お向かいのおばぁちゃまが亡くなられた。   98歳。

私が、この家に住み始めたころ、お元気だったけれど、痴呆症状が出始めてこられ、よくご近所を徘徊されて、見かけたらお知らせに伺ったりしたものだった。

お向かいのおうちは、はた目に見ては決して幸福とは言えない重いものを抱えていらっしゃると、そのころの私は思った。

お向かいのお嬢さんはお腹の中ではせっかく健康に育ったのに、逆子での分娩が長引いて脳に酸素が行かず、重度の脳性麻痺として産まれてこられた。

ご両親は施設に預けながらも一生懸命育ててこられていた。。。

それなのに・・・おばさんはあんなにいろいろお嬢さんのために長生きしなければと健康に気を使っていらっしゃったというのに癌であっけなく亡くなられた。

おじさんは、いつも淡々とされているけど、どんなにか気落ちされただろう?

いつか、引っ越して間がない頃、「月下美人が咲いたので見に来ませんか?」と招待され、丹精こめて育てられたお花を鑑賞させていただいた事があった。

あれからずいぶん日がたって、おばぁちゃまのお参りに今回おじゃまさせていただいた。 おじさんの性格そのもののように、どこもかしこもきちんとかたずけられていて、寒い季節になんだかよけいに寒かった。

おばぁちゃまのお顔がとってもやすらかで、おじさんが、アルバムを1ページまた1ページと繰って「この頃は・・・あの頃は・・・」とお話してくださった。

痴呆になったおばぁちゃまを、とっても愛情持って懐かしそうに思い出を話されている・・・

いろんなことがあったとしても、その人の生き方は、不幸にもなり幸福にもなるって、おじさんを見ながら思った。

運命を受け入れ、逆らわずに生きていらっしゃるその姿に胸にくるものが確かにあった。

おじさんは、障害者のおじょうさんをみるというまだ、人生の大きな仕事をもっていらっしゃる。。。

2000年2月