失われた音を求めて
佐久間さんのお話と音楽
 1995年11月25日千葉県富浦町 琵琶倶楽部にて

●琵琶倶楽部
最近増えてきた「道の駅」。一般的には地元の物産を販売するドライブイン
風の施設だが、琵琶倶楽部では、文化サロンとしても活用していく計画であ
る。定期的に各界の著名人を招待しての講演などを計画しているが、その第
一回として佐久間さんが招待された。なお、文中にもあるように、館山のと
なり町である富浦町は、佐久間さんの故郷ともいえる町である。

 ただいまのご紹介にもありましたように、私は生まれは東京なのですが、こち
らで小さいころから育ち、18年間こちらにおりました。そんな関係から、今日第
一回のヒアリング会の講師として招かれたわけですが、これは私にとってたいヘ
んうれしいことです。
 今日はあまり難しい話は抜きにして、昼下がりの時間をみなさんと楽しく過ご
していきたいと思っています、どうぞ宜しくお願いします。

音楽を聞いていただくまえに、少しお話しをしたいと思います。近代のオーディ
オ技術というのは、原音忠実再生の歴史であります。それは、自然な音の再生、
つまりHi-Fi化、ダイナミックレンジの追及、SN比の改善に他なりません。
 難しい言葉が並びましたので、簡単に言うと、いかに生の音に近づけて再生す
るかというのが、近代のオーディオの歴史です。
 その音響技術の発達とともに、歴史の彼方へ埋没してしまった蓄音機というも
のがあります。
 現在のオーディオからすると蓄音機から出る音は、決していい音ではないとい
われていますが、この蓄音機から出てくる音は、非常にノスタルジックな、心暖
まる音がします。
 本日は、本当の蓄音機ではないのですが、ここに、面白いものを持ってきまし
た。
 これは楽器のチューバです。ある中学のブラスバンドが廃棄処分したものをも
らってきたのですが、そのマウスピース、吹口のところへ、ドライバーと呼ばれ
ています小さなスピーカーをつけたものです。ようするに普通は人間が吹いてい
るのですが、人間の口の変わりにスピーカーで吹かせようという、そういう発想
で私が作りました。
 これは非常に蓄音機に似た音がします。このナローレンジ、再生する音声帯域
が狭いという意味ですが、普通のスピーカーは10Hzから3万Hzくらいまでは十分
可能なのですが、このチューバで再生される昔は、500Hzから4000Hz、普通の近
こういう新しいものと古いものの良いところを組
み合わせて音楽を楽しもうというのが…

代音響の1/3くらいの非常に狭い周波数の範囲でしか再生できません。
 身近な例で申し上げますと、みなさんが電話でお話しになっている昔声がちょ
うど500Hzから4000Hzくらいですから、それと同じくらいの帯域だと思っていた
だくとお分かりになるかと思います。
 つぎにここにあります真空管アンプについて説明します。
 これは先日、館山市の博物館でのヒアリング会に向けて製作したものですが、
ナローレンジ再生専用のアンプです。それからここにあるのはDATという機械
です。カセットデッキをデジタル化して高性能化したものです。
 これを使いますと、CDやレコードから元の音を劣化させずに録音することが
できます。普通のカセットデッキですと、どうしても元の音に比べて録音した音
は、音色が劣化してしまうのですが、そういったことがありません。非常に近代
的なオーディオ機器ですが、こういう新しいものと古いものの良いところを組み
合わせて音楽を楽しもうというのが私の考えです。
 それでは、ここで一曲、エディット・ピアフのシャンソンで「バラ色の人生」
1945年の録音ですが、これをお聞きください。
(略)
今、真空管が見直されているのも、音楽を大切に
しなくてはという反省、風潮なのかもしれません

「機械を手芸として扱ってはならない、機械と共
存することが重要だ」そのコクトーの言葉を……

僕は従属しない全ての形に、そして僕はあえて言
う。オーディオは測定器の奴隷ではないと



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