり足元に落としたら呼吸できなくなるぞ。私はもう一つ作ったら追いつく、通信機と発信機もそれにはついてるから好きに見学するとイいよ」
頷いて、ドアを開ける。ドアは、効果範囲で埋まっているので車内に変化はなかった。地面に降りようとして、車外に体を出すと重力が無くなる変な感覚が襲ってきた。とりあえずドアにつかまって推進器を使って閉める、体操選手みたいな格好になった自分に苦笑した。実際じゃこんな動きできるわけも無い。閉め切ったのを確認すると、
「おお、ちゃんと動いたよ、予想外ダね。ついでに若洲君沈んでいるよ」
車内から、とてつもなく不安な言葉が聞こえてきた。ドアを閉めた反動で体が車から遠ざかってることに気が付く。どんどん視界が低くなっている、振り返ると地面に体がめり込んでいた。よくよく考えれば、地面の中に入ってしまえば変換する空気が無いって事ではないだろうか? 埋まってる足に感覚を集中するが、気圧的には問題が無いようだ。私は推進器をふかして、空に舞い上がった。見る見るうちに車が小さくなり、研究所の全体が見えてくる。すぐさま研究所も小さくなり………って、はや! 推進器の出力が思ったより高かったのか? いや、重力無いからどんどん加速していったらしい………推進器の自動停止ボタンなるものを押す。すぐさま逆噴射がおきて、体の動きが止まった。
 空から見下ろす10年前の街並みは、特に何か思うこともなくていつも見るような街でしかなかった。温度はしっかりと伝わってくるが、音がよく聞こえない、変換過程で少々空気の振動が削られているのだろうかぐももった音が聞こえる。ポケットに入っている変換機を出すと、丁度博士からの通信が入った。
「若洲君、変換機なんだが、そいつはここの時間軸だから気をつけたまえ」
「どういうことです? 地面に潜ったら、変換機だけ地面に置き去りってことですか?」
「つい出でに言うと、この時間軸の人間には見えていないが家の中を覗こうとしたって、変換機が壁に引っ掛かるから変なことはしないようにネ」
「見えてないなら、壁抜けしないで普通に入ればいいんじゃないですかね?」
「しまったーーーーーーーーーーーーー」



首を釣ろうと決心した。




・三題話 030話 博士の助手

お題:「満員」「刺激」「強打」
 
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   見慣れているわけではないが、それでも普通の風景が広がっている。そこをまるで幽霊のごとく自由自在に飛び回っていると不思議な感覚だ。外部からの刺激はないし、音もこもってよく聞こえない、たまに電線とかに変換機が当たったりするが推進器の所為でそれすら気がつかないことがしばしばだった。ふと眼下を見下ろすと満員電車が走っている。まだこんな時間なのに電車は混んでいて、アレに乗って一緒に移動したらそれはそれで優越感に浸れるのではないだろうかなどと考えてしまう。と、体の中をパンタグラフが通り抜ける。
「うわぁ!!」
思わず声をあげるが、当然衝撃などない。けれど、心臓はバクバクいって息は上がっていた。完璧な3D映像を見せ付けられている気分だ、実際物はここにあるわけでリアリティもなにも現実そのものではあるのだけど。
 変な場所にいると心臓に悪い、私は歩道の辺りをいつもと同じ目線で街を歩く。博士が言うにはこの街は、博士が管理をしているらしい。その前はどこかの大金持ちが管理していたとか何とか、この国にそんなことがあるのかと言えば意外と普通らしい。別に治外法権であるわけでも、独立国家として成り立ってるわけでもないらしいので、名ばかりだという話だ。都市開発計画などからは除外されているところをみれば、意外とお上自体への発言権はあるみたいだと思われるが、調べ様にもやはり調べ様が無いのである。電車に乗って外の町へ行けば、景観保護指定地区の様に見た目からして違うのがすぐわかる。まずビルが無い、こんな状態になって始めて気が付いたが、4階立てぐらいの高さにあがればもう街じゅうが見渡せる。飛び上がり、街を見下ろせる位置まで上がった。真中を流れる川沿いの土手に唯一病院が飛び出ているのが判る。登れずの塔と呼ばれる給水塔ですら6階建てのビルより低いだろうか、駅の商店街を見渡しても、3,4階ぐらいの建物しかない。山のほうには研究所が見える、こうやって見ると登れずの塔より高い位置にあるのが判る、建っている場所が高いだけなワケだが博士がこれ以上開発を進めないのはコレが理由か………。前任者はどうしてそれをしなかったのか判らないが、博士は多分自分の研究所が一番上だからという理由だろう。間違いない。
「若洲君、君の長井秀和の物まねはいマいちだね」
「物真似なんかやってません。つーか何故聞いてますか?」
「君が通信を勝手にオンにして飛び回っているかラじゃないかな?」
ポケットから変換機を取り出すとすぐさま通信をオフにする。なにかの弾みでオンになったのだろうか、まぁそんなところだろう。
 変換機を眺めながら街の上空を漂う。風もなくまるで黄色いシャツしか持っていなくていつも半ズボンのめがね小僧の様に眠くなる。ボーっとしていると、ブツリという音が聞こえてきた、手にもっている変換機である。よく見れば、通信が勝手にオンになっている。ハテ? 握っていたがボタンに指がかかるような持ち方はしていなかったはずだが。では、博士からの通信だろうか? 変換機を耳の傍に持っていく。聞こえてくるのは無言、いやよく聞くとなにやらゴソゴソと物をいじっている音が聞こえる、変換機を作っているのだろう。いや、なにかオカシイ気がする。しかし耳をくっつけるわけにもいかないのだ、効果範囲は1M、足が効果範囲から気圧でおかしくなってしまう。確認のためには、仕方ないコレしか方法はないだろう。
「あああああああああああ!!」
変換機に向かってありったけの声で叫ぶ。通信の向こう、博士が倒れた音が聞こえた。やはり、博士が向こうから強制的にオンにしていたのだ。聞き耳を立てながら作業をしていたに違いない。とりあえず博士の事は無視しておくことにしよう。気分転換にまた道路に戻ろうとすると、道行く人が多くなっていることに気が付いた。もうそんな時間か、そういや満員電車に乗ったことも、こうやって通勤した事もない高校までは自転車で、大学はバスだったし………。田舎のバスは本数も少ないが人も少ない、今なら満員になっている乗り物に乗るという夢がかなうのではないだろうか? 推進器を吹かせて、待ち行く人と同じ速度でゆっくりと駅に向かう。ああ、もしかしたら私はサラリーマンのほうが性に合ってるんじゃないだろうかとすら思ってしまう。
 ふらふらと、推進器を吹かせて駅へ進んでいくと人通りがふつりとなくなった。違和感を感じて体を止める。振り返れば人がたっていた、そして見えるのは赤く点灯している信号。しまった、信号を無視して横断歩道を渡っていたらしい。急いで推進器を停止に入れる。まずい、自分は向こうからは見えていない、なのにこの変換機は向こうの車に轢かれたら壊れるのだ。遠くで、車の音が聞こえた。
 顔を上げればそこには視界いっぱいに広がる、銀色。
 それが車だと理解したときには手を前に突き出していた。
 手を突き抜けていく車が、スローモーションで進んでいるように見える。
 車は止まらない。
 瞬間、ズボンに軽い衝撃。変換機が車の車体で強打された。
 視界が回った。
 音がよく聞こえないのが災いした、自分は変換機を握り締めて体を丸める
 こいつさえ離さなければ、死ぬことは無いはずだ。
 また、変換機に強烈な衝撃が走った。
 あまりの衝撃に変換機を取り落とす、はねられた先に車がいるなんて。
 判断は一瞬だった、推進器の停止ボタンを押す。
 それは完璧な正確さで体を止める方向に噴射を繰り返す、体は停止した。
 足に強烈な痛みが走っている。効果範囲から出てしまったのだ、冷たいのか熱いのか、痛みが外からか内からかもわからない。変換機は私の手から離れて転がっていく。
 急いで戻らないと。
 足に続いて、痛みは腹から胸に。
 手を伸ばすが変換機は届かない。
 死。
 いや、まだだ推進器を吹かして前に。
 と、視界が暗くなる。
 影?
 見上げると、そこには車。
 進行方向には変換機、1Mも無い距離がまるで永遠のようだった。
 推進器は前へ前へと体を押し出そうとしている、車は何も知らず進んでいく。
 届かない。
 痛い。
 まだ、体は前に進まない。
 まるで滑り込むように、車のタイヤに向かう変換機。
 痛みは肩まで達している。
 車のが乗用車じゃなく、トラックならもう少し奥にタイヤがあるのに。
 思考が。
 体が前に出始める。
 もう遅い。
 邪魔な思考が。
「博士っ!」
大きな音など、ほとんど届かないこの小さな半径1Mの空間で、体はもう暗闇に飲み込まれ感覚すらなくなってきたのに。そのつぶやくような声ははっきりと耳に届いた。
「呼んダかね?」
続いて強烈な、音。車がへしゃげる音が耳に届いた。博士の後ろには、なぜかついてきていないはずのメイドさんが車を片手で止めている。何故? メイドさんはきていないのでは? 干渉できないのになんで?
 差し出された変換機の効果範囲の中で何とか息をつく。冷え切った足はしびれて感覚がない、真空に投げ出されたが時間的には一瞬だったのだろう一応体は無事だ。
「なぜ………」
「こんなこともあろうかと、ネ」
「でも、ユキさんは一緒に車にのってなかったん………ゴホッ」
鞭打って吸い込んだ空気が肺から漏れる。
「言っただろう? 君が歩ける場所など、ユキさんには1秒もかからずに移動できるだケのこと。間に合ってよかった、ここで車をとめないと君は死んでいたからね」
「でも、干渉できないんじゃ?」
「何のために、車に残っていたのかまで説明させるキかね?」
「でも、これで歴史が」
「バカなことをいうな、助けたのは今の君じゃない」
博士が顎でさした方向に眼を向ける。そこには、懐かしい光景が広がっている。ああ、そうだ私はここで事故に巻き込まれて就職試験の説明に遅れたんだ。
「本来、君はここデ死んでいた。過去に戻ってまた同じ場所で死にそうになるとは因果なものだね?」
メイドさんが近づいて手を差し伸べてくれいる。その手をとって私は立ち上がる。
My important person's important person turned into my important person.
「さて、帰るカね。そろそろ若洲君の変換機のバッテリーも切れるころだし」
言われた瞬間、辺りは真っ暗に、そして体中にさすような痛みが走った。
 車に轢かれていたほうがよかったんじゃないだろうか。



つらかった。わざわざ最後のシーンかいてくれたので感謝。


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