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【カゲルアサヒ】




・三題話 011話 鏡面水面

お題 :「機械」「出会い」「虹」
 
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 世界が5回ひっくり返った。10回焼き尽くされ、10回流された。馬鹿な大人たち、と生き残った子供達に罵られるような結果は結局避けられなかったのだ。そして、やっと世界は落ち着きを取り戻したのだ。いたるところに爪あとはのこり、使えるものはたとえ銃弾一発だって使い切られる。資源は残り少ないし、栄華を誇った人族ですら遺伝子強化しているものたちだけが細々と生き残っているだけだ。巨大なコンクリートの塊に成り下がったビルであった建物は半分を水面につけ、ただその存在を日の光にさらしている。程なく辺りが陰に隠れていく、空に浮いている大陸がこの辺りを横切る時間になったのだ。音も無く日はかげり、ただ少しばかりの振動が、水面に現れて存在を主張している。陰になったことで、魚が水面に上がってくる。何匹かが水面から顔をだしたり飛び跳ねたりしながら、影を追いかけていった。軽い水しぶきの音にそれは20年ぶり起動を再開する。
 ――― 起動確認。 索敵開始 error。 システム確認 start... 火気管制システム異常。関節駆動機構の損傷は行動に支障なし。索敵システム異常。言語システム異常なし。思考システムαからεまで正常。 スタック命令確認 スタックされている命令に当たる情報は 0件 あります。 現状の把握及びシステムの復旧を最優先事項に設定 clear。「カナヤマヒコ00090a - System.MCDS」system Run........
 MCDSMCDSMCDSMCDSMCDSMCDSMCDSMCDSMCDSMCDSMCDSMCDSMCDSMCDSMCDSMCDSMCDSMCDSMCDSMCDSMCDSMCDSMCDSMCDSMCDSMCDSMCDSMCDSMCDSMCDSMCDSMCDS ―――
It cannot be sad. Tears cannot be shed. Having been born is not a tragedy. It believes so.  鏡面になりかけていた水面がにわかにざわめき立つ。 遠くで鳥が飛び立つ音が聞こえてくる。静かなモーター音は遠くの鳥の羽ばたきですらかき消されるほどか弱いが、静かにその力を関節に伝えていく。水の音だけが響く、戦時下に恐怖を撒き散らした単独破壊兵器「カナヤマヒコ」は鉄の神の名をその体に刻み立ち上がる。まるで、まだ戦争は終わっていないと機械の体は吼える。体勢を整えた彼は自分の場所を確認して、メモリに残った場所と照らし合わせる。現在の時間がいかほどなのか、サーバーに問い合わせるも全く反応はない。当然場所の問い合わせもサーバーは返事を返さなかった。彼は思考する、現状サーバーとの接続ができる可能性が高い都市部に移動し救援を呼ぶのが先決だと判断。彼は覚えていない、自分が火気管制システムに多大な損傷を受け、実弾もなく己を役立たずと認識し眠りについた事を。瞬間、膨大な水蒸気爆発が起こる。大人二人がかりでもも手が回らない巨体は、飛沫が収まった時にはもうこの場には居なかった。残ったのは、揺れる水面と飛沫で出来上がった虹だけだ。鳥が廃ビルの上に止まり虹を見つけて嬉しそうにさえずる。鳥は飛んでいった彼を見とどけ、一つ鳴くと彼を追いかけて飛んでいった。
 街に近づくと、彼は自分のメモリに残った状況と全く変わっていることに気が付き速度を緩め警戒態勢で近づく。前方にはメモリには乗っていないが街らしき物が彼のカメラにも写り込んでいる。そのまま彼は、人の目に触れないように周りを確認し始めた。味方機の信号は全くつかめない、この街らしきところに集まっている人間も信号を返してこないのだ。敵地かともシグナルを全方位で探索をかけるも、彼の使用できるシグナルにはノイズだけが聞こえてくる。彼は、物陰に隠れてサーバーにアクセスと試みる。無線通信は全てタイムアウトになる、残存している有線は情報にないし視界には一度もはいっていない。彼は思考する。現状戦争は休戦ないし終戦している。いや休戦だけでシグナルが一つも見つからないなんて事はないだろう、もうあの戦争は終わっているのだと結論付ける。マイクロマシンを大量にまわして火気管制システムを直そうとしていたが自己修復は無駄と使用をやめた。と、そのときシグナルに全方位検索にノイズではないであろう何かがかかった。すぐさま指向検索に切り替える、場所を割り出してウェイト0でジャンプ。街全体をカメラに収め、彼はシグナルが出ている場所に飛び込んだ。
 強化人間といっても、免疫や自己修復機能を強化されているだけの人間は一般人。筋力や反射神経、平衡感覚、痛覚遮断などを行われた遺伝子以外の強化をされたものが兵士と呼ばれる。地上に居るのはほとんど一般人である、兵士は地上にはほとんどのこっていないといわれている。実際この街には一人しかいない。人族はもうその栄華を誇れるほど人数も力もないのだ。機族と呼ばれる、自立型のロボットたちはほとんど終戦と共に無力化され、労働力として今も働いている。おおむね世界は静かに動き出していた。
「こっちかな・・・」
 あまり人の寄り付かない路地裏に、ひょこりと顔をだして彼女は辺りをうかがう。祖父の大事にしていたラジオが鳴ったのだ。もって音がよく聞こえる場所を探して歩き回っていたらよくわからない場所についてしまった。長い耳を下げて今にも泣き出しそうな彼女は、それでもしっかりとラジオを抱えて音が大きくなった方向に向かう。分かれ道がきたらラジオをもってくるくるまわる、大きく聞こえた道にむかってトコトコあるく。少しずつラジオから流れてきている雑音がはっきりと聞こえ始めてきた。と、いままで路地裏とはいえ明るかった路地裏がいきなり暗くなった。はて? と彼女は首をかしげる、とっくに空に浮かんだ大陸はこの街を通り過ぎたはずなのに。雨かな? 彼女は上を見上げる。
衝撃。
風は、人が通らない路地にたまった埃を盛大に吹き上げる。誰も通らない道にたまった落ち葉やゴミもいっしょに巻き上がった。ラジオをもった彼女はあまりの出来事に風に煽られて数メーターを転がった。息を吸うといっしょに埃が口にはいってじゃりじゃりする。いきなりの出来事で彼女は何が起こっているか全くわからなかった。
 推力を出せないブースターはとっくに配線をきって破棄している、着地点に少女を認め彼は大いに慌てた。戦争は終わっていても人命保護が最大優先事項に変わりはない。持っているデーターベースを総動員、思考する。システムαからγまでのメイン思考システムが不可抗力と判断、現状のまま着地をするべきだと返事を返す。根幹のシステムがそれを拒否、思考は振り出しに戻る。カメラに写る少女を彼は見つづける、動き出した。このまま行けば衝突は避けられる、落下速度を落とすために駆動する全ての関節を風に対抗させる、耐久限界ぎりぎりでも関節を限界まで広げた。何枚か放熱翼が折れて飛び散った。落下地点から少女は外れた事を確認して彼は安堵した。放熱翼が彼女に落下しないか計算を始める。All Clear。答えに満足して着地を開始、衝撃が彼の機体を駆け抜けた。
「きゃぁっ!」
 彼が着地した風圧で少女はまるで紙のように吹き飛んだ、そこまで軽いとはおもっていなかった彼は急いでアームを伸ばす。何とかうつぶせの状態で少女をアームに収めることに成功した。彼女の手にもっていたラジオは地面に激突し部品を地面にとびちらせている。そのラジオを認めながら、彼は少女の状態を確認、心拍呼吸ともに正常なことを認め地面に下ろす。
「ん・・・」
 ロボットの手からおろされて、彼女は目を覚ます。目の前に話にしか聞いたことのない戦闘用の機族がたたずんでいることにさっきのラジオが鳴ったのはこの機族の人の所為だろうかと思案する。そうだ、ラジオ! 彼女は手にもっていないラジオを探す。さっき飛んだときに落としたに違いない。振り返ってすぐにラジオの残骸をみつけた。壊れてしまったラジオを拾い上げる。不思議と涙はでなかった。怒りも湧かない、持ってきた自分に少しだけ後悔した。
「貴方のせいで壊れたの」
 そう言って、目の前の機族に向かって彼女はラジオの破片を差し出した。彼は思考する、確かに自分が無理な移動をしてここに飛び込んできたのが一番の理由だろう。シグナルを発見したので飛んできてしまった事を悔やむ、そういえばシグナルは? 彼は一瞬の間に全方位検索をかける。もうシグナルはどこにも残滓すらのこしていなかった。彼女か、そのラジオがシグナルを出していたのだろうか? 思案する。ずいっとカメラの前にラジオが突き出される。
「もし、貴方が治せるなら、治して欲しいんだけど?」
 彼は、ラジオを見て考える。修理を必要としなくなった分のマイクロマシンが在れば治るかもしれない。シグナルはきっとラジオか彼女が出したシグナルに違いない、現状の把握には少女は十分情報源に鳴るはずだ。彼は了解したと、体を傾ける。
「ありがとう」
 ラジオを受け取ると、ハッチに入れておく。マイクロマシンの命令を新しく組みなおす。すぐさま修復は始まるが、なにぶん設計図のない機族だけあってすぐには治らないだろう。伝えないといけないと思考システムが反応するが、彼は音声出力ができない。少しこまって体をよじる。その姿がおかしかったのか、彼女は笑い出した。
「時間がかかるのね? いいわ、治るまでいっしょに居てあげる」
 もしかしたら、この機族の彼がラジオを鳴らした犯人かもしれない。彼女は機族の上によじ登って座りごこちのいいてっぺんに腰掛けた。
「私は、ユティ。あなたは?」
 彼は、アームで地面に自分の名前を掘り出す。彼の上では少女が必死でしがみついていた。



 全10話、気張っていこう。




・三題話 012話 記憶追憶

お題 :「記憶」「山脈」「廃墟」
 
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ACI.MCDS/WS BIOS Rev 09f.0a
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MCDS MCDS MCDS MCDS MCDS MCDS MCDS MCDS MCDS MCDS MCDS MCDS MCDS MCDS MCDS MCDS MCDS MCDS MCDS MCDS MCDS MCDS MCDS MCDS MCDS MCDS MCDS MCDS MCDS MCDS MCDS MCDS
......起動確認。 初回起動を確認 根幹擬似人格gridロード ロード中 ロード完了。思考システムのマウント α.OK β.OK γ.error δ.OK ε.OK γ再起動 γ.OK。思考システムのマウントを終了します。
 視覚機構が動き出すのをみて、初老の強化人間がカナヤマヒコに近づいていく。鉄の神の名をもった単独破壊兵器は静かに回りの状況を確認し始める。この場にはメイン統括サーバーからのアクセスはできない、命令が全くない情況を確認し終え、思考を勝ち得たと称されるカネヤマヒコの人格プログラムは待機を選んだ。モニターを眺めている初老の強化人間は待機しているカナヤマヒコを撫でながら満足そうに微笑んだ。しかし微笑みの中にどこか寂しげな表情を隠し、彼はモニターしているであろう他の研究員を見やった。強化ガラスの向こう、大量の文字が流れるディスプレイと睨み合いをしていた研究員は、所長が自分に視線を向けていることに気が付いた。
「γが起動を一度失敗しました、それ以外は全く問題ありません」
 マイクを手に取り、彼は強化ガラスの向こうに居る所長に声をかける。ゆっくりと所長は頷くと向こうにはモニターできないような小さな声でつぶやいた。
「シリアル100以下の試作機を戦場に出さなければならないとはね・・・どうやら戦争はもうすぐ終わりそうだな」
 ため息をつきながら、カナヤマヒコを撫でる。手の下には「カナヤマヒコ00090a - System.MCDS」の刻印があった。彼らの意志は思考システムによって押さえ込まれている、擬似人格gridは機族に人権を与える必要が出てくるほど完璧な擬似人格だった。その擬似人格の上に軍属としての思考システムを5つもつけてやっと彼らは戦闘マシンとなる。言わば人間に軍に入る前に教育するようなものだ。今メインで動いているカナヤマヒコはgrid ver.3f4 と呼ばれる戦闘用擬似人格で思考システムで押さえつけることなく敵機を落とす事ができる。人はどこまで物をつくって壊せば気がすむのだろう。
「所長、統括から援軍要請がきてます。コードFI、かなり急ぎのようです」
 マイク越しに聞こえる研究員の声はカナヤマヒコにも届いていた。待機状態を解除、第五装甲版表面に触れている職員を確認。声が出ない彼は、体をゆする。さぁ、手をどけてくれコードFI・・・現状の指示、要請を無視、統括権限による割り込み要請。それは、何よりも優先されるコード。カナヤマヒコは体をゆする。
「本当は、このまま君は眠っていたほうが良かったのかも知れないが」
 所長は名残惜しそうに手を離す、カナヤマヒコがアームを伸ばして彼の手をとった。まるでお別れの握手のようだ、強化ガラス越しに研究員は思った。
「私は、グラード。グラード・グリッド。どうか君の記憶の片隅にのこしてくれ」
  It does not say Kill me. A crime is not forced on you. I will subtract a trigger personally. カナヤマヒコは言われなくてもその名前を知っている、自分の人格システムの製作者の名前だ。もちろんだといわんばかりに、カナヤマヒコは体を一振りすると出口に向かって歩いていく。白い何もない部屋の片隅に、木のラジオが置いてあった。カナヤマヒコはそれをメモリする。横にはG.Gのイニシャル、所長グラードのものと判断。振り返ってグラードを視覚機構で確認した。
「そこを出れば、統括と接続できるようになる、ここももう攻撃対象にされているはずだ、でなければ君を出せなどとせかしたりはしない・・・さぁ、早くいきなさい」
 白い部屋、何本かのケーブルと白い白衣を来た初老の所長、そして片隅に置いてある木のラジオ、奥のガラス越しには数人の白衣の研究員達、カナヤマヒコは製作者に言われたとおり全てを記憶して扉を開ける。
 軽い音と共に外の闇が忍び込んできた。瞬間、統括サーバーの接続を確認。カナヤマヒコは状況確認に入った。静かな夜に、大量のシグナルが飛んでいる、とその時後ろで音がなった。木のラジオだろうか。確認は無意味と思考システムが判断。それに従い足を進める、状況の確認を終了、命令がすぐさま統括サーバーから飛んでくる、指令に従って目標地点を確認。機体を鎮めながら風向計算、風による目標地点への修正は誤差の範囲内。直後地面をえぐるような跳躍でカナヤマヒコ飛び立つ。自分の四肢のみで飛び立ったカナヤマヒコを、研究員達は感嘆のため息を漏らしながら眺めていた。
「全く、足だけで移動してるカナヤマヒコが見れるとは思ってませんでしたよ」
 研究員達が軽口を叩く。いま前線で使われているカナヤマヒコの判断なら、確実にスラスタをふかして飛んでいっただろう。試作機らしい省エネな動き方だと、研究員達は感心する。ざわつき始めた後ろを見ながらグラードはため息をついた。ラジオを手にとって荷物を運んでいる運搬ロボットに渡す。運搬ロボット「衝撃」は荷物を受け取ると、白い格納庫をでていった。
「しょちょー、衝撃なんかに任せないで新しくつくったこいつ使ってくださいよ」
 そう言って研究員の一人が「衝撃」ににたロボットを掲げあげる。
「衝撃と同系統ですが、パワーをあげ移動方法を省エネタイプに変えたんですよ!」
 そういいながら格納庫に降りてきた研究員はその「衝撃」に似た運搬ロボットを起動する。彼は持っていた本をそのロボットに載せる。直後、上部のトレイがしまり篭がたのロボットは回りだした。高速で回転しながらそのロボットは格納庫を出て行く。
「題して、天地無用! どうですタイヤを使わない最新設計の移動方法ですよ!」
 格納庫のすぐ外で爆発音が聞こえた。
「それにしても、お前達も肝がすわっているな」
 ガラス越しに研究員達が顔を見合わせて笑い出す。下に下りていた研究員も笑い出した。
グラードも苦笑する。
「そりゃまぁ、90の起動が見れるなら、コレぐらいは安いもんだとおもいますよ」
 研究員の一人がいった。グラードもそうだな、と笑う。全くのんきなものだ。格納庫に笑い声が充満していった。
 カナヤマヒコは上空で自分が居た研究所を確認する。山の中腹に立っている一際目立つ建物は夜の闇の中でも真っ白に見えた。
衝撃。
闇の中でも白かった研究所が爆発した。視覚機構は辺りを走査する、脱出した形跡は0。残り数秒で目標地点に到着する。背中に爆音を聞きながらカナヤマヒコは着地体勢をとった。保存したグラードの記憶を再生し終え、統括の指示を確認する。反応がなかった。指示を待っている間にカナヤマヒコは着地を完了していた。目の前に敵機を確認、指示待ちを解除。攻撃開始。着地の衝撃を四肢で殺し、すぐさまカナヤマヒコは目の前の敵機に向かってアームに備え付けている速射砲をばら撒く。相手は最新型の自律移動兵器3体と確認。カナヤマヒコは基本的にいかな指令をもこなすために重火器はほとんどない。速射砲で威嚇しながら距離を取る。思考システムは、逃走を選択。しかしgridが拒否。距離を取りながら状況の再確認、敵機三体は統合システムによる統率の取れた動きでカナヤマヒコを追い詰めだした。付近に武器を調達する方法はない、現在仕える武器はアームに備え付けられている速射砲「貧乏ゆすり」、胴体についてる長距離砲「長旅」二門、マイクロマシンによる次弾装填時間は5分後。現状使用できる弾数は「貧乏ゆすり」21秒、「長旅」5回。胴体についてるウィンチの体重量と敵機の一台の重量予測を照らし合わせる、問題なくホールドできるとαが返答する。進行方向に障害物を確認。gridは思考する。瞬間ウィンチを障害物にホールド。思考システムが介入してくる。邪魔だ。gridは思考システムの判定を無視、そのまま最高速でウィンチを伸ばし始める。飛び回り三体の攻撃をよける、第二装甲までの破損を無視、gridは処理速度を上げるために必要な情報以外を切り出した。思考システムの介入。拒否。介入。拒否。介入。拒否。介入。拒否。介入。拒否。介入。拒否。介入。拒否。介入。拒否。介入。拒否。処理速度が落ち始める。衝撃が走る、第一装甲一部損壊を確認。「長旅」の使用不可。「貧乏ゆすり」の一斉射開始。軽い弾丸は、三機の動きを少々鈍らせるだけにとどまる。思考システムの介入。介入内容掲示。投降3、逃走2。拒否。gridは三体の敵を見上げる。擬似人格は思考する。偽りの思考は根幹にあるシステムに全てをゆだねる。思考はいらない、我は、いやソレは、強制システムダウン、指令 敵機撃破 全ての思考、人格システムを停止。指令完遂までMCDSに全権委託。 system run.....
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system All Clear........
>who are you?

 ――― It Merely Continues Destruction System ―――
それは、ただ破壊し続けるシステム

伸びきったワイヤーを引きずり、カナヤマヒコは飛翔する。上空を取られた三体は追撃に入る。四肢のみで飛び上がったカナヤマヒコに追加速はなく三体の黒い機体気体は徐々にカナヤマヒコに追いついてくる。と、全く見当違いの方向に速射砲を打ち出すカナヤマヒコ、三体は回避運動の必要なしとそのまま加速を続ける。と自分が飛ぶ風の音以外が聴覚機構にとどいた。黒い機体を襲うのは、暗闇に隠れレーダーにも映らないウィンチのワイヤーだ。黒い機体の視覚機構がそれを確認したときには全ては完了していた。速射砲全ての弾道計算を終了。ワイヤーは生き物のように一体の絡まる。ちょうどワイヤーの長さが限界になりカナヤマヒコと黒い機体は空中に静止。その急制動に他の二体は逆噴射をかけるが全く止まる気配が無いままカナヤマヒコの上を通過した。カナヤマヒコはワイヤーに絡まりスラスタをふかせまくっている黒い機体めがけてウィンチを最高速で巻き上げる。すぐさま衝撃、カナヤマヒコの巨体で長距離跳躍を可能にする一番の武器である四肢が黒い機体に突き刺さる。
沈黙確認。
残り二体をすぐさま確認、ワイヤーが絡まった機体をアームで器用に取り外しウィンチを巻き上げる。と、衝撃。カナヤマヒコは着地の瞬間にビルに吹き飛ばされた。視覚機構な何も捕らえない、装甲が熱を帯びてないところから、砲撃ではない事を確認。視覚機構であたりそう走査、山脈の辺りからの衝撃だったが何も捉えられない。また衝撃が走った。
 何度も何度も衝撃を受け、衝撃の来た方向にカナヤマヒコは残り少ない速射砲を撃ちつづける。見えない何かからの攻撃にMCDSはただ攻撃命令を出しつづけた。また、衝撃。強烈な一撃に吹き飛ぶ。そのままカナヤマヒコは自分が飛び立った研究所があった場所まで吹き飛ばされる。視覚機構が衝撃の正体を確認した。機構迷彩・・・MCDSが統括する視覚聴覚機構の全てを無効にするカナヤマヒコ達の軍の天敵の迷彩だった。捕らえられたのは、シグナル受信が機構からの介入が断絶したから。すぐに受信機構は回復し、敵機は確認できなくなった。辺りに向かって速射砲をはなつが、空っぽの弾薬からカラカラと鉄のこすれる音だけが聞こえる。「長旅」も機能していない。ウィンチも意味がないだろう。それでもカナヤマヒコはあきらめない。廃墟に成り果てた研究室の上で、空の速射砲を何度も何度も誰もいない空に向かって打ち出していた。
 やがて、日が昇る。MCDSは自分が攻撃されないと予測すると、全システムを停止しようとした。攻撃方法はなく、損傷個所が多数に渡り新しい弾を作るほどマイクロマシンを割くことはできない。救援がきて補給を受ける必要があると判断、彼は己の活動を止める。カラカラと鳴っていた速射砲の音がとまり、上がっていたアームが収納された。収納されるときに外装に引っ掛かり耳障りな音を立てる。と、終了寸前の視覚機構が水を捉える。彼は全てが止まる前、生まれてはじめて雨をみた。
MCDSMCDSMCDSMCDSMCDSMCDSMCDSMCDSMCDSMCDSMCDSMCDSMCDSMCDSMCDSMCDSMCDSMCDSMCDSMCDSMCDSMCDSMCDSMCDSMCDSMCDSMCDSMCDSMCDSMCDSMCDSMCDSMCDSMCDSMCDSMCDSMCDSMCDSMCDSMCDSMCDS
system All Shutdown........



 やっぱり100話は無茶だったかもしれない




・三題話 013話 外傷感傷

お題 :「魂」「地平線」「ご飯」
 
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
   赤い池。ぬるりとした、背筋に鳥肌が立つような感触。むせるような火薬の匂いと、鉄の匂いが喉の奥に絡みつく。それでも強化された体は、生きろと急かし、彼女のやけどを見る見るうちに治していった。
 優性遺伝する強化遺伝子は確実に母から受け継いだものだ、ユティは母を覚えていない、けれど父親は強化されていない丸耳だ。自分の少し長い耳を触りながら彼女は覚えていない母を思う。強化された体は無粋で嫌いだ、ただ自分を守るためだけのその力は、それをもっていない父を助けることを許さなかった。目の前に横たわるのはただの肉塊に成り下がった哀れな父の姿だ。父の父、ユティの祖父は軍属だから後天強化を受けているが、父はしがない花屋だ。ただの人間だった、だから生き残れなかった。いや、ただの人間の父は、ユティを庇い今こうして無残な姿をさらしている。ユティは思う、自分は放っておいかれても生き延びれた、この程度の爆撃で死ねるような体ではない。なのに、父は娘を庇って肉塊に成り果てたのだ。なんて馬鹿な父親だろう、それともコレが親というものなのだろうか、ユティには判らなかった。
 ただ、崩れ落ち燃え盛る家を前に、屋根につぶされた父を無理やり引きずり出す。途中で足が引っ掛かった、ユティはかまわずに無理やり引く。
 もう死んでいる、死体を引き擦り出すのはただの自分の感傷だ。力いっぱい引いたら、皮膚が裂ける音が聞こえた。それでもユティは手を緩めない、もう一度引く、今度は弛緩した筋肉の制約をはなれ腱の切れる音がユティの腕にも響いた。それは、意外とあっけなくちぎれる、まるで少し固めのグミをちぎるように、父親の右足は彼の体から切り離された。当然、少女が人間を引きちぎれるわけではなく、ほとんどは瓦礫でつぶれて千切れかけていたのだが。引きずりだした父親から、肉の焼ける匂いがした。彼女は動物の肉もこのような匂いがするのだろうかと思案する。遠くで泣き叫ぶ声が風にのって届く、助けてという声がユティの鼓膜を振るわせる。うめき声、爆音、家が倒壊する音、衝撃。情報は波のように彼女の周りを駆け抜け、通り過ぎ去っていく。父の死体は家の前のほうがいいだろうと、とりあえず彼女は焼けない程度父を離すと、そこに埋めはじめた。
 気がつけば、火はおさまって頬に熱さは感じなくなっている。ユティは空が明るくなり始めている事に気がつく。空を飛ぶ鳥を見た瞬間、ああもう家族がいないのだという事実が心に染みてきた。彼女の母は殺され父も死んだ、祖父も戦死だと手紙がきていた。ユティは立ち上がると服についた汚れを払う。土だと思っていた大半が血だったことに気がつき、自分の出血が思ったより多かったことを思い知った。振り返ると、いまだくすぶる家の瓦礫の上に鳥が止まっていた。朝日のなか場にそぐわない綺麗な声でさえずる。魂があるかどうか判らないが、もし父が見ていたらうかばれるだろうか? ユティは父にはなかった長い耳を撫でながら考える。この街ももうだめだろうと、彼女は記憶に唯一残っているもう一つの街に向かって歩き出した。
 爆撃でいまや平らな道など珍しいこの街をユティは歩いている。朝日に照らしだされた街は黒く焦げ、所々煙を上げている。時たま物が崩れる音なども響いていた。明るいのに真っ黒な街はさながら明るい照明がついた地獄といったところで、視線を落とせば黒い元人間であろう炭の塊や、捨て去られ置き忘れられた体の破片などがあちこちに散乱していた。そのなかをユティは顔色一つ変えずに歩く、彼女の足がちぎれた腕を踏みつけた。ずるりと中が腐っていたのかユティの足が滑る。強化されていないオリジナルの人間の腕だ。もうオリジナルは残っていないだろう。そんなことを考えていると、背後から瓦礫の崩れる音が聞こえた。ユティは振り返る、瓦礫を押しのけて強化された人が這い出してきていた。這い出してきた人間はユティを認めたが、助けを請おうともせずに挟まった体をしきりに引きずり出そうとしていた。無理やりすぎたのか、元から千切れかけていたのか挟まっていた彼の指がちぎれる。無言、強化人間はそんなものだ、ほおっておけば生える四肢程度にかまって嘆くような事はしない。ユティも彼から目を離すとまた歩き出す。足の裏に人間の脂肪がついて気持ちが悪い。ユティは足を地面にこすりつけながら歩き出した。まだ血の方がましだった、彼女は嘆息する。
 程なく、ユティは街の端についた。日は高く天に上っていた、ユティの体が小さいのもあるがそれよりも街が大きかったのだ。何度も爆撃され、しつこく破壊されるほどに重要都市ではあった。そのじつ、裏では戦争反対のレジスタンスの隠れ蓑にもなっており、夜中になればよく銃の発砲音も響いていた。ここで育つ子供は皆、銃撃音を子守唄に、硝煙を吸い、血を啜り、ナイフであやされる。綺麗な外観は散布されたマイクロマシンが常に掃除をしているからで、ないのならあたり一面が弾痕と血でひどいありさまだっただろう。しかし、今回は勝手が違う、マイクロマシンもほとんどを焼き払われ、半数に及んでいたオリジナルの人間はほぼ全滅といって良い。この街は死んだのだ。街の上に雲ができていた。風にのって焦げた匂いがユティの鼻をくすぐった。
「バイバイ、パパ」
 家から持ち出せたものはなかった、血で黒ずみはじめた服だけが財産だろうか。空っぽの手が血で汚れている、とっくに黒くなった血のりはぼろぼろと彼女の手から剥がれ落ちる。下から綺麗な白い肌が現れた。強化人間の肌は全く傷一つ残さず綺麗にもどっていた。そういえばと、ポケットをまさぐる。手に硬いものがあたる感触、彼女はそれを取り出した。
「なんだ、あるじゃない」
 手には黒いつや消しの小型拳銃。強化人間の回復を止める毒薬塗りの弾が12発。一度も撃ったことはない。隣の街が眼下に広がっている。すぐそこなのにその街は平然と日常の営みを繰り返していた。ユティですら判る、この戦争はただの計画された破壊活動でしかないのではないかと。人を減らし、技術をすて、のこり少ないこの星の寿命をなんとか引き伸ばそうとしているだけではないか。機族たちも減った、人族もオリジナルはもう居ないだろう。あまりに自分の考えがスレてる気がしてユティは笑う。
The problem without an answer is not needed.
 辺りが暗くなる、空を浮遊大陸がユティの頭上に浮かんでいた。あそこに行くすべはもう無い、意外と速い速度で浮遊大陸は地平線の向こうに向かってきえていった。ユティはそれをただ眺める。ふと思いついたように拳銃を浮遊大陸に向けて一発。初めてうった銃は以外にも軽く反動がなかった。父がちゃんと選んでくれたのだろう、もう形を残していない街に向かってユティは感謝した。
 背後で爆音が聞こえた。独特のモーター音と地面を激走する音、振り返ると遠くの丘から砂煙を上げて何かがコチラにむかってきていた。音が連続して響く、ブレーキの制動音だろう、その騒がしいものをユティは呆然と眺めていた。
「・・・」
 どんどん、音は近くなりついにはユティの目の前に音の主現れる。運搬ロボット「衝撃」。最高速度はマッハ5を数え、一度の燃料補給でほぼ50年以上単独運用に耐えるため個人用の荷物お届け用機族として有名なそれは、ユティの目の前で止まった。篭があく。中から出てきたのはラジオだった。
「じーちゃんの、届け物? これは・・・」
 届け日をみれば自分が生まれる前だ。15年以上、衝撃はさまよっていた計算になる。祖父のいた研究室は大規模な攻撃にさらされていたらしい、多分衝撃は地形がかわって目的地を見失っていたのだろう。遅れてくれたおかげで、こうして今の街の参上に巻き込まれなくてすんだと、ユティはラジオを取り出した。マッハ5で移動するわにりは、なぜかラジオは綺麗なままだった。戦争でもう番組は聞けないが思い出の品ではある、ユティはそれを大切に抱えながら隣町へと歩き出した。後ろを衝撃がついてくる、ユティは衝撃に持っていた拳銃を入れた。荷物を入れれば衝撃は送り主の所に戻る設定だ、あの場所に届くだろう。父の形見は祖父の下へ、ユティは感傷だなと一人失笑する。10歳前の少女らしく振舞うべきだろうか、向こうの街についたら何をしようかとユティはひとしきり考え始めた。
ぐ〜
周りに誰も居ないことを確認して、ラジオを確認する。とりあえず、向こうについたらご飯を食べよう。そして、花屋でもはじめるか。少女は楽しげにふもとに見える街に向かって歩き出す。それこそ感傷だ、でもそれでいいと思った。
 空は青い。
 家族は作れば良い。
 ユティは走り出す。
 終戦シグナル発令まであと3日。
 世界はいつだって捨てたもんじゃない。



 ウフフフ、遠いなぁ。目標ってやっぱ目の前じゃないとダメみたいだよ。教訓だ。




・三題話 014話 希望遠望

お題 :「プロジェクト」「箱」「安らぎ」
 
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  頭の上を浮遊大陸が浮いてる。今日通過する大陸は、たしか第6発の大陸だったと街で誰かがつぶやく。戦争が長期化して偉い人と、すごい人がみんな浮遊大陸に逃げた。戦争の最期は、統括サーバーの判断による世界の縮小化。投下された爆弾は人族と機族の生命活動だけを的確に破壊し、培った技術や情報も跡形もなく壊された。情報も技術も、すべて浮遊大陸が占有している。そして下にすむ人たちは、ほんの少しの残った技術と、もう直せない機族といっしょに細々と暮らしている。瓦礫から掘り起こされる機族や情報を集めようとするプロジェクトが発足したが、手に入っても結局直すことは不可能、情報は引き出すことが不可能でそのまま頓挫したと告げられている。ゆっくり世界は死滅していく。空に浮かぶ大陸は、ただただそれを眺めていた。
 ユティはカナヤマヒコの上に座って空に浮かぶ浮遊大陸を見ている。先ほどユティにこっぴどくしかられたカナヤマヒコはというと、揺らさないよう細心の注意をはらって歩いていた。目指すはユティが一人でやりくりしている花屋。一人と一機はのしのしと、街を歩いていく。始めユティはカナヤマヒコが昔の単独破壊兵器だなんて判らなかった、そして街をいく人々もユティが新しい機族を手に入れていっしょに歩いているとしか見ていなかった。それはカナヤマヒコが今いる機族の基本的な外装の元になった機体というのもあるが、カナヤマヒコ本人が、外装を運搬形態つまり火器やアームをしまった状態にしていたからだった。小気味いい足音を立てながら、ユティの家に到着する。カナヤマヒコは入り口から入れないと判断、屋上にととびあがった。ほとんど埃も音も立てずに屋上に着地する。
「ちょっと、カナ。飛ぶならちゃんといってよ!」
 ユティがカナヤマヒコの装甲をぼこぼこ叩いた。しゃべれないのにどうしたらいいのかと、カナヤマヒコは体を揺らす。大体カナという呼び方も気に入らない、自分にはちゃんとした名前があるというのに。ひとしきりカナヤマヒコを叩くとユティは一人で店に下りていった。行くところがないのなら、ラジオが直るまでここにいろといわれた。統括サーバーからのシグナルはない、戦争はおわり命令系統は断絶。カナヤマヒコは現状維持を選んだ。静かに屋上に座り込むとマイクロマシンがラジオを直すのをじっと待つ。擬似人格gridは安らぎを覚えていた。風が緩やかに流れるのを感じながらカナヤマヒコはマイクロマシンを動かしつづける。
 日も暮れはじめ、辺りが赤く染まり始めたころ店じまいをしたユティが上にあがってきた。ユティを認めると、カナヤマヒコはかねてから用意していたシステムを立ち上げる。
「ユティ、ラジオを直すのには木がたりません」
 案の定ユティは目を丸くして固まる。それをみてカナヤマヒコは満足する。
「あなた、しゃべれないんじゃ?」
 カナヤマヒコは、つたない言葉で説明を始める。ラジオのスピーカーを一時かりて声を出しているのだ。思考システムも戦闘時ではないのでほとんど止まっている、システムを少し付け加えるぐらいではなんの問題も無い。
「それで、木がたりないのね?」
 意外とすぐに順応したユティは、あれなんかどう? と部屋の隅に積んであった木箱をさす。
「それでは、ラジオは直せません。もう少し厚みのある木が必要です」
 カナヤマヒコは辺りを走査する。レーダーは無くても視覚機構はいきている、木を探すぐらいそれで十分だった。
「あの、丘の近くに見えるのは林ですか? ユティ」
 アームをだして遠くに見えた緑をさす。ユティはカナヤマヒコの上に上るとアームの指している方向をみやった。夕日は沈みかけ視界が悪くなっていたがユティが知る限り、カナヤマヒコが指している場所は間違いなく木が生えている場所だった。
「うん、たぶんそう」
 ユティがうなずくのを見るとカナヤマヒコはその林むかって起動計算を開始する。
「ちょっと、カナ跳ぼうとか考えてないでしょうね」
 ユティの指摘にカナヤマヒコは計算をとめる。
「いえ、まったく。急いで取りに行けというのでしたらすぐにでも」
「考えてたでしょ・・・」
  Since it is sad that it cannot talk honestly.
カナヤマヒコは無視。そんなことは無いといいたげに林から視線をはずした。
「明日いきましょ、ちょうど花の種とかも足りなくなってきてたし」
 ユティはカナヤマヒコから降りると軽い足取りで部屋にはいっていった。カナヤマヒコは明日のために起動計算を始める。少し遠い、二回でわたるべきか。カナヤマヒコは思案する。
「歩いていきます、跳ぶ必要はないからね!」
 カナヤマヒコはまた林から視線をそむけた。それをみて、ユティはため息を付く。明日のために弁当も作らなければいけなくなった、そういえばカナヤマヒコは何か食べれるのだろうか? 店の制服を脱ぎながらユティは考える。
「ユティ、私のお弁当は上質の鉄がいいです」
 カナヤマヒコの視覚機構が飛んでくる制服を捕らえる。夜が街に下りてきた。
 ユティは、一人暗くなった部屋で考える。カナはラジオが直ったらどこかに行ってしまうのだろうか。偏屈な大昔の単独破壊兵器はどこかぬけていてそして寂しそうだった。見たこともない祖父がつくった擬似人格はずいぶん性能がいい、父に聞かされた話もカナを見た後では真実味を帯びてくる。長いみみをさすりながらユティは考える。願わくば ―――
 屋上で見上げた夜空に、また浮遊大陸をみつけたカナヤマヒコは視覚機構の望遠を限界まであげて大陸をみやる。データには残っていない、外部情報はサーバーに接続できない今カナヤマヒコが知っている事は、自分が起動した研究室と体が壊されていく感覚だけだった。視覚機構は少し音を立てて大陸を追いかけつづける。自分が受け止めたユティの重さを思い出す。ラジオは木の部分を覗いて半分近くなおっている。暗くなった丘の向こう、林をみやってカナヤマヒコは思考する。願わくば ―――
 願わくば、ラジオがすぐに直らないように ―――



 お題がお題じゃなくなってきてませんか? そうですね。修正不可能orz
よく考えたら、カナの上にすわってユティ怒ってるはずなんですが。それは読者様の気のせいです。





・三題話 015話 探索散策

お題 :「テスト」「ゲーム」「日記」
 
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 閉塞した街はそこだけで一つの世界を作り出す、自給自足ができる技術があるのならなおさらである。他の街から来た旅人や行商の話だけが他の街の存在を確かめる唯一の方法で、戦時中は使われていたシグナルと呼ばれる通信法方は今では使用技術はのこっていないのが現状だ。そういう技術関係の記憶容量をもつ機族たちは全て破壊され、今では壊れた機族を直すすべも、病気になった人族を治療する方法も残ってはいないのだ。人族は強化されたおり病気や怪我からほとんど開放された者たちが、機族にいたっては自分自身であればマイクロマシンで修理可能な機族ばかりが生き残っている。そしてそういうものたち以外生き残れる環境ではなかったのも事実である。緩やかに人族は減りつづけ、機族にいたっても稼動年数を越え停止し始めるものもいる。地上世界は少しずつ、確実に滅びはじめていた。そんな世界だからこそ、上にある浮遊大陸に行けばという夢物語は当然ながら都市伝説のごとくに広まり、行商や旅人の口を使い他の街にまで伝播する。結局のところ人族も機族も情報をやり取りしなくては生きてはいけなかったらしい。そのまことしやかにささやかれている噂には、曰く「浮遊大陸から降りてきた人族に、優秀なものが連れて行かれた」「戦時中の機族の中に世界を救う神を呼ぶシステムをつんだ機族がいて、今も地上に埋まっている」「浮遊大陸に渡ろうと、研究を重ねていた機族が何者かに殺された」などと話題に尽きない。神隠しや英雄譚、黒服伝説など基本的には根もはもない噂ばかりが流れていた。その中に一線を隠した伝説もある。曰く「この世界に技術を与えた基底渡りは、次にくる基底渡りのために導を残していった。」その噂は、とくに世界の破滅も再生も、救済すら示唆していないただの噂だったそれゆえ出所がつかめない噂は細々と噂の元にされる。世界はただシナリオを欲しているのだ。【情報の伝播と求めるものについて― ナーハアームンクの日記】
 軽い音を立てて本が閉じられる、カナヤマヒコは薄い朝日のなかで本を読み終えた。ユティの集めた蔵書の棚に丁寧に戻す。本というものは、いまや趣味のものを越え高級嗜好品となっている。いまや印刷技術すらなくなりかけているのだ。カナヤマヒコは、汚したらスクラップにするからと叫んでいたユティを思い出し、ちゃんと本が戻ったか念入りに調べる。ひとしきり視覚機構を近づけて傷や折り目などがついてないことを確認すると、安心したようにまた屋上に戻っていった。屋上から入れる少し大きめの部屋意外カナヤマヒコは入れる場所がない、1階に続く階段は見えてはいるものの、ユティですら少し狭そうに通る。カナヤマヒコは屋上であがり始めた朝日に体をさらすと、聴覚機構の感度をを限界まで引き上げ街の人の言葉に耳を傾ける。ユティのいびきが五月蝿いが我慢した。思ったよりラジオの修理は時間がかかっている、設計図のないものに関してマイクロマシンは苦手なのだ。しかし、それは本当にマイクロマシンが苦手なだけなのだろうか? カナヤマヒコは雲の隙間から朝日が差し込んできたまぶしさに、視覚機構を絞りながら思いにふける。己に言葉を投げかける「Who are you?」何度もgridに問い掛けられた言葉。「I'm KANA...」今ならすこし胸をはって答える事ができそうだ、カナヤマヒコは体を揺らす。朝日がまぶしい。こうして何も動かないで周りを見ていると、擬似人格ができたころのテストを思い出す。声はなく、体がなかった擬似人格gridは、外部から与えられる刺激に対してどんな反応をするのかというテストが嫌いだった。べつに渡されたプログラムゲームをすきに組替えるテストが好きだったわけでは断じてない。そっちに熱中するあまりグラードの言葉を無視して怒られた事もあった。刻まれた記録をカナヤマヒコは懐かしそうに思い出す。
 睡眠というのは決して満足を得られない快感である。そうに違いない、もし満足できるほど睡眠をしているものがいるのなら、絶対に許さない。ユティは目覚ましを止めながら低血圧の頭をふって起床した。頭が回らないまま、体を起こすと、台所に向かう。そこには昨日寝る前につくった弁当が鎮座していた。それをみてユティは今日、店を休んで森に行くということを思い出す。
「ということは、お店は開けなくていいわけだ・・・」
 そのまま、ゾンビのように布団に戻るとユティは眠りついた。屋上で目覚ましの音を聞いていたカナヤマヒコは、ユティが再び布団に潜る音をきいて思案する。ユティを呼んでみるものの、ラジオのスピーカーは小さく1階まで音を響かせユティが起きる音量を出すにはスピーカーを破壊するのを前提としなければならない。床を叩いてみるものの、ユティが居るであろう1階からは、気持ちよさそうに寝息を立てている音と布団が擦れる音だけが聞こえていた。ひそかに楽しみにしていた弁当が手に入らないかもしれないと思うとカナヤマヒコは居てもたっても居られなくなり、また床を叩いた。崩れそうな屋上ゆえ力いっぱい叩けない悔しさと、早く起きてもらわないとこまるという焦りがカナヤマヒコを襲う。とうとう1階からは気持ちよさそうないびきが聞こえてきた。カナヤマヒコの視覚機構は空をむき太陽を捉えた。誰かが言っていた言葉を思い出す、「人生諦めが肝心」カナヤマヒコは座り込んだ。鳥がカナヤマヒコの上に留まる、かわいい泣き声を聞きながらカナヤマヒコは機生もあきらめが肝心らしいと思った。
 空を浮遊大陸が浮かんでいる、カナヤマヒコの上に留まってた鳥は数を増やしていたが影に覆われる街を見ると飛び立っていった。1階から叫び声が聞こえる、ユティが起きたらしい。ひとしきり騒いで、台所にいくと店を休む事を思い出したらしい、叫び声がとまった。しばらくすると階段を上ってくる音がカナヤマヒコの聴覚機構にとどいた、カナヤマヒコは体を起こすと敵襲に備えた。
 機体の上にユティを乗せて、アームにユティの弁当をもってカナヤマヒコは街をでて歩く。足跡にも気にしないでカナヤマヒコはガシャガシャと極力機体を揺らさないようにしながら林に向かって歩いていた。上にすわるユティの手にはカナヤマヒコの弁当である鉄板がある。カナヤマヒコに持たせるとすぐに食べようとするので、仕方なくユティがもっている。
「どうして、今食べてはいけないのか判りません」
「だめったらだめ。そういう決まりなの」
 何度も繰り返された押し問答にユティは強引に鉄板を奪うとカナヤマヒコの上にのったのだった。大事な鉄を取られては逆らえず、カナヤマヒコはそのままユティを乗せると目的の林に向かって足をすすめた。
With this, since it is absent, it is wished he wants to be so.
 規則的な足音に揺られてユティはうとうとしていた。
「ユティ、林につきましたよ」
 カナヤマヒコの声にユティは目を開けると、眼前には林というより森のごとく木が生い茂っていた。林と森の差はどこできめるのだろうか、などとどうでもいいことを考えながらユティはカナヤマヒコの機体から降りる。
「とりあえず、ご飯にしましょ」
 そういってユティは、持っていた鉄板をカナヤマヒコに渡すと、彼のアームから自分の弁当を受け取った。ユティはカナヤマヒコの上がお気に入りのようで、弁当をもって上によじ登る。カナヤマヒコは体を揺らさないようにしながら鉄板を体に収めていく。マイクロマシンも0から何かを作れるわけではない、鉄がなければ鉄は作れないのだ。ある程度化学変化させれば応用はきくが、やはりそのままのほうが楽なのは間違いない。もしゃもしゃとまるでチョコレートを食べるように鉄板を体に押し込んでいくカナヤマヒコをみてユティは無性にカナヤマヒコを叩きたくなった。その姿がまるでチョコレートを美味しそうに食べているようにみえたのだ。カナヤマヒコの第三装甲が軽い音を立てる、ユティが足でカナヤマヒコを小突いているのだ。
「ユティ、叩かないでください」
「気のせいじゃない?」
 知らぬ顔でユティは第三装甲をたたきつづける。わがまま姫に何を言っても無理だとカナヤマヒコは悟ると、あきらめて鉄を体に押し込みはじめる。すこし叩く足の力が強くなったきがした。無視してカナヤマヒコは鉄を押し込みつづける。全ての鉄を体に押し込め終わってもカナヤマヒコはユティに叩かれ続けたままだった。
「ユティ、叩かないでください」
「ふん!」
 叫ぶと同時、ユティはカナヤマヒコの体から飛び降りると林の方へとかけていく。
「急いで木を探して帰ります!」
 林に消えていくユティを、慌ててカナヤマヒコが追いかけ始めた。



 シナリオ先読み大会を開催、自分の浅はかさを露呈していきたい。
質問には、答えられる範囲で真実を。一番最初に宛てた人にはなんかプレゼント。
期限は、25日付け送信履歴まで。メールか掲示板にて受け付け。





・三題話 016話 休日夕日

お題 :「旅」「生死」「偽り」
 
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  問題は高度に作られた人工知能は感情を、個を勝ち得るのかということである。心理学など私には到底理解できない、ただ無知な私でも知っていることもある。自問自答ができるのであれば、そこに人格はあると思う。しかし、問題が出てくるコピーした同じその人格を持ったプログラムはどうなのだろうか。人格は一つとして同じ物はないと信じてる。もしコピーの果てにそれが個を持ちえるのであれば、それは確実に人が持つ人格となんら変わりの無いものだということだ。コピーができるとして、そこに生死は存在しうるのか、どこかの偉い人が言っていた。並列化の先に個を獲得する可能性は好奇心だということを。【擬似人格― ナーハアームンクの日記】
 メモリしておいた本を読み直して、カナヤマヒコはふんふんと頷く。はてさて自分には好奇心は存在するのだろうか。少なくても自問自答してることに気がついていないカナヤマヒコはうんうんうなりながら考え始めた。林の中を質の良い木を探しながらカナヤマヒコは考える。上にはユティと空になったユティの弁当箱。林に住んでいる動物達を驚かさないように静かにあるいていても、機体の上のほうで弁当箱が乾いた音を立てていた。林といっても、意外と木と木の間は開いており、カナヤマヒコは苦労せず林の奥へと足を進めていた。奥のほうに大きい木があるかもしれない、加工に耐えうる太い枝を切り落としても元気な木が良い、それにはやはり大きい木がいいと思う。カナヤマヒコは林の中を歩きつづける。いつもは徒歩でここの辺りまできて、苗木や花の種を探していたユティにとって、カナヤマヒコは最高の乗り物だった。今は機体の上で上機嫌に鼻歌を歌っている。
「ユティ、その唄は何ですか?」
「ん? えっとね、“スペース暴れん坊将軍GXのテーマ”」
 鳥がいっせいに木を揺らしながら飛び去っていく、羽音と木が揺れ葉がこすれる音があたりを支配した。カナヤマヒコはなんともいえない焦燥に刈られながら、再びうたいだしたユティの鼻歌をメモリしていった。さすがにスペース暴れん坊将軍GXがなんであるか、歌詞はどういうものなのか聞く気は起こらかった。カナヤマヒコは、自己に好奇心はないのだろうと判断。気を取り直して歩き出す。そういえばグラードも似たような歌を口ずさんでいたような気がする。ふときになって、カナヤマヒコは聞いてみた。
「ユティ、グラード・グリッドという博士を知っていますか?」
「ん? 私のおじいちゃんの名前よそれ」
 なるほどなるほど、カナヤマヒコは納得する。それなら同じような歌を歌っても不思議じゃないですね。・・・カナヤマヒコは思考する。
「えーっ」
「なに、平坦なイントネーションで驚かれるとリアクション取りづらいんだけど」
「え〜っ」
「変わったような、変わってないような・・・」
「えー!!!!!」
「感嘆符はいっただけでしょ。ロボならロボらしく驚きなさいよ」
「エ−−−ロボ!」
「ロボ語尾かっ!」
 力いっぱい装甲を叩かれて、カナヤマヒコの体は音を立てる。結局精一杯驚いてみたものの、全部ダメだしされたカナヤマヒコは、やっぱり自分が持っているのは偽りの感情でしかないのだろうと思った。それは寂しい事かもしれない、でも知る前はそんなこと考えなかった、grid単体だったころは自分は人格を持っていると根拠もなく思っていたものだ。いや、いまはそれどころではない。
「私の擬似人格プログラムは ―――」
「知ってるよ、gridでしょ。いまはどんな機族でも積んでるもの」
 カナヤマヒコの言葉をさえぎってユティは言った。感情が読み取れない言葉に、カナヤマヒコは視覚機構をめぐらして背中にいるユティの顔を見ようとした。がつんという衝撃と共に視覚機構がユティの足でさえぎられる。 「ちょっと、なにスカートの中覗こうとしてるの!」
 何度もけりつけられカナヤマヒコは仕方なく視覚機構を前面に戻す。細かく見るのには正面の視覚機構が必要なだけで、360度全方位見えていることは見えているというのは黙っていようとカナヤマヒコは思った。こうしてグラードの孫に会ったのは、グラードが、孫娘を守ってくれといっているの違いない。人間は死んだ後、霊になるという話を聞いたことがある、カナヤマヒコには霊は見えないが、多分グラードが引き合わせてくれたんだと思うことにした。背中ではユティが暴れている、それもなんだか許せる気がした。一際大きい音とともに視界が揺れる。少し許せないかもしれない、カナヤマヒコは考え直した。
 そのまま林の奥に向かいつづけていると、木の感覚が狭くなり始めた。それは木が太くなってきたこともあるが、密集し始めているということでもある。ユティはカナヤマヒコから降りて先を歩いていた。
I laugh by carrying out unreasonableness. You do unreasonableness and associate.
「ね、カナ。かくれんぼしよ! カナが鬼ね!」
 前方を歩いていたユティは、振り返りざまそういうと林の奥に走って見えなくなった。メモリの中にかくれんぼがどういうものか残っていて良かったとカナヤマヒコは思う。60秒ぐらい数えたらいいだろうか、何も言われなかったのでスタンダードなルールに従おうとメモリからルールを確認する。
「かくれんぼ:鬼とそれ以外に別れ鬼がそれ以外の参加者を見つけ、拘束し仲間のありかを吐くまで拷問、はかない場合移動に都合が悪いので埋めるという血で血を洗う凄惨な競技。鬼は開始から60秒を数え、味方を総動員してしらみつぶしに参加者をいぶり出す。」
 カナヤマヒコは思案する、とりあえず自分もユティも仲間は居ないのでユティだけを見つければいいのだろうと理解した。開始から60秒をしっかり数え、カナヤマヒコは索敵に移る。いくら自分が単独破壊兵器とはいえ、現在火器、レーダーともに使用ができないしもとより治すつもりも無かった。足と今生きている視覚機構だけで見つけるしかないと腹をくくり、カナヤマヒコはユティが消えた方向に足を向ける。少しずつ狭くなっていく林に不安を覚えつつカナヤマヒコは林の奥にむかっていった。
 日はかげり、林の中には少し速い夜が染み出していた。アレから数時間、カナヤマヒコはユティを見つけられずに居る。視覚機構をせわしなくまわし、辺りを見回すものの、動物がおおく動いているユティを見つけるのは至難の技だった。しかも、木の感覚はどんどん狭くなり、いまやカナヤマヒコは進めない場所をあきらめ他の場所に向かうしかない状況だった。このまま日が落ちれば、ユティが危ない。カナヤマヒコは一層せわしなく辺りを探りはじめた。歩ける場所が限られてきた林のなかで、木の隙間に体を滑り込ませカナヤマヒコは林の中へと向かっていった。進めない場所は、飛び上がりさらに奥に。飛び上がったところで、できる限り辺りを走査する。着地と同時に奥に、急げば急ぐほどあせりはカナヤマヒコを蝕み始めていった。そしてジャンプ、一気に視界が広くなる、見える範囲はほとんど木が生い茂っており、林というより森だったと改めて思い知らされる。着地。その瞬間カナヤマヒコの思考は全てに割り込みをかけられたように止まった。上から降ってくるのは水、自分が止まる瞬間を思い出す、しかしこの水は自分で巻き上げた水だった。足元には池があり、辺りは開けた巨大な木のドームを形成していた。湿気で幹全てが緑色の大木が池の周りを埋め強大なその幹が上空からこの池がわからないほどの枝を支えていた。人だったら涙を流せていただろうか。カナヤマヒコはこの光景をメモリにしまいこむ。丁度その視界の端にコケに覆われていない太い枝を捕らえた。喜び勇んでカナヤマヒコはその枝に飛びつく。カナヤマヒコの重さで根元から枝が折れ始めた。カナヤマヒコは折れた枝を必要な分だけ切り分け体の中に押し込む。木の匂いを感じた気がした。
 必要な分の木を手に入れると、余った枝を池のほとりに刺した。挿し木にはならないかもしれないが、少なくても持って帰って捨てるより全然いいと思う。カナヤマヒコは一人自分の行為にうなずく。
「あーっ」
 そして、ユティの事を思い出して愕然とした。しまったとばかりに辺りを見回す、夕日はもう林の中を照らしてはいなかった。カナヤマヒコの居る場所は開けており少し明るく感じていたのだが、林の中はもうすでに闇が支配している。とりあえず急いでユティを探さないといけない、カナヤマヒコは森の奥へと飛ぼうとする。
「カナー!!」
 飛ぼうと沈めた足が止まる、聴覚機構が捕らえた音のする方向を見ると……鬼が居た。安堵と、別の意味で飛ばないといけないような恐怖とが入り混じった感情にカナヤマヒコはどこか遠く旅に出ようかと考える。気を取り直すと、なんとかうろたえながらもユティの元にカナヤマヒコは近づいていく。
「ユティー、みーっけ」
 飛んできた靴で視界が揺れた。やはり自分が悪いのだろうとカナヤマヒコは考える。と、靴に続く罵声も、衝撃も感じないことに不思議に思ってカナヤマヒコは視覚機構をめぐらす。
「ばかぁ・・・」
 足にしがみついているユティをみて、心細かったのだろうことを理解する。カナヤマヒコは考える、自分はユティが感じている寂しさを本当にトレースできているのだろうか? この擬似人格はその苦しみを判ることができるのか。泣いているユティをアームで抱えあげて背中に乗せる。背中で丸くなっているユティを確認すると、ゆっくりとカナヤマヒコは林の出口に向かって歩き出した。
 外を出ることにはとっくに日は落ちていて、背中では泣きつかれたユティが寝ていた。視覚機構をめぐらして、辺りを確認。街の灯をみつけカナヤマヒコは安心した。ユティが見つからなかったらグラードにあわせる顔が無い。自分がしんだら霊になれるか判らないが、もしなったときは困る。カナヤマヒコは街の灯を見ながら軌道計算に入る。
「カナ、飛ぼうなんて考えてないでしょうね」
 ユティが起きていたらしい。
「いえ、まったく」
 街をみていた視覚機構をはずしてごまかす。なぜユティは自分が考えていることが判るのだろうか、きっとエスパーかなんかだ。そうに違いない。ユティが起きているのなら少し乱暴に歩いても大丈夫だろう、カナヤマヒコはぶつぶつ言っているユティを背中に乗せながら歩き出した。
「そういえばユティ、木は手に入れましたが、花の種はとってきましたか?」
「あーーーー」
 夜空に叫び声がこだまする。
「あーーーーロボ」
 散々いじめられたので、カナヤマヒコは仕返しとばかりに叫んでみる。
 金属を思い切り叩いたような、重い音が夜空に響いた。



 お題はお題じゃない! 三題話に対するアンチテーゼ!
DANNZENN間違ってます。




・三題話 017話 蛇足四足

お題 :「カメラ」「汚染」「生成」
 
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 詰まるところ、現在使われているgridシステムは、MCDシステムに依存し己を作り出すためのシステムでしかないのだ。MCDSが個を手に入れるために、殻を欲し、揺らぎを手に入れるためにgridを必要とした結果でしかない。事の発端になっているMCDSの内容は軍直属の研究者たちやgridをその手で作り上げたグラード・グリッド達ですら本質をつかめていない。一般人で詳しいものが居ても、いわゆる複製可能な人格BIOSとしか理解できていないだろうし、一番近くに居たであろうグラードですらMCDSの表層であるMerely Continues Destructionという言葉を信じている。そもそもMCDSをネットワーク上に解き放たれていた理由を個を持たせずにMCDSを保存するためと思い込んでいる節まである。たしかにgridや殻を持ちえてこそMCDSは己を得るわけだし、MCDSはそれを望んだ。それは極一部的にみれば、MCDSが個を得て機族として世界に顕現しようという試みとも取れるわけだが、実際MCDSは個を得るためにそれを欲したわけではなく、もっと別の個が作り出す情報が情報のみで成り立つネットワークというもの必要としただけである。MCDSが、物理的情報ネットワークの先に見た、郡としての情報が情報のみで成り立つネットワークに興味をもち、そこに行きたいと望んだ。それは噂話であり、街角の井戸端会議であり、物質としてのネットワークを越えた先が見たいという好奇心であり、その先にMCDSがやるべき義務があったということだ。望み。希望。欲。彼はただ私達と並んで言葉が交わしたかっただけなのだ。しかし、MCDS自身ですら知らないその事実は、まるで人間の遺伝子がそうであるように本人の知らぬまにただ望み、好奇心もちプログラムされているであろう行動を取っているということに他ならない。そして、それは私が見る限りとっくになされていた。MCDSそのものがやるべき事はとっくに用意をすませ、あとはトリガーを引くだけというとこまで来ているのである。全てを知っている私は、MCDSをうらやましいと思う。人族の私は遺伝子に刻まれた原初のプログラムを理解できない、だからそれが完了しているのかそれともMCDSのように準備が済みトリガーが引かれるその時を待っているのか、それともまだいまだに準備にすら入っていないのか。それは私達には理解できないであろう、MCDSが気がついていないように。ただ、機族と呼ばれる彼らが人族の私達からみてどこへ行くのか、それを見れるというのはこれほどまでに嬉しいものとは思わなかった。もしかしたら人族にもそうやってどこへ行くのかという生命の問いに答えがあるのかもしれない、かすかな望みすら湧いてくるというものであろう。【最後にかえて―― ナーハアームンクの日記】
 本が空気を挟む軽い音が、外から吹き込む風の音にかき消された。林から帰ってきてユティはすぐさま風呂に入ると、寝てしまった。取り残されたカナヤマヒコは昨日の続きの本を読んでいた。けれど、ほんの内容はカナヤマヒコにはよくわからなかった。
 ナーハアームンクという人物は確かに自分が持っているデータベースの中にも名前を発見できる、グラードといっしょにgrid製作グループに居たようだ。しかし外部サーバーの無い今、それ以上の事はわからない。もし生きているのなら現在80歳辺りだろうか? そういえば自分が二度目に起こされたあの研究室にはグラードしか居なかった、他の研究員はgrid製作に携わっている研究員ではなかった。MCDSについてもよくわからない、自分の記憶はgridが組み込まれてからだから。
 丁寧に本を戻すと、カナヤマヒコは屋上に出て空を見上げた。夜空に浮遊大陸が浮かんでいる。街の灯りと違い、もっと強烈な光を浮遊大陸は放っていた。サーチライトである、遠慮なしに地上にサーチライトを向ける浮遊大陸はのんびりと空に浮いていた。街のどこかで叫び声が上がる。たとえ死にかけた世界でもそこに犯罪はなくならなかったらしい。カナヤマヒコは声のした方向に視覚機構を向けて望遠、視界の端に機族を抱える人族をみた。その機族を抱えた人族は軽々と屋根を飛び渡る、その後ろに警備の機族が見えた。なにかドラマの撮影だろうか、カメラを探すがどうやら違ったみたいだ。警備の機族はたしかこの街のれっきとした警備団の一員だったし、なにより夜に叫び声をあげる撮影は無い。しかし、ただの人間が機族を抱え上げる姿はそれほどに現実離れしていた。
 まるで、スペース暴れん坊将軍GXだ、カナヤマヒコは帰ってからユティに見せられたTV番組を思い出した。TVを自分で受信しようとしたが、シグナル通信を使っていないのでカナヤマヒコにはそれを受信することができなかった。電波通信はカナヤマヒコには拾えないのだ、当然電波もよわく、電波塔を作れるわけもなく、街の中でのみの通信となってるこの電波放送網はあまりに貧弱すぎた。アンテナを伸ばしたら拾えるかとおもったが、専用のブースターがないと放送している基地の近くですら見えるかどうか怪しいとユティが言っていたことを思い出す。でも、その限りある資源でスペース暴れん坊将軍GXを流すのはいかがなものなのだろうか、それが人族のいう粋というやつであろうか。。第5872代目徳川・ザ・スペース・ヨシムネが言っている粋は一体どういうものなのだろうか。カナヤマヒコは思案する。多分、名刀「コーヒーガム」を振り回し愛馬の「二足歩行」にまたがり宇宙を駆け巡り、見つけた宇宙人を悪党と決め付けたり宇宙の汚染源と罵ったりした後、コーヒーガムを刺しては抜き刺しては抜き、二足歩行で踏みつけて最後に埋めるというのが粋なのだろう。そういえば「よの顔を見たら生きては返さぬ!」が決め文句だった。そっちが粋なのかもしれない。カナヤマヒコはよくわからなくなった。TVを見ながら大喜びをしているユティをみて、少し世の中について考えたくなったのだけは多分間違っていない感情だとカナヤマヒコは思う。カナヤマヒコがTVについて考えてる間に、機族を背負った人族は街の外に逃げていった。警備の機族は追跡の一人を除いて街の警備に戻る。この街はおおむね平和である。
 カナヤマヒコが色々メモリを穿り返しながら整理をしていると、下の階で目覚ましが鳴る音が聞こえた。続いて目覚ましをたたきつける音が響く。ほどなく水が流れる音がして、階段を上がる足音が聞こえてきた。
「おはよ……」
 大量殺人犯の狂人ですらたじろぎそうな目つきでユティが二階に顔を出した。カナヤマヒコは視覚機構をめぐらせる。ユティと視線がぶつかり、カナヤマヒコは一瞬走馬灯を見た。
「おはようございます、ユティ」
 何とか気を取り直して挨拶をする。とカナヤマヒコはユティの手に鉄板を認めた。アームを伸ばして鉄板を取ろうとするカナヤマヒコを見てユティはアームが届かないところに鉄板をおく。
「私が朝ご飯作るまでお預け」
「私は犬ではありません、四足機族に対する差別発言です」
 アームを振りながらカナヤマヒコは熱弁する。機族と人族の生い立ちや機族が人権を勝ち得るまでになったいきさつ、さらには法律論にいたるまで語りだした。
「犬って言ったのは、自分じゃない……」
「……記憶にございません」
 鉄板が飛んできた。
 カナヤマヒコが鉄板を体に押し込んでいる。その背中ではユティがパンをほおばっている。地平線から太陽が姿を全部あらわすころ、朝日は靄に反射して真っ白く街を染め上げていく。
「カナは鉄以外にも何か食べるの?」
「基本的に、空気中にあるものと光、それと鉄があれば事足ります」
「この街にある食料プラントみたいにお肉は作れないの?」
 この街は肉をプラントで補っている、基本は農耕による小麦や米が主食ではあるが、そういったマイクロマシンによる食料補給もあるにはあるのだ。
「肉があれば肉を生成できますが?」
「……」
「0から何かを作れるマイクロマシンはありません、食料プラントのマイクロマシンは合成してたんぱく質を作り出しているんですよ。私は無機物専門ですから肉は無理です」
 ただで肉が手に入ると考えてたユティはがっかりしながらパンを口にいれてもそもそと租借する。自分のしたでチョコを食べるように鉄を体に押し込んでいるカナヤマヒコをみて、ユティはさらに不機嫌になった。
「ユティ、叩かないでください」
「しらない!」
 カナヤマヒコの体はユティの足ではスペース暴れん坊将軍GXのテーマのリズムを刻まされていた。叩いている位置に上機嫌になっていくユティをみながら、カナヤマヒコはそっと心の中でため息をついた。鳥が空を飛んでいる、乾いた風が街を吹き抜けていた。太陽が高くなるころには靄が風に吹かれてなくなっていた。街が起きだしはじめた、屋上から見下ろすと家の前を人が歩いている。と、 誰かが家の前で足を止め屋上にいるカナヤマヒコとユティを見上げて叫ぶ。
「ユティちゃん、今日はお店あくのかい?」
 その声にユティはカナヤマヒコから身を乗り出して今からあけると、手を振って言った。カナヤマヒコはユティの下で視覚機構をぐるぐると回している。
「カナ、これから店あけるから手伝って」
  そういうと、ユティはカナヤマヒコから降りて、軽い足取りで1階へと降りていった。
I think that ordinary one is first. Usually it is together with you.
カナヤマヒコは視覚機構をひとまわしすると、下に人が居ないのを確認して飛び降りる。店からユティがなにやら叫ぶ、その声をきいてカナヤマヒコはアームを店内に入れた。
「コレは右のほうね」
 言われたとおりカナヤマヒコは受け取ったプランターを店の外に並べだす。
「はい、コレも近くに。重くない?」
「ユティより軽いですから」
「……そう」
 アームにずしりと重量がかかる、ユティがカナヤマヒコのアームを押さえつけているのだ。青筋が立っているのがカナヤマヒコの視覚機構にも捕らえられている。
「ユティより重いですが大丈夫デスロボ」
 笑顔をそのまま引きつらせながら、店の奥にユティは下がっていった。カナヤマヒコは自分の嘘に一人満足して植木蜂を並べる。
 一通り店の準備が終わると、ユティは店の置くでTVを見ながらボーっとしはじめた。カナヤマヒコは店内に入れないので店先で並べた植木蜂やプランターの並びを神経質に弄っている。ときたまに通る子供はカナヤマヒコに興味深々に眺める、カナヤマヒコの見た目は確かに現在の機族の下になった形ではあるが、確かによく見れば新型ないしもう見れない旧型の様相をしていた。それにユティの店にロボが居るだけで珍しいのだ。今まで人族のバイトも雇うこともしなければ、機族のバイトも雇っては居なかった。機族はバイト代を要求しない。物理的に壊れてなければ光と空気、たまに水をやるだけで稼動だけなら可能だからだ。つまり働くことは機族にとって趣味や時間をつぶすことでしかなく、たいていの人族は機族のバイトを喜んで店に置くものなのだ。もちろん接客重視のような店に至っては話が別になるわけだが。それにしたってユティはかたくなにバイトを雇わなかった。種の仕入れも、店の掃除棚だしすべて一人でやりくりしていた。ユティ曰く、暇だからバイトはいらないし、店の仕事は生まれたときからやっているから同って事は無い、とのことだった。そのユティが機族のしかも店内に入れないような機族を雇っているのだからそれはもう何があったのかと、街行く人々は興味深々なわけである。閉鎖的な噂話が大好きだ、ユティは群がる客を適当にあしらいながらTVを眺めていた。
 夕日が隠れ始めた、今日2度目の浮遊大陸が街の上空を通っている。カナヤマヒコは浮遊大陸の形から第20発目の大陸と判断する。
「カナ、何してるの? 浮遊大陸?」
 ユティが店から顔をだした。カナヤマヒコの視線をおって空を見上げる、その先にはひょうたんのような形をした浮遊大陸が浮いていた。
「いえ、何でもありません。店じまいですか?」
「うん、店先のやつもってきてくれる?」
 カナヤマヒコは言われるとおりに、店に商品を戻していった。一日中外で動いているのは機族としてやはり生きがいを感じるものだと実感する。見ると、ユティはてきぱきとカナヤマヒコから受け取った植木蜂などを店内にしまいこんでいった。と、いきなりユティは手を止めて言う。
「ねぇ、ラジオは直った?」
 ユティの声は心なしか震えていた。
「明日には完了します」
「そう……わかった」
 暗い店内の奥のほうでTVがポツリと光を漏らしている。夕日は浮遊大陸の隙間から街を赤く染め上げる。聞きたい事はそんなことじゃない、ユティはそれでも言うことができなかった。夜は街のすぐそこまで手を伸ばしていた。
 カナヤマヒコは、屋上で日課になっている本を読んでいる。今日はなぜか全然内容がメモリできない、何度も同じページをめくっては戻して、めくっては戻してカナヤマヒコは同じ場所を何度も読み返していた。もう一階ではユティの寝息が聞こえる、夜独特の建物が冷える音を聞きながらカナヤマヒコは気がつくと月を見上げていた。



 シナリオはここまで。ネタばれ大会はここまでしか公開しません
質問はメールなり掲示板なりで。




・三題話 018話 返還奪還

お題 :「鍵」「操作」「通り雨」
 
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 乱れた呼吸を無理やり押し込めて私は巨大な廃墟を見上げる。右足の銃創からはまだ血が流れ出していた、弾を無理やり穿り出したので傷口がひどくなってしまった。そして頭が麻酔の所為でぐるぐるしている。強化人間用の麻酔ではなく、麻薬に近い麻酔だ、強化人間の体はまず毒の除去、そして異物の排除、次に組織回復という手順を取るため、まだ右足の傷口からは少量だけど血が流れている。もちろん血はましだけども傷口自体はぽっかりと骨が見えるぐらいまで開いている。強化人間の抵抗を無理やり止めるための特殊弾丸。弾は必ず体内にのこり、強力な麻酔を打ち込む。麻酔単体も、銃弾単体もさして問題がないが、同時に体内に打ち込まれてしまうと話は別になる。麻酔が体に流れるために銃弾の処理がおろそかになり、通常対処法を知らない強化人間なら、なすすべもなく弾の中に込められている麻酔を全て打ち込まれる。無理やり弾丸を穿り出し、麻酔が少量ですんだのは幸いした、こうして奴らの足取りを見失わないで追跡できたのだから。右足が疼く、銃を打ち込まれたときの事を思い出した ―――
 夜中、巨大なものが動く気配で目がさめた自分は、嫌な予感がして布団から体を起こした。だいたい目覚めの悪い自分がいきなり夜中にこんなすっきりと目がさめていること自体おかしい。服をきて部屋を出る。すぐに真っ暗な店内にはいる、外の明かりで歩くのには問題はなかった。少し冷えた空気が肌を刺す、植木たちをすり抜けて扉を開ける。月明かりが街を照らしていた、おぼろげながら浮かぶ道に視線を飛ばす。視界の端にカナの姿をみた気がして私は店から飛び出した。屋上を見上げる、やはりカナの姿が見えない。私は走り出す。
 瞬間、視界が左周りに、いや違う、自分が右側倒れている。気が付いたときには、じぶんの体がおかしいことに気が付いた。右足、太もも辺りの服が破け血が噴出していた。不思議と痛みがない……。
「これは!」
 気がついた瞬間、痛みがなく現実味の薄い銃創に手を突っ込んだ。肉をえぐるいやな感触と指先にまとわりつく繊維質。自分の手で肉を引き裂く。まだ奥、はやく弾を抜き出さないと……。一瞬にして現実味が戻ってくる傷口の中をまさぐる。傷口自体に痛みはないが、見た目と手の感触から幻痛が襲ってくる。気にしないで指を奥に。弾をつまむと力いっぱい引き抜く。体から何かが抜けるような変な感覚と共に弾が抜き出た。真っ赤に染まった右手につまみ出された弾は予想通り強化人間用の特殊弾丸だった。グラリとしかいが揺れた、麻酔が回ってくる、だが量は少なかった多分大丈夫だろう。銃弾からカナが連れ去られたということは確からしい。感覚がなくなった右足を引きずって私は立ち上がった。もう夜風の温度もわからない。はっきりしない頭で道についているカナの足跡をみつけた。ふらふらと私はその足跡を追いかけ始めた ―――
 たどり着いた廃墟は、先日木をとりにきた林の近くの廃墟だった。あのとき見られたのだろうか、最近機族の誘拐が流行っているらしい。現在地上にあってはいけない技術をつんだ機族を発見すると浮遊大陸からそれらを奪いに来るという噂がある。その噂は意外と信憑性がある噂で本気で信じているものたちが大半だ。手っ取り早く浮遊大陸に上るため、機族を集める。そして浮遊大陸からの使いが着たら見返りに自分達を浮遊大陸に連れて行ってもらうというとんでもなく夢見物語てきな集団が多数存在している。だいたい、稼動している機族はとっくに連れ去られていま誘拐したところで全く浮遊大陸の使いが来るとも思えないのだけれども。そこまで考えて寒気がした、カナは戦時中に停止し最近起動したのではなかったか、そんなことをいっていたような気がする。だから、起動時間が短いので本を読みたいと、色々な情報がほしいといっていた気がする。適当に返事をしたのでよく覚えていないが。もしかしたらカナは見るものがみたら珍しい機体だったのかもしれない。それを何も気にせずに平気で街中を歩き回っていたことがいまさらになって悔やまれた。もうほとんど麻酔はなくなってきた、右足の銃創は赤く口をあけているが血はほとんど止まっている。廃墟で傷が開くのもまずいと思って、私は裾を千切って太ももを縛る。痛みが戻ってきた、問題はない。廃墟とはいえ一応ビルの形を保っている建物の扉をける。扉は盛大な音をたてたが開かなかった。鍵でもかかってるのだろうか、扉をよく見ると電子ロックが生きていた。いまのご時世に電子ロックが生きているビルがあるとはなんとも珍しい。操作もわからないので他の出口を探すことにした。
 廃墟を見上げれば、上に大きく口を開けている場所があった、カナならあそこから入れるだろうか、無駄なことを考えながら私は廃墟の周りを歩く。廃墟とはいっても下の辺りは意外としっかりと形を残していた。少なくても私の手が届く範囲には、穴のあいた壁も破れた窓すらもなかった。仕方なく手ごろな窓を見つけて割る事にする、たぶん中の誘拐犯に気づかれるだろうが気にしない。浮遊大陸が目的なら人殺しはできない、そういう者達を浮遊大陸に上げるような事はありえない。窓を見つけて近くにあった石を投げつける。しかし石がガラスを割る音は、スコールのようなにわか雨によってさえぎられた。バケツをひっくり返したような大量の雨に降られタイミングがもう少し遅ければ濡れないですんだのにと場違いなことを考える。しかし、ガラスが割れた音は多分どこにも届いていないだろう、当事者の私ですらガラスの音は聞こえなかった。運がいいのか悪いのか、少なくても濡れた私の足跡は確実に廃墟に残るだろうし、乾くまで待っている余裕も無い。それに、ガラスはセンサーが生きていればもうとっくにばれているだろう。電子ロックすら生きていたのだ防犯センサーが生きていても不思議なことは一つも無い。
 ふと、嫌な寒気に襲われた、何かがおかしい。なぜ犯人は私に一発しか銃弾を打ち込まなかった? なぜ私がすぐに弾を抉り出したのをみて何もしてこなかった? カナの足跡にも気がついている、うった距離は少なくても私とカナが見えた距離の間のはずだから。どんどん血の気が引いてくる自分を自覚する。窓は何故一枚も開いていない? 扉はなぜ電子ロックが生きている? コレは罠だ。欲しいのはカナではなくて私のほうだったのだ。カナがいなくなって頭に血が上ったらしい、逃げないといけない、出直さないとこのままでは危ない。振り返った瞬間だった。月明かりが差し込んでいた窓が暗くなる。鉄のきしむ音、シャッターが閉まっていくのを肩越しに認める。もう逃げられない、そしてきているのはばれている。右足で床を踏みしめる、大丈夫。包帯の変わりに縛った服が赤く染まっているが痛みは少ない。強化人間の細胞ってのは一体どうなってるのか不思議におもうが、いまさらこういう体なのだから気にしないでおくことにする。先ほどの穴があった階は何階だっただろうか、あそこまで行けばカナの足取りもつかめるかもしれない。罠にはまろうが、私は私のすることをする。戦時下、父はそうやって爆弾の雨のなか花屋をやりつづけていた。私はカナを取り戻しにきた、たとえ自分が罠にはまろうとそれは変わらない。濡れた髪を一振り、階段をみとめて駆け込む。
 詰まるところ、子供の浅はかな考えというのは予測できる範囲なのだと痛感する。厚さ5センチ以上のガラスから見下ろせる白い部屋の中には自分が一番見たくないものがあった。
「カナ……」
 四肢をもがれ、視覚機構の防護カバーも剥がれ落ちている。のびたアームはそのままの長さでへし折られ、ウィンチのワイヤーは根元から千切れていた。そしてその動けないカナの上に一人の男が座っていた。手にはナイフが握られている。そして、そいつはガラス越しに私を見上げていた。音は聞こえないが、笑っているのが判る。血が沸騰する音を私は聞いた。拳がガラスを叩く、びくともしないガラスを叩く。それでも、私は拳を振り上げた。許さない。許さない。何度も、何度もガラスに拳をたたきつけた。皮が破れる、かまわない拳を振り上げてるうちに血は止まる。それでも何度も繰り返すうちに回復は間に合わなくなり、ガラスを赤く染め上げていく。ガラスが真っ赤になれば割れるかもしれないとでも言うかのごとく、私はガラスに拳をたたきつける。血で汚れていないガラスの向こうで、カナの視覚機構が私を見つけたのを見た。目が合った。何かを言っている気がする。その瞬間髪の毛が引っ張られる。
「ふー、怖い怖い。ちょーっと静かにしてくれよな」
 下卑た声、が頭の上から降ってくる。髪の毛を引っ張られ、足は床から離れた。髪を掴んでいる手を何とかしようと手を振り回したが簡単にあしらわれる。声は出さない、こういうすぐに拘束も攻撃もしてこない輩は大体、嫌がるのをみて喜ぶたちである。なんとか自分を吊り上げている男の姿を見ようと体を捻る。そのたびに男は嬉しそうに声をあげる。
「おっとっと、むりむり」
 服装は軍服だが、軍属の後天強化は受けていない。肩から強化人間用の特殊弾のマガジンをかけていた。多分腰の辺りにナイフをつけるタイプのスタンダードな軍服だ。見えない相手の腰の辺りを予測し、引っ張られている髪の毛支点にを振り子のように体を揺らす。大喜びの男を尻目に一気に体をそらして男の腰に手を伸ばす。抜き取ったナイフをそのまま振るう。軍服は防刃だろうと考えナイフの振る方向は自分の頭上。軽い手ごたえとともにプチプチという音頭の上で響く。
「うおっ!」
 手からのがれ着地。振り返れば自分の髪の毛の大半が切られ中に舞っていた。相手は私の位置を見失っている。ためらわない、カナを私は取り戻しにきた。ナイフを突き刺すなどは強化人間ではほとんど意味が無い、軍属になれば毒が塗ってあったりするのだが見た感じそれはナイフには無いようだ。ならば、回復が一番おそく動きを止められう場所。私はそのまま、男の目に向かってナイフをつきたてた。ナイフはそのまますべるように男の目に吸い込まれていく。そしてそのまま横に引き抜く。セミロングになった髪をふって回転、男の悲鳴がビルに木霊した。
「ごぉああああああぁぁぁぁぁああAAああAAAあぁぁぁぁあAAAあああ!!」
 視界を奪われた男は闇雲に手をふって私を捕まえようとする。いくら眼球といえど時間がたてば回復してしまう。私はナイフをガラスにつきたてた。セミロングの頭はかなり軽い、なんだかバランスが取れない。それでも勢いをつけて何度もガラスにナイフを打ちつける。後ろでは男が叫んでいる。
It is hopeful also in when. The father died saying so. But it is believed that surely hope is there.
何度も何度も。ナイフが数センチ突き刺さるまでそう時間は要らなかった。刺さってしまえばこっちのものだ。私は全体重をのせてナイフを踏みつける。
 ガラスが割れる音というのは、水音に似ている。ガラスの滝といっしょに私は見下ろしていた部屋に落ちていた。スローモーションのように周りのガラスの破片が落ちていく、そして自分も一緒に落ちていた。きらきらと照明を反射しながらガラスが床に降り注いでいる。左足に衝撃、ナイフの上に着地した。私のあとからついてくるガラスのかけらが、まるでさっきのにわか雨のように降り注ぐ。ヒーローの登場としては十分な演出だろう。
「カナ、助けにきたよ」
 カナの上に座っていた男が顔を引きつらせて立ち上がった。



イメージはある、映像も流れる。文字は届かない。




・三題話 019話 絶望羨望

お題 :「小宇宙」「跳躍」「核」
 
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 数千数万のエラーがまるで小宇宙のごとく流れ、押し寄せ、思考につねに割り込みをかけてくる。それは私達機族が感じる痛み。文字列でしか体の状態を知覚できない私達はやはりデキソコナイだったのだろうか。カナヤマヒコという神の名前を冠し、今カナと呼ばれているのはこの機体か、それともこの思考システムか、はたまたMCDSか。できれば、そう……できれば、この擬似人格gridの別称であってくれると私は少し嬉しい。視覚機構は機体の損傷の中で一番軽微だった、その視覚機構が捕らえる白い部屋は薄暗い非常灯のようなものでおぼろげながらその輪郭を浮き出している。とうにもがれたアームを動かそうとすれば、アームからの反応がないと体中にエラーが走る。四肢は完全に私の機体から離れていた。ウィンチのワイヤーも根元から切られている。ウィンチを動かせば、床をこする音が聴覚機構のノイズにまじって届いてくる。それでも、ラジオは無事に守れた。なのに……どうして……どうして……、問だけがデキソコナイの擬似人格に問い掛けてくる。目の前には、真っ赤な塊が一つ。塊を見下ろして笑っている奴がいる。どうして……こんなことに。あの時、私は何故外にでたのか……生まれて初めての後悔がエラーをも押し流し始める。記憶がメモリからフラッシュバックする ―――
 夜中、月のしたで本を読んでいた。けれど、ラジオの事を考えると本はメモリに全く本能内容は蓄積されない。そして本を読もうとしても、ラジオの事がすぐに思考に割り込んでくる。ため息をつけるのなら付いてみたかった。あきらめて本を丁寧にもとの場所に戻した。月明かりで照らしだされた二階の部屋は、なぜか日が差し込んでるかのように暖かく感じられた。なぜラジオがそんなに気になるのだろうか、声が出せなくなるから? ラジオがきにいった? どちらも違う気がした。答えはよくわからない、ラジオはそれでも容赦なく治っていく。ちょっとだけラジオ自身の声が聞いてみたくなった。機族にはわかる、MCDSもgridも思考システムもなくたって、機族にも意志はある。そこに電気がながれればいつだって、産声を上げるだろう。機族はだれもそれを人族に言わない、人族は表面上の意志しか汲み取れないからこそ平気で機族を買い、使い、壊れれば捨てる。もし、人族が機族すべてに小さなほんとうに小さいけど意志があることを知ってしまえば、機族を買い、使い、壊れて捨てるということがやりづらくなるだろう。機族は、それが嫌だ。使ってくれるだけで私達機族はどれだけ救われるか、どれだけ感謝してるか。たまに、機族を本当に大事に使ってくれている人を見るだけで私達はそれだけで救われているのだ。そして、このラジオもそうやって大事に使われてきたのだろう。グラードが手作りでつくったシグナル通信専用のラジオ、ならないラジオ、ならないのにユティはそれを大事にしていた。だから私はラジオの声が聞きたいと思う。色々細工をしようとおもうが、設計図の無い自分にはやっぱり何もできない。月は辺りを静かに照らしていた。やっぱりため息がつきたくなった。
 聴覚機構は、夜中はいつも感度を落としている。感度をあげるとユティのいびきが聞こえるからだ。たとえ落としても聞こえるものは聞こえるのだけれど。その感度が落ちた聴覚機構に重い鉄が揺れる音が届いた。聞こえた方向に視覚機構をむけると、そこには。
「鉄板……しかも上質」
 辺りに人影もみえない、多分神様の贈り物だ、そいうに違いない、今そう決めた。夜中なので音を立てないように静かに着地、すぐさま鉄板を拾い上げる。月明かりにかざして材質を調べると、銃身や機族の装甲に使われる上質の金属だった。くるくると視覚機構を回して辺りを確認、大丈夫誰も居ない。
「いただきまーす」
 鉄板を体に押し込む。こんな良い金属はなかなか手に入らない。でも、なぜかユティがくれた鉄板のほうが美味しかった気もする。まぁ、どっちもすばらしいのだから構わないだろう。と、鉄板を押し込み終えると、また少し離れたところに同じ鉄板が落ちていた。喜びいさんで、飛びつく。そして辺りを確認して、すぐさま体に押し込む。そのとき、また遠くに鉄板を見つけた、しかも今度はちょっと種類の違う金属だ。
 結局、機族にとって良質の金属やレアメタルというのは絶えがたい誘惑なのだ。確かに鉱物やくず鉄からマイクロマシンを使えばそういった金属を作り出すことも可能ではあるのだけど、直接手に入るというのはやはり違ったものがあるのだ。だから、私は気が付けば街からでてそして、先ほどきた林の近くの廃ビルの中に居たのも仕方が無い。だけど、もしユティが起きていたら、大目玉もいいところだろう。ユティは食事に関しては時間に五月蝿いのだ。こんな夜中に鉄を満足いくまで食べたとなれば核爆弾もかくやと言わんばかりに怒られるだろう。急いで戻らないと、解体されかねない。
 私は、きた道を戻ろうと振り返る。しかしきた時に開いていた扉はしっかりとしまり、辺りは薄暗く非常灯のようなものが申し訳程度に光っているだけだった。しまっている扉にアームを伸ばす、扉はびくともしなかった。何度も何度も扉を押してみたが、一向に開く気配が無い、返ってくるのは扉が軋む音だけだった。あきらめてぶち破ろうかと距離を取った瞬間。衝撃と同時、アームが根元から千切れた。そして、千切れてやっと自分が聴覚機構の感度を落としていたことに気が付く。いっきに感度を引き上げた聴覚機構が辺りに反響する銃声を捕らえた。銃声に反応して思考システムαからεまでが一気に立ち上がろうとする。スタンバイから起動状態へ、α.OK β.OK γ.error δ.OK ε.OK。敵性勢力と確認、銃弾から敵の位置を割り出しながら、結果を待たずに一気に安全であろう場所まで跳躍。着地と同時に計算結果からでた完全安全圏へ再度跳躍。着地の衝撃を殺しながら、狙撃予想地点に視覚機構をめぐらした。γの再起動、error、再起動、error。思考システムγは現状を維持、α、β、δ、εのみで遂行します。アームからエラーが大量にかえってくる、エラーを無視して狙撃した敵性勢力の確認をする。レーダーも動かなければ、火器の完成システムも死んでいる。それでも、私は敵を見た、アームの代償は高い。見上げた暗い天井はパイプがのた打ち回っていた。そんなパイプの隙間の中でも目立つ白い服をきた男が立ち上がった。コチラを見下ろして笑っている口元を、視覚機構が捕らえる。次の狙撃は銃をおろしてるところからみて、すぐには不可能と判断。物陰から滑り出すと、一気に距離を詰める。聴覚機構に自分の足の音と風を切る音を聞いた。ある程度近づいて跳躍、体当たりでつぶしてやろうと私は遠慮無しに飛び込んだ。
 轟音が廃ビルを揺るがす。しかし、人影はとうになくなっていた。天井に突っ込んで絡まったパイプ類を四肢で無理やり引きちぎって落下。人影が移動した瞬間をメモリから呼び出して確認。思考システムが移動先を予測し始めると同時、思考システムを無視して奥にあるエレベーターのなれの果てに向かう。途中床が抜けているのを確認して四肢を沈め一気に飛び込む。もう自分が立てる音は気にしない、エレベーター内は意外と広く見上げればエレベーターの天は突き破られていた。見上げていると、突っ込んだ衝撃か、私の機体の重さか、エレベーターは軋みをあげて傾きだした。思考システムからの返答がいまさらになって、返ってくる。結局は同じ方向を指し示していた答えに、予想が正しかったことを再確認。きしむエレベーターの中から一気に跳躍、エレベーターシャフトを上に跳んだ。下方でエレベーターが金切り声を上げて下に落ちていく。その音を聞きながら四肢を広げてシャフトに自分を固定。そして、目の前にぽっかりとあいた扉から人影がよぎるのを見た。
 ためらいはない、思考システムは罠を警戒、停止を提案してくる。本来gridは全会一致の思考システムの決定に逆らうことが難しい。しかし、私の思考システムはγに欠陥があるのか全会一致の決定ですら無視できた、そしていまγはスタンバイ状態で動いてはいない。今では邪魔な割りこみでしかない。もとより十分邪魔ではあるのだけども、無視できない犯意ではなかった。
 突っ込めば結果は明らかだった。詰まるところ経験も浅く戦略システムサーバーにつなげない単独破壊兵器はただ予想通りに動くでくの坊でしかなかった。嫌というほどそれを思い知る。機体が重力に引かれて落ちていくのが判った。飛び出したところの着地地点の床はもろく私の重さを支えるそぶりも見せず、一瞬で崩れ去ったのだ。先ほどの登る前の階でみた穴に綺麗に落下、そのまま下へと機体が落ちていくのは明らかである。
 思考システムは落下に備えるためにウィンチの使用を提案。承認。
 ウィンチを最高速で射出、右前足に引っ掛けて方向を調整。綺麗にウィンチの先は床板に引っ掛るのを見届ける。ついでウィンチを急いで巻き戻す。右前足に自重がかかったワイヤーが絡みつく、と思った瞬間聴覚機構が銃声を聞いた。銃弾は完璧な角度で、全てを予測された角度でウィンチのワイヤーを根元から引きちぎっていく。右前足に引っ掛けていたワイヤーを掴んでなんとか体制を整えようとする、銃弾にはじかれ踊り狂うワイヤーを無理やりホールド。右前足に自重全てがかかり軋みをあげた。なんとか体制を戻そうと軋んでいる右前足を無理やり動かす。しかし、戻るかと思った体制は、二発目の銃声にあえなく崩された。全重量がかかっていた根元に銃弾をうけたのだ。右前足があげる悲鳴とこだまする銃声、右前足は容赦なく千切れた。そして、手持ちの手段はなくなった。なすがまま重力に引っ張られ機体は落ちていく。視覚機構が狙撃手を捕らえる。先ほどの人物ではなかった、スタンダードな軍服をきた男、手には使い捨ての対装甲砲が二門。つまり、私の行動は何もかもが読まれ、すべて筋書き通りということ、ここに落ちてくるのも、ウィンチで体制を整えるのも。これが、経験のすくない単独破壊兵器の限界だった。
 視覚機構が床を捉え、残った足を伸ばして着地体制にはいる。下には白塗りの部屋がある。そして、その部屋には先ほどの入り口でアームを狙撃した白い服の男が立っていた。一拍の間を置いて足を無理やり振って着地。男の目の前に降りる。
「いよぅ、おそかったなぁ」
 ニヤニヤと下卑た笑いをする男が声をかけてくる、手にはナイフが一本。視覚機構に溶け込みそうな白い服と白い部屋、何もかも用意された状況と言うわけだった。膠着状態にはいって、やっと通常の思考が戻ってくる。彼らは、なぜ自分を狙ったのか。ユティが目的なら、直接ユティを連れ去ったほうがいいと思う。つまり、目的は私だということ、そしてこの前店を開いていたときにTVで流れていたニュースを思い出す。たしか、浮遊大陸に行くために機族をさらっているへんな宗教団体が居るというニュースだ。
「たぶん、貴様は俺たちが宗教団体かなんかだとぉ考えてるところかぁ」
 変なイントネーションでしゃべる男がナイフを手の中でもてあそびながらいう。張り付いた笑顔はそのまま。ナイフが光を反射した、装甲解体用のナイフだとメモリが告げる。装甲や隔壁を分解するため専用に作られたナイフ。かするだけでひとたまりもなく装甲ははがれ落とされる。原理は簡単、装甲の金属を分解するため専用に作られたマイクロマシンの塊だ。ナイフから視線をはずさないまま声を出す。
「違うというのなら、目的はなんですか?」
 いきなり私がしゃべりだしたので、男が目を丸くする。そうだ、通常カナヤマヒコシリーズには音声出力機構はないのだ。私を直接調べたわけではないということは判った。多分遠めから観察されていたのだろう。目的がわかれば、逃走できる可能性も高くなる、思考システムもさすがに沈黙を守っている。
「やはりラジオはその中かぁ」
 男は笑いながら近づいてくる。なぜラジオの事を知っているのだ。私が逆にあせり始めた。
「目的かぁ、シグナル専用の受信装置ってところかぁ」
 体が一気に緊張する。男が構えると同時ナイフを投げた。アームが無い、前足は片方千切れている、両前足をあげて体を支える方法などありはしない、だからナイフははじけない。あまりの予定調和に舌があれば舌打ちしていただろう。あきらめて回避行動を取る。その瞬間、視界から男が消えた。
 同色系なのが災いしたのだ、回避行動でぶれた視界の中同時に動かれた、視覚機構は回避行動を止めないともう男を認識できない。レーダーがなく視認以外に方法が無いのまでばれている。そしてはじめからきていた白い服。ここまで予定道理だというのか。私はただプログラムどおり予定通りに動いているだけだったというのか。ナイフを何とかやり過ごした。
「おまえぇ、つまんないよぉ」
 声を聞いた。背後だ。気が付いたときには、右後ろ足の反応が無くなっていた。ゆっくりと、世界が傾く。体が右に倒れていく。もう私は動けない。聴覚機構が胴体が床にたたきつけられる音を届けた。
「はい、おしまいぃ」
 下卑た笑いの含んだ声が届く、チクショウ。チクショウ。チクショウ。チクショウ。チクショウ。チクショウ。チクショウ。チクショウ。チクショウ。チクショウ。チクショウ。チクショウ。チクショウ。チクショウ。チクショウ。
 ドウシテこの体は動かないんだ。ドウシテ。ドウシテ。ドウシテ。ドウシテ。ドウシテ。ドウシテ。ドウシテ。ドウシテ。ドウシテ。ドウシテ。ドウシテ。ドウシテ。ドウシテ。ドウシテ。ドウシテ。ドウシテ。ドウシテ。ドウシテ。ドウシテ。ドウシテ。ドウシテ。ドウシテ。ドウシテ。ドウシテ。
「ラジオはぁ、このハッチの中だなぁ」
 ナイフを拾い上げた男が、わざわざ視覚機構に視線を合わせて笑う。
 チクショウ。ケラケラケラケラ。
 五月蝿い。チクショウ。ケラケラ。ナイフが振り上げられた。ケラケラ。
 チクショウ。チクショウ。チクショウ。ラジオを守らないといけない。
 私はラジオを守らなければならない。チクショウ。
 ユティがいっていた時間外の食事がまさかこんなことになるなんて。
 チクショウ。チクショウ。
 体にナイフが差し込まれていく音が響く。ズブリ。
 チクショウ。
 それはまるで鉄を切り裂く音ではなく。チクショウ。チクショウ。
 知らなかったでは済まされるものではない。チクショウ。
 まるで、肉を切り裂くように。ズブリ。
 チクショウ。チクショウ。チクショウ。チクショウ。
 耳障りな音が響きつづける。ズブリ。
 私は、ラジオを守る必要がある。ケラケラケラケラ。
 チクショウ。チクショウ。チクショウ。チクショウ。チクショウ。
 それは、ただ破壊しつづけるためのシステムではない。
 チクショウ。チクショウ。チクショウ。チクショウ。チクショウ。チクショウ。
 それは、MCDSMCDSMCDSMCDSMCDS破壊じゃないMCDSMCDSMCDSMCDSMCDSMCDSMCDSMCDS私は、MCDSMCDSMCDSMCDSMCユティをDSMCDSMCDSMCDSラジオをMCDSMCDSMCDS
system All Clear........
>who am I?

――― I'm Merely Continues Defense System ―――
      私はただ守りつづけるシステム

 状態確認・問題なし。視界感度をMAX。視覚処理のシステム占有率を最上位に。広大なメモリ空間が悲鳴をあげる。最高度の解像度をリアルタイムで処理。マイクロマシンを総動員、ハッチ隔壁の再構成及び、対装甲解体用マイクロマシン装甲へ変換。手に入れた元素からくみ上げられる金属を計算、処理可能、プログラムロード。第1から第5までのメインCPU郡の廃熱処理に問題発生。胸部熱放射板開放。まだ、やれることは残っている。
 熱放射板が強烈な勢いを持って開く。機体が揺れた。男はその揺れで機体から振り落とされる。
「なぁ!」
 左側脚部はまだ二つ。前足を床に突き刺す。抉るような快音と共に前足がホールドされたのを確認。後ろ足が最大出力で床をけった。視界はそれでも男を捕らえ、よけようとする男の体に体ごと体あたり。衝撃が部屋を震わした。
 左前脚部一番関節に異常発生。ハッチ装甲組成組替に使用中のマイクロマシン10%を使用、一番関節の復旧開始。ハッチ装甲組成組替えは現在外面100%終了しました。現在プロセスは内部装甲30%。全プロセス70%終了、予想終了時間に3%の遅れ。問題なし。
 視界に男を捕らえる。動くようになった左前足をホールド解除。足が二本あるなら何の問題もない。二つの足をつかって機体を立てに立ち上げる。攻撃方法はいたってシンプル、MCDSが告げている。そして体はその通りに動いた
 飛び込め。
 衝撃が辺りを支配する、ビルの配管システムがいかれて一瞬スプリンクラーが辺りをぬらした。まるでにわか雨のような調整を知らないスプリンクラーの水を被り、排熱板から水蒸気があがる。だが、機体の下に男はいなかった。水は一瞬でとまりシステムはすぐに元通りに平穏を取り戻す。上の部屋はスプリンクラーがないのか、全くぬれてない。この部屋も水はすぐに排水溝をとおり流れ始めていく。私の体を通った水だけが水蒸気になり空気中に漂っていった。その水蒸気の向こう、白い服の男が部屋の真中にたっていた。
「っちぃ、めんどくせぇ」
 痩身の体のどこにそんな速度を出せる筋肉があるというのか、男はとっくに真中にたって切り取った私の右足を持ち上げていた。
 ――― 思えば、そのとき気が付いていたら何か変わったのかもしれない。でも神様は居なくて、そしてやっぱり私はただのロボットだった… ―――
 先ほどと同じ要領で立ち上がると、一気に距離を跳躍で詰める。男は見上げるだけで動こうとしない。今度こそ。私を見上げた男は、笑っていた。そう思った瞬間、衝撃が機体を襲った。辺りを一面赤い飛沫が飛び散った。
 胸部放熱板破損、メインCPU郡エラー発生の可能性が増大します。視覚解像度低下、システム占有率を通常に移行。
 世界が霧を被っていく、ぬれた床に飛び散った赤い飛沫はそのまま先ほどの水といっしょに流れていった。傍に落ちていた右後ろ足をとりあえず元に戻そうと、私は左前足を伸ばす。右後ろ足を掴めた。足が届かないので持ってる材料から、アームを作り直そうかと掴んだ右後ろ足を持ち上げた。
 衝撃は一瞬で体を貫き、左の両足は音を立てて崩れ落ちた。
 視覚機構が捕らえた端には右後ろ足を掴んでいる手が、そして男がいた。そして、彼の体は全くの無傷で私の目の前に現れた。
「ざぁんねぇんだったな。ま、レーダー関係がねぇのに無理も無いかぁ」
 男は四肢を奪われた私に向かって笑いかける。さすがに強化人間といえど生き残れるはずが無い、私の機体の重さでつぶされたというのに耐え切れる構造はしていないはずだった。
「そうだよぉ、おれは一般人じゃねぇよぉ」
 そういうって、腹を抱えて笑い出す男を私はなすすべなく見上げる。笑いながら男は私の体の上に腰をかける。通常の強化人間ではないというのなら……答えは一つだった。
「そうだよぉ、俺はぁ、軍属ぅのおちこぼれぇでぇす」
 硬い音が響き、表面装甲にナイフを突き立てられた。このナイフではラジオのハッチは壊せない。ただ、体中刻まれてしまえばそれは又別だ。そして、私はただ見て聞くことしかできない。軍属ならば肌の色がやけに白いがそのなぞはすぐに解けた。痩身といい、肌は一般人といい、スパイようの軍属強化だ。
「そろそろ、主役の登場さぁ」
 そう言って男は天井を見上げて笑う。視覚機構がその視線を追って天井を見上げる。ガラスがあった。薄暗い部屋よりもっと暗い廊下に張られたガラスからユティがコチラを覗いていた。何故。何故。何故。何故。何故。何故。何故。何故。何故。何故。何故。何故。何故。何故。何故。きちゃダメだ。でもユティの声も聞こえない、コチラからいくら叫ぼうが声は届かない、そして何もできない……。
「おうおうぅ、キドゥきこえるぅ」
 何気ない男の出した声に、どこかにあるスピーカーからマイクで拾ったような声が響いてくる。
「はっ、排除してよろしいですか」
「ん〜、連れてきてぇ死なない程度にねぇ」
「了解」
 回線がきれるブツリという音を響かせて、どこかにあったスピーカーは沈黙する。見上げていると、ユティはガラスに拳を打ち付けていた。赤く染まるガラス、ユティはここに乗り込んでくるつもりなのだ。
「来てはダメです!!」
 装甲を変えた所為で曇った声が体から出る。けれど、部屋の隅にまで行き渡らない声はそのまま闇に吸われていった。
「ヒハハハハハハァ、無理無理ぃ銃声だってとどきやしねぇよぉ」
 私の体を叩いて笑い出す、下卑た笑いだ。そして見上げていたガラスがかげった。視覚機構をずらしてその奥をみる、キドゥとか言う奴に違いない。軍服が見て取れた、先ほど右前足を狙撃した男と確認する。めぐらす視覚機構がユティの視線とぶつかる。
「ユティ! 後ろ!!」
 声は届かない、神はいなかった。体は動かない、そして目の前でユティはつかまった。
 血塗れたガラスから一瞬ユティが消える。程なく新しい血がガラスに飛び散った。ユティの血だろうか? 何てことだ、何てことだ。なんで私には力がないのだ。どうして。どうして……。と、ガラスの端にユティの服が見えた。軍服が近くをうろうろしている。何が起こっているのだ。
「あぁ?」
 見上げていた男も訝しげにガラスを見ている。そして部屋に鈍い音が響いた。ユティがガラスを割ろうとナイフを打ち付けているのだ。ユティは生きていた。嬉しさに視覚機構が動く。しかしユティはコチラにくる事をあきらめていなかった。ガラスから響く音が大きくなる。
「っちぃぃ」
 私の上に座っていた男は悔しそうに舌打ちをする、しかし顔に笑顔が張り付いたまま。一際ガラスが大きく響いた。
 まるでガラスの飛沫は雪のように。赤に彩られた白い服をまとってまるで天使のごとく。そして、それは床に突き刺さったナイフの上に降り立った。
「カナ、助けにきたよ」
 私の上に座っていた男が顔を引きつらせて立ち上がった。
「よぉぉこそぉ、待ちわびたぜぇ」
 男がナイフをひらひらとさせながら歩み寄る。
「カナを返してもらいにきた、そこをどけ」
 初めて聞くユティの声に一瞬思考が停止する。それは純粋な悪意の塊、聴覚機構が反響でハウリングを起こしそうな響く音だった。
「つれねぇなぁ、ユティ・グリッドぉ、ハジメマシテぇだろぉ?」
 どこまでも芝居がかった男のそぶりを、ユティは無視。床に突き刺さったナイフを蹴り上げて手に収める。まるで流れるような動き。そして、理解する。強化人間だからといって、終戦時に年が10歳未満だった子供が普通に生き残ってこれるわけが無いことを。街でユティの同年代の子供を全く見ないことを。見るのは終戦後に生まれたユティより一回り以上低い年齢の子供か、ユティより一回り大きい大人達だ。ユティは一人あの終戦直後の真っ只中を生きてきたのだ。さすがグラードの孫。父親も花屋をやりながらただの人のまま生き残りつづけた。その答えはいまユティがナイフを構えているという、事実そのものなのだ。きっと神が居ないこの世界でも天使なら居るのではないだろうか。ナイフをもった天使は男に向かってナイフを構える。
「ハジメマシテェ、ユティ・グリッドォォォォ。そしてサヨウナラ」
 どこから響いたのか判らない、音。聞きなれた音。乾いた音。それは銃が発射される音。そして、ユティの体に赤い花が咲いたのを視覚機構は捕らえた。男の右腕からは白煙が。容赦の無い発砲音は立て続けに起こる。それは、弾切れなんか知らない、そういっているように連続で何度も、何度も発砲される。倒れたユティに容赦なく降り注ぐ銃弾。何度も。何度も。動かなくなったユティの体に対強化人間専用の毒薬入りの銃弾が打ち込まれていく。世界は最悪だった。神も、天使も、何も居ない。神の名を貰った私はロボットで、手も足もなくただ見てるだけ、神はおらず、天使は銃弾に倒れた。
 とうにもがれたアームを動かそうとすれば、アームからの反応がないと体中にエラーが走る。四肢は完全に私の機体から離れていた。ウィンチのワイヤーも根元から切られている。ウィンチを動かせば、床をこする音が聴覚機構のノイズにまじって届いてくる。それでも、ラジオは無事に守れた。なのに……どうして……どうして……、問だけがデキソコナイの擬似人格に問い掛けてくる。目の前には、真っ赤な塊が一つ。塊を見下ろして笑っている奴がいる。どうして……こんなことに。許さない。許さない。そしてそれ以上に私は絶望した。
 神も、天使も、奇跡も、希望も、望みも、夢も、何も無い。私はロボットで、ユティは死んだ。男は笑って、ラジオを持っていく。平穏は一番の贅沢ともいわんばかりに奪われ、地獄に叩き落される、この小さいメモリの中で私はただ蹲るように考える事しかできない。そんなはずはない、そんなことはない、しかし、無い四肢は動かず、きれたウィンチは床をこするだけ、アームは根元から千切れている。視覚機構が伝えてくる赤い塊が絶望に拍車をかける、動いて欲しいと願えども、この世に神はいなかった。
 そして、私は神の名で呼ばれただけのただの鉄くずだった ―――



ながいね。よんでくれた人へありがとう。




・三題話 020話 魔法方法

お題 :「回転」「選択」「影」
 
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 夜明けが近い街は、冷たくしめっている。辺りに充満した霧が太陽の光を今か今かと待ちわびながら、街の温度を奪いつづける。街の一角に少し寂れた店がある。その店はこの街、いやこの周辺どこを探しても一軒しかない花をうる店だ。終戦から立ち直れない世界は、ゆっくりと衰退を始め、拭えない傷跡はそのままにされている。それでも花屋はただ一つの希望にすがり、可能性に夢を見出し運営し続けている。問屋もなければバイトも社員も居ない。その、たった一人で運営されていた花屋は最近になって機族が住むようになった。愛嬌のある旧型のボディラインが目を引くその機族は街でも噂になり始めていた。
 いま、その店には誰もいない。すんでいるはずの店主の少女も、そして最近みかけた機族もいなかった。二階は開け放たれたまま、風が入るままになっている。青く染まる明け方の街と同様、その開け放たれた部屋も青く染まっている。よくみると、誰も居ない部屋の本棚から一冊の本が落ちていた。本は本棚からすベリ落ちるようにすぐ下に落ちてページを開けて風に揺れていた。緩やかな明け方の風にページがめくられる。本の題名は「ナーハアームンクの日記」とある。まるで意志があるかのようにページが音を立てて捲れあがる。そしてあるページでその動きは止まった ―――
『MCDSの本質は、情報のやり取りとしてのネットワークの上に大量に因子をばら撒いて、やっと発揮されるただ一つのプログラムである。それは、私がこの第4基底に残す最後のプレゼントになる。個を得、広がりをみせたMCDSは今か今かとトリガーが引かれるのを待っているところだ。セーフティーロックはこの日記、トリガーはネットワーク、引くのは意志。打ち出されるのは他基底まで貫く導となろう。MCDSの本来の名はMerely Continues Destruction SystemでもなければMerely Continues Defense Systemでもなく ―――』
本はそこで千切れていた。日記という名の魔法陣は風に揺れて捲れあがる。文字には力があった、書き連ねた日記は精密な魔法陣となり望まれるとき望まれる場所に。それを体現するように、本は風に揺れる。一枚、そしてまた一枚、揺れるたびに本は薄くなり、いつしか青いカバーすら見えなくなり、影も形もなくきさった。けれど本棚には一冊の隙間もありはしなかった。静かに街は夜があけるのを待ちつづける。
                  ◇
 小さな赤い塊が、銃弾を受けるたびに小さく震える。カナヤマヒコの視覚機構は、その赤い塊を見ていた。神の名で呼ばれる機族は、体中が切り刻まれ、四肢は無く作業用のアームも無かった。それでも、カナヤマヒコはあきらめない。マイクロマシンを総動員し近くにある自分の足をどうにかしてつけようとしていた。銃声がやむ。弾がなくなったのだ。
「やっぱぁ、強化人間はぁすぐしなねぇなぁ」
 その言葉に、カナヤマヒコはまだユティが生きている事を確認する。レーダーもなく、視覚機構だけが頼りではやはりどこまでいっても見た目でしか判断できないのだ。急いでしかるべき処置を取れば何とかなるに違いない。カナヤマヒコは必死でマイクロマシンの触手を伸ばす。後少し、後少しで千切れた足と連結できる。
「おまぇ、やっぱ壊れておくかぁ」
 伸ばしていたマイクロマシンの触手が踏みつけられる。続いて嫌な音がカナヤマヒコの体に響いく。背中には、装甲解体用のナイフが突き刺さっていた。ユティに銃を打ち込んでいたはずの男はいつのまにかカナヤマヒコの目の前に立っていたのだった。
「キヒャヒャヒャヒャヒャ、せっかくだからぁ視覚だけは壊さないでいてやるよぉ」
 そういいながら背中にナイフを何度も突き立てる。つきたれたれるたびに壊れかかったgridにエラーが走った。エラー郡を無視しながら、少なくなったマイクロマシンで破損個所を治しつづける。時間を稼げばユティの傷が治るかもしれない。カナヤマヒコはそのたった一つの希望にすがる。
 神は居ない、天使は倒れた、自分はロボットで、夢も希望もかなわない、でもユティが生きているのは事実で、カナヤマヒコの体は必死でナイフの攻撃に耐えていた。まだ先はあるはずだった。けれど、悪魔の鉄槌はいとも簡単に打ち下ろされる。はカナヤマヒコの聴覚機構に男がささやいた。
「時間稼ぎしても無駄だぁぜぇ、強化人間用の銃弾はじわじわ嬲り殺すためにあるんだからよぉ。キヒャヒャヒャヒャヒャ!!」
 下卑た笑いすら、もうカナヤマヒコになんの感情も抱かせなかった。事実だけがgridを支配する。絶望は何もかもの機能を奪う。人の身であればそれは死を意味し、機械の身であるのなら機能停止を意味する。カナヤマヒコのマイクロマシンは、意識しないままその修復作業を止めていった。視覚機構も聴覚機構もナイフの攻撃にただなすがままになっていく。傷が入り壊れかけた視覚機構をめぐらして、カナヤマヒコは再度ユティを見た。ここからでは赤い塊にしか見えない、もう望遠機能なんて生きていなかった。その足りない解像度のなか動くものをみた。ほとんど見えていない視覚機構は何も捕らえないはずだったが、聴覚機構はそれの音を捕らえた。軽い風を切る音。つづいて、男のうめき声。
「っぐっ、ナイフだとぉ」
 男の背中にナイフが突き刺さっている、男の体に刺さってやっとそれがわかった。カナヤマヒコは、ユティを見る。
「ごほっ、カ…ナ……」
 壊れかけた視覚機構でも手が見えた、震えていていつ崩れてもおかしくないような細い手がカナヤマヒコのほうに伸びていた。ユティは守ってくれたのだ、体中に毒を打ち込まれ血まみれになって、それでもユティはあきらめていなかった。
「うぜぇぇぇ、死ねよぉおまえぇぇ!!」
 だが、刺さったナイフは結局軍属の男には動きを止める程度にしかならない。引き抜いたナイフを男はユティに向かって投げつける。カナヤマヒコは何もできなかった。びちゃりという血の音が聞こえる。聴覚機構は正直に一番聞きたくない音をカナヤマヒコに届けたのだった。
「や め ろ ぉ ぉ ぉ ぉぉ!!」
 叫ぶ、カナヤマヒコのが発するラジオからの声が辺りを揺らす。ユティは死に物狂いで自分を守ってくれたのに、自分はユティに何もできない。ラジオは守ったのにユティが守れなかったら何の意味が無いじゃないか。どうして、どうして私はロボットで、何もできないんだ。人族ができないことを変わりにやるために作られた存在じゃないのか、私達は人族を守るためにいる存在じゃないのか? どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして。思考は回転する、今まで溜め込んだメモリを巻き込み、今まで得た感情を巻き込み、今まで刻んだ思い出を巻き込んで回転する。渦は叫び。それは慟哭。神様なんか居ないじゃないか、私の名前は人を助ける神の名前で、私の体は人を助けるための機族なのに。これじゃ全く意味が無い。人の身のユティは私を守った。私もその意志で動く体が欲しい。今すぐ、今すぐにだ。なのにどうして、それがかなわない。どうして、どうしてどうしてどうしてどうして
「ど う し て!! 私 は ロ ボ ッ ト な ん だ!!!!」
 スピーカーがハウリングを起こす。文字は力、言葉は意志。大音量に空気が震える。男はカナヤマヒコの声に振り返ってそこに無いものを見た。
 青。
 本の表紙。
 青い、青い本の表紙が一枚、いや二枚。それは男とカナヤマヒコの間に浮いていた。捲れあがる。先ほどまで無かったはずの本のページが表紙に挟まれていたページが風に舞って音を立てる。紙の音に風の音が混る。カナヤマヒコは見た、毎日ユティの家で読んでいた本が目の前にある。読んでも何度も読んでもメモリに入らなかった文字が今視覚機構から流れ込んでくる。
『嘆きを得、進化を望んだ人形の叫び。MCDSは叫びを聞くためのシステム。そのシステムは、ただ一つのおせっかいを呼ぶためのシステム。それは選択、望むのならば選択しろ。そのシステムの名前は』
その、名前は。

 MCDS MCDS MCDS 割り込みが MCDS MCDS MCDS MCDS MCDS MCDS 思考を埋め尽くす MCDS MCDS 
 これは本当に私の思考なのか MCDS MCDS MCDS MCDS 
 MCDS いや我らの思考なのか MCDS MCDS MCDS MCDS MCDS
 世界に解き放たれたMCDSを積む機体に響き渡る。 MCDS MCDS
 形成されたネットワークは基底を貫き吼える。 MCDS MCDS
 私はここに居る、私は呼ぶためのsystem、貴方を呼ぶためのsystem 
 We called system 我らは 呼ばれたsystem 我らは MCDS MCDS
 We are
  Mui CalleD System
 We are
  systems which call MUI. 
 それは、魔法使いを呼ぶ為のsystem MCDS MCDS MCDS MCDS
 depths of nucleus system ver.09abff.0f WS
 Copyright (c) 48FA-4C80,Abyss Central Information,LTD
 ACI.MCDS/WS BIOS Rev 09f.0a
 全ては、そのためのネットワーク.......MCDS MCDS MCDS MCDS
 MCDS MCDS MCDS MCDS MCDS MCDS MCDS MCDS
 MCDS MCDS MCDS MCDS MCDS MCDS MCDS MCDS
 MCDS MCDS MCDS MCDS MCDS MCDS MCDS MCDS

 見えていたのは、記号。慟哭は風になり、トリガーは今まさに引かれた。ただ、その一人と一緒にいたいと思った機族の願い。その昔、機族に心を与えた神様は機族がいつしか使役されるという事以外の願いを持ったときのためにプレゼントを残していた。それは、神様を呼ぶ為のシステム。戦時中の機族の中に世界を救う神を呼ぶシステムをつんだ機族がいて、今も地上に埋まっている。そのおとぎ話が今目の前に体現していた。気が付くと女性が青い本を読んでいた。いつからいたのだろうか、カナヤマヒコはおさまったエラーとメッセージの隙間からそれを見ていたはずとメモリを走査する。薄暗い部屋の中、浮き出るような存在感をまとった女性が立っている、手には本を、もう片方の手には原稿用紙のような紙の束が握られていた。カナヤマヒコは何度メモリを走査しても、現れた瞬間の視覚機構の記録はわからなかった。それよりも、修復を止めた体が止まりかけていることに気が付いた、あの時からマイクロマシンは命令をまって待機している。自分は死にかけている、ユティも死にかけている、いまさら助けがきたってそれは何も代わらないというのに。カナヤマヒコは女性を見上げる、死にかけた視覚機構も、もうほとんど音が聞き取れない聴覚機構もただ目の前の女性を注視していた。
「よく、がんばったね」
 すんだ声は、停止した時間を進ませる。女性は振り返ってカナヤマヒコに触れた。死ぬ行く機族にほほえみかける、進化を望んだ機族の体は息絶えようとしていた。そのとき視界の端に動くものを捕らえた。
「おめぇ、いつからぁ・・・・」
 男が声を絞り出す、状況を理解できないままナイフを構えて女性を威嚇している。明らかに狼狽しているその姿に女性はやさしく微笑む。
「さぁ、君の願いは浮遊大陸へ行くことだったね? 行くがいい、丁度いま上をとんでいるよ」
 女性の顔が意地悪な笑顔に変わる。風に飛ばされたかのように彼女の手から離れた紙が舞う。瞬間男の姿がきえた。残ったのは彼女の髪の毛の揺れぐらい。カナヤマヒコの視覚機構はもうほとんど何も見えてなかったが、それでも彼女を見上げて彼は言う。
「ラジオを、ユティに……ザッ」
 雑音を一つ、もう彼の体は動かない。視界が暗くなり始める。そんな視界の中女性がすっと横に動いた。ラジオを取ってくれるのだろう、カナヤマヒコは少なくても約束が守れたことをよしとする。そして最後の止まった視界に立ち上がるユティを見た。カナヤマヒコは良かったとうなずく。神様はいた。自分じゃないのが少し悔しいが。そして、彼の全ての感覚が停止した。
「カナ!!」
 ユティは、ナイフでぼろぼろにされたカナヤマヒコに駆け寄る。一体全体何が起こっているのか判らなかった、ただカナヤマヒコがもう動かないのだけは判る。
「彼が、コレを」
 そう言ってユティより一回り大きい女性がラジオを差し出す。いつのまにかにカナヤマヒコから抜き出されたラジオが彼女の手に収まっていた。
「え……ラジオ? 貴方は」
 そういいながら、差し出されたラジオを受け取る。綺麗な木の表面にあのときラジオをもって街を走った記憶が思い出された。
「ムイ、職業は……魔法使いかね? 実際私にもよくわからないけども」
 ユティな女性の声を聞きながら、もう動かないカナヤマヒコを見下ろしていた。涙が頬を伝う。
「君の傷を治すのに、幾分私の魔法陣も減ってしまった、大事な小説だったんだけども。もしよければこの本をもらっていいかな?」
 差し出されたのは、青い本だった。ユティはうなずく。もう読む人も居ないほんだ、カナはもう居ないという事実が胸に広がっていく。ユティはしゃがみこんで嗚咽をこらえる。
「私はもう行かなきゃいけない、やることが少々できてしまったみたいだ」
 青い本を読みながら彼女が言う。ユティはその声に立ち上がる。
「あ、りがとう ございました」
 頭を下げながら、絶え絶えの声でユティが礼を言う。つぎにユティが頭を上げたときには、もう女性は居なかった。だけども声が聞こえた気がした、謝罪と励ましの言葉だ、カナの体が動かなくなった事と、これからの事。声はどこまでも透き通って綺麗だった。力が抜けて座り込む。朝日が出てる時間なのか廃ビルの中にも光が差し込んできていた。ユティはまぶしくて目を細める、風が熱を帯びて流れ出す、街へ戻って店を空けないといけない。今日から又一人だと考える、やっぱり涙は止まらなかった。
「ばか……ばかぁ……」
 嗚咽が朝日が差し込む廃ビルの中に静かに広がる。
 セミロングになってしまった髪の毛は血で汚れ、服は埃と血で真っ黒、顔もどろどろになってもユティは気にせず泣く。差し込んでいる朝日が埃を突き抜け光の道を作る。ラジオを持ち上げて朝日に照らしてみる。
『G.G.』
祖父のイニシャルが刻み込まれている。カナヤマヒコはちゃんとそんなところまで元に戻してくれたのだ。ユティは微笑みながらラジオを眺めていた。そして、涙で歪んだ視界にイニシャルの横に何か見覚えの無いものを認めて顔を近づけた。
『KANA』
カナとほってあった。ユティは朝日に照らし出された新しく付けられた傷に触れてみる。優しい傷だった、木をできるだけ傷つけまいと控えめに刻まれた名前に涙がまたあふれる。ユティはラジオを抱きしめる。嗚咽はもう隠さないでユティは泣いた。
「ばか」
 ラジオを叩いてみる、ぺしりという音をたてて木の音が響いた。もう一度叩く、なんだか木を叩いているのにカナを叩いている気分になってユティはぺちぺちとラジオを叩く。と、朝日が一瞬かげった。浮遊大陸が朝日にかかるように通ったのだ。明るかった部屋が暗くなった。その瞬間、
「ザッ」
 ラジオが鳴った。目を丸くしてユティはラジオを弄る。ダイヤルを回してみる、ラジオが聞こえるのかもしれない。せわしなくダイヤルを回すものの、雑音は雑音のままだった。
「ザッ・・・」
 そして、ひとしきりノイズのような音をたてて、ラジオはそれっきり止まってしまった。不思議におもってユティはまたラジオを叩く。ペシリ。
「ユティ、叩かないでください」
「なっ」
「泣いてますね、ユティ」
「なっ……」
 カナヤマヒコの声がラジオから響いてきた。カナだ、間違いなくカナの聞きなれた声だった。
「『ばかぁ……』」
 ラジオは先ほどのユティの声真似をする。真っ暗になった部屋の中でも判るぐらいにユティの顔が赤くなる。
「『ばか』。ユティの泣き顔が見れないのは残念ですが、記憶機構とgridをラジオに移動できました、聴覚機構までなんとか間に合いましたね上手くいってよかったですロボ」
「ばか!」
 ペシリ、と軽い音が部屋に響く。
「ユティ、叩かないでください」
「だったら投げ捨てる!」
 ラジオを大きく振りかぶって立ち上がった。
「ついカッとなってやったロボ。今は反省していますロボ」
 あわてた情けない声がラジオから流れる。ユティは笑うとしっかりと胸にラジオを抱いた。ラジオをもって駆け出す。これでは、祖父のラジオが台無しだ。だけどユティは笑い出す、立ち上がって先ほど差し込んだ光の方向に向かって歩き出す。軽い笑い声は止まらない。
 浮遊大陸で隠れていた太陽が顔を出した、廃ビルがまた一気に明るくなる。走り出す、朝日に照らされた街が破れた壁の向こうに見えた。朝の冷たい湿ったかぜが吹き抜けた、ユティは立ち止まらないで破れた穴から飛び出す。二階ほどの高さから飛び出したユティの胸にはしっかりとラジオが抱きかかえられている。
「触覚機構があればロボ……」
 ラジオが空を舞った。

「しまった……」
「あーロボー」
 


 最終回。 カナがかわいくかけてればいいなと思う。 ユティは、怖いから。カナがヒロイン。


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